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近代住宅は健康を破壊している

シックハウス症候群はなぜ生まれたか

アレルギー体質をつくった社会と住宅を斬る  

●住まいが病気を生む?シックハウス症候群という病名がつけられ、社会問題として広がって6~7年になるでしょうか。
住まいが病気を生むなどという恐ろしいことが、雨後の筍のように各地で発生したのですから、これは大変なことでした。
マスコミで「シックハウス」という文字が出はじめた当時、「これは何か」という質問が随分ありました。
家が病気を生み出すなどという非常識が通用していない頃ですから、木材を供給する人たちや、真面目な建築関係者に疑問や驚きが生まれたのは不思議ではありませんでした。
ところが今では、家が病気を呼び、不健康を生む所であるのが常識のようになり、健康を維持できる家を求める人が増えています。
なぜこれほどまでに病気や健康との関係で住まいが問題になるかについて考えないわけにはいきません。
健康の問題は、「木のこころ」が一貫して取り上げてきたテーマのひとつです。
その理由は、健康であるべきことが、生物の当然の姿であるにもかかわらず、人間社会においては20世紀の進行とともに不健康が拡大されてきたからで、このことは、木と木の家、自然と人間の関係、日本の歴史と文化という本誌の主論と切り離せない関係にあるからです。
 シックハウス症候群の文字を新聞紙面にみることは、以前より少なくなりましたが、新築住宅・マンションなどでの被害が減少したわけではなく、報道されていないだけです。
新築でも激しい症状を引き起こすものは減少しているにしても、根本が改善されていないものが多くを占めています。
一方では、相変らず「健康住宅」を標榜する住宅が盛んに宣伝されています。
そこで、改めて健康と健康破壊に触れながら、シックハウス問題と今後の課題について考察してみます。
●健康を、守るから育てるへ健康であるということは、病気でないというのは当たり前で、それに加えて心もすこやかで肉体も元気で、まわりに明るさと幸せ感をもたらせる状態であることを指しています。
本誌創刊号でも書いたように、WHO(世界保険機構)では、健康の概念を「単に病気でないとか、身体が弱くないとかというだけでなく、身体的にも精神的にも、そして社会的にも充分調和のとれた状態」のことを言っています。
また、健康と訳されるヘルスの語源は、ギリシャ語のホロスで、完全を意味し、全体に調和のとれた完全な状態を指しています。

ですから、健康であるということは、心身ともに調和のとれた良好な状態にあることを指すことになります。
不健康や病気を意識することのない状態でもあるのですが、現代社会では真の健康を得ることはなかなか難しいのが実情です。
現実には、日本人の大部分が不健康で、病気を持っている人が過半数を占めているとも言います。
 国家予算に占める医療費は年々増加し続け30数兆円、実に40%にもなっています。
ある試算では、このまま行けば20年後には80兆円を超えると言っています。
これだけでも国家予算はパンクしてしまうことになります。
政府は、健康保険の加入者負担を現在の20%から30%に引き上げる方針で、野党はこれに反対していますが、医療と医療費の問題をこのような次元で論ずることはまったくナンセンスです。
生活全体を取り巻く環境と今日の医療の在り方を見れば、病気は深刻さを増しながら増えても減ることはないでしょうし、根本的な治癒は考えられないでしょう。
社会環境のすべてを改善し、医療の考え方を抜本的に変革しなければ問題の解決はあり得ないと言えます。
しかし、これはそれほど簡単ではなく、一朝一夕にできることではありません。
ではどうすればいいのかということになるのですが、求められるのは、病気と不健康の根本原因を知り、その改善に努めることがひとつです。
何よりも大切なことは、病気を治すとか、不健康要因を防止するという対症療法的な対処から抜け出し、健康を育てるという視点に立っての生き方、暮らし方、考え方を打ち立てることと、健康を育てるための対策を講ずることしかないはずです。
●環境が健康を破壊しているシックハウスの問題に入る前に、なぜこれほどまでに不健康と病気が広がってきたのかについては、これまでも考察していますが、改めて考えておきます。
健康が国民的規模で求められるようになったのは1980年代から90年代にかけてで90年代になると健康への要求は年々急増してきました。
健康破壊をこれほどまでに拡げ、健康への要求を急増させたのは、第1に地球環境の悪化があります。
化石燃料の大量使用によるCO2の増大を主因とする大気の汚染、都市化現象と森林破壊による温暖化や気象異変、これらと関連しての土質や水質の低下生態系の異変等々があげられます。
この環境破壊の進行をもっと顕著に証明しているのが生物種の減少で、近代工業化社会の発達につれて絶滅する生物種の数がウナギ登りに急増しています。
(本誌第2号「人間も自然に生かされている」参照)第2に、化学物質や農薬・薬剤などによる環境被害と人間の被害、抵抗力や治癒力の低下があります。
自作農家が食べない早成のための化学肥料や薬剤づけの農産物、遺伝子組み替え食品、狂牛病等に見られる自然の掟を無視した畜産品、メーカー関係者が食べない肉類や乳製品、化学調味料と防腐剤でいっぱいの食卓やレトルト食品等があります。
薬害エイズや公害等にみる薬剤や化学物質による直接的な被害などもあります。
第3に、現代病を引き起こす大きな原因のひとつとされるストレスを生む社会環境があります。
現代医学は、病気に対する治療を主な仕事としていますが、病気を生み出した根本原因についての究明は遅れています。
とりわけ、原因が直接確認しにくい心や精神にあるものの究明についてはかなり立ち遅れていますが、精神的圧迫からストレスやマイナス感情が神経や細胞にダメージを与えて病気の原因となっていることが明らかにされてきています。
このストレスを呼ぶ要因は様々ですが、それらの元はモノ、カネ、欲の現代社会による差別や競争・貧困などにあります。
第4にあげられるのが、プレハブ住宅をはじめとする洋風住宅やマンション等が、健康破壊の器となっていることですが、これについては後で詳しく論ずることにします。
●経済成長が健康破壊の根源大きく見れば以上の4点が健康破壊の原因となっているのですが、これらはいずれも戦後を主とする近代工業化社会=資本主義社会の発展とともに被害を増大させてきました。
これらのもたらす被害が、直接の病気だけにあるのではなく、自律神経の正常な働きを阻害し、人間の本来的な機能である自己治癒力、免疫力、抵抗力を著しく低下させていることです。
この自己治癒力、免疫力、抵抗力の低下が、現代人を脆弱にし、細菌にたやすく犯されるとか、アレルギー体質になるとか、病気を長引かせることなどにつながっています花粉症の広がりなどは、花粉量の増加以上にこれらの要素が背景にあることを見ることが大切です。
アトピーを例にとると、胎児の時に、母親が酸化電位の高い水道水や化学合成食品を多く摂取していたり、化学合成シャンプーを多用していると、羊水が汚れ、その結果アトピーの子どもができると言います。
これらを通して言えることは、自然の循環の乱れ、自然の営みに背いた暮らし、経済優先で科学と化学に依存し続けたことなどが今日の健康破壊の深刻さを招いたと言えます。
近代工業化社会=資本主義は、経済発展と豊かさのために自然を支配し、征服しようとしてきました。
砂漠の民が森を食い尽くして文明を滅ぼしたように、自然と資源を貪り食うようにして20世紀的発展を押しすすめてきました。
自然の蘇生や環境保全などの視点を持つことなく繰り広げられた資源の略奪、乱開発エネルギーの大量消費、大量生産が地球の危機を大きくし、健康破壊の根源となっていることに、目を向けなければなりません。
●シックハウスの根っ子は洋風化社会全体が健康を蝕む要因で取り巻かれている上に問題になるのが住まいです。
ストレスを溜め、汚れた空気や水を摂って疲れて帰った現代人が、緊張を取り、ゆっくり寛ぎたいところが住まいです。
住まいは誰にとっても帰るべきところであり、疲れを癒し、ストレスを解放して英気を養うべきところです。
ところが、この住まいが病気を生む器になっているのですから、住まいと住まい方について根本的に考え直さなければなりません。
一般にシックハウスと言うと、ホルムアルデヒドを代名詞にする接着剤などの化学物質が取り上げられますし、最近はトルエン、キシレン等の可塑剤も言われるようになってきました。
主なものでも30種類以上あるとされる揮発性の有機溶剤(VOC)の中でもホルムアルデヒドがシックハウスの犯人にされています。
もちろんこれらが良いなどというものではありませんが、ホルムアルデヒドがシックハウス症候群を社会問題化するきっかけになったことは間違いないにしても、ここに問題を矮小化すべきではありません。
戦後の住まいと住まい方そのものが、人間を脆弱にし、弱っているところへ、バブル崩壊後の安上がりな住宅づくりのために使われたVOCが、決定打を与えて発生したのがシックハウス症候群であることを見なければなりません。
ですから、シックハウスをVOC、なかんずくホルムアルデヒドの問題に矮小化することは、戦後の住まいの根本問題を見失わせることになっていることに注意が必要です。
戦後の住まいがなぜ洋風化したのか、洋風化の問題は何かについては、本誌の第2号「洋風住宅と高気密化へのミスリードを考える」、第19号「2極化するのか日本の住まい」その他で折に触れて書いていますので、その上に立って、洋風化した住宅、マンション等が健康にどのような被害をもたらしているかについて考えます。
まず第1に考えなければならないことは、洋風化の根本思想に自然との断絶があることです。
西洋の狩猟民俗・砂漠の民が、自然や他民族との対峙や支配の思想を根底に持ち、それを宗教観で支えていることについては繰り返しませんが、この思想を具現化したものこそが住まいなのです。
そのもっとも端的な表現が、外気と外熱を遮断し、内向きに生活する高気密・高断熱です。
人間も自然の一員であり、大自然が生んだものですから、本来的に、自然とともにあってこそ健康に生きることができるのです。
家は、安心して寝食をとることから始まり、生活の豊かさや家族の愛を育てるためのものですから、家そのものが自然の中にあり、自然とともにというのが日本民族の住まい観の中心にありました。
高気密・高断熱に象徴される自然との断絶が、人間にどんな影響を及ぼすのかを考えなければなりません。
 もともと生き物は、自然の中に在って、気候等の自然条件の影響を受けながらそれに順応して生きています。
その自然条件を緩和するために高等動物である人間は、家をつくり、衣を着、火を燃やしたりするのですが、あくまでもそれは自然の条件の下でのことです。
自然の持っている力は無限とも言えるのですが、何よりも偉大なのは、生き物を生み育てる力です。
秩序正しい自然の循環の中で、すべての生物を生成発展させるために、ゆらぎやマイナスイオンをはじめとするエネルギーを満たしてくれています。
 自然と共生するということは、これらのエネルギーを受け入れて生きることを意味しますが、高気密・高断熱は、これを拒絶することになります。
その代りに人工的なエネルギーを補給することになるのですが、人工的に補給できるのは熱エネルギーなどのほんの一部でしかありません。
生き物を生み育てる力は、決して人工的にはつくることはできないのです。

自然は、生き物を生かすために、その体内に免疫力や抵抗力、治癒力を育ててくれますが、自然との断絶は、その生きるための力を弱め、人間を脆弱にしてしまいます。
自然支配の思想の現れである洋風住宅観の高気密・高断熱は、生き物が自然から得るエネルギーを遮断し、生きる力を弱めることになってしまいます。
とりわけ、その昔から自然との共生を暮らしの基本にしてきた日本人にとって、自然を断絶し、人工的なエネルギーに依存することは、免疫力、抵抗力、治癒力の著しい低下を呼ぶことになります。
今日の不健康と病気の広がりの背景には、このような自然との断絶があることも見抜かなくてはなりません。

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