木材の積極的な利用が広がりきっていない下で、それ以上に広がっていないのが銘木です。その原因は、一般木材以上に銘木への理解と知識が希薄なところにあるからだと考えられます。それを生んだ根本には、戦後の家づくりで木造住宅の排斥がすすんだことにあるのですが、あくまでもこれは客観的要因です。ところが、この客観的な要因を打ち破るべく銘木業界の取り組みが、必ずしも十分でなかったと言えますし、家づくりに携わる立場の人々が、銘木に目を向けなかったという問題もあります。建築関係者が目を向けなかった大きな理由は、高価すぎて手を出せそうもないという感覚や、流通が不透明でどこへ行けば手に入るのかわからないとか、銘木にはどのようなものがあるのか知られていないことなどがあげられます。銘木としての地位が確立されたのは、昭和期に入ってからで、歴史は浅いと言えば浅いのですが、実際には飛鳥・奈良時代以降の建築で、その主となる箇所や目に見える大切な所に使われてきたのが、銘木と言われるものであったと考えられます。その意味で、銘木は、昔から日本の木の家の中で、家を支える主材料であり、表情を求められる部位での趣きであったと言えるものです。このように考えれば、日本の家づくりの歴史の中で、銘木の存在が影を薄くしたのはわずか数十年のことでしかないのです。昔から、木の家を引き立て、住み人に喜びと誇りを持たせていた銘木の輝きを、21世紀に引き出すことの意味は大きいと考え、特集にしました。銘木の新しい発展の一助となることを願っています。