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スギを生かす、スギを使う  

●急がれる供給体制の整備次に問題となるのが、スギの供給体制です。
スギだけでなく木材全般が、戦後の建築政策の下で地場の家づくりから離れて、ハウスメーカーやゼネコンを主対象とする流通依存型の部材提供業化したことによる弊害が今日の苦しみの主因になっていることを考えなければなりません。
価格面もさることながら、後で触れる乾燥の問題もあって風評が悪くなれば、ハウスメーカーやゼネコンがスギを使用しなくなるのは当然のことです。
ここから言えることは、スギを中心とした木材の供給システムを、従来の延長で続けようとすれば没落は明らかです。
むしろ、これをチャンスととらえて、従来の流通形態や生産加工の形態を大改革して、使ってもらえる対象、本当に必要としている末端需要家や生活者に目を向けた生産と流通に転換するときが来たと考えるべきしょう。
メーカー・ゼネコンに向けての仕様は、工業化製品のように均質で、色合いが良く、木目の通ったもので、節や白太のないものが要求されています。
現在の資源事情でそれだけのものをいつも揃えることは困難です。
また、そのような原材料を求めれば、当然のように良質の高い原木を求めて競合せざるを得なくなりますところが、製品価格は、販売競争とデフレ経済下で買い叩かれますから、採算がとれるはずがありません。
すると原木買いも、良材にはそこそこの値をつけても、並材クラスは徹底して安値化を求めることになります。
それは、林業家の生産意欲を著しく低下させることになってしまいます。
すべてが悪循環になっているのですから、この流れを断ち切るしかないのです。
これに対して、末端の需要を考えると、1棟当たりの量は、柱で多くて100本までですから、全体量は知れています。
それに、メーカーのように無節で、木目や色合の整ったものが求められるのは、ほんのわずかにしかなりません(高級住宅は少し違いますが)ですから、良材の原木を高値で競合して買う必要もありません。
並材以下の原木も不当に買い叩かなくても良いようになってきます。
流れも価格も、霧の中のような複雑な流通は必要でなくなり、生産と消費を結ぶ然るべき流通だけが求められ、残ることになりますから、価格も一定の利益をつけてオープンに近づくことになり、需要者との安心・信頼関係もつくれることになります。

大量生産方式は不要になり、直需ではないにしても、末端と結ぶ流通を通して、消費者の顔が見える生産、求められる仕様の製品づくりという、受注対応型に近い生産体制へとすすむことが可能になります。
採算ラインを維持した生産でありながら、末端需要家は、これまでよりも安心して、しかも安く買えるという仕組みがつくれるようになります。
 従来のような規格外品を注文すると、流通を遡り、特注価格をつけられるという不満の解消にもつながります。

生産側は、このような仕組みの大転換を図りながら、もう一方で、スギの需要家をつくらなければなりません。

そのためには、スギの全般的PRを強めるとともに、具体的な形状、品質、価格の情報発信を工夫しなければなりません。
建築関係者は、もっと意欲的にスギを使った家づくりを広げ、その家を通して建築家つくり手のPRをして、木の家のファンを広げる努力をすることです。
この双方の動きが結びつくことでこそ、スギの時代をつくることができるでしょう。
●スギ乾燥の基本は放射熱もうひとつの問題は乾燥です。
スギの乾燥が難しいと言われていますが、先に触れたように、ヒノキなどと同様の人工乾燥で比べることが間違っているのです。
 スギ材の乾燥については、本誌第16号特集Ⅲ「スギの乾燥を広げ、スギ材を生かす」で基本点を述べていますので、要点のみを書くことにします。
建築材料としての木材は、含水率20%以下とされています。
含水率は、水分を含まない木材の重さに対して水の占める割合いを言い、含水率計で簡単に測定することができます。
含水率は、辺材と心材では大きく違い、伐採直後のスギは、辺材で150~200%、心材で60%前後が普通です。
木材の水分には、材の中を流れる「自由水」と細胞壁を構成するリグニンやセルロース、ヘミセルロースなどと化学結合している「結合水」とがあります。
含水率の高い辺材に含まれる水分は、主に「自由水」で、心材に含まれる水分の多くは放出しにくい「結合水」です。
最大の問題は、心材の含水率をどうして下げるかにあります。
昔の人は、切った木を山に1年程度寝かせる天然乾燥した丸太を製材して使いましたその頃は、含水率などとは言っていませんが、まだ水分が含まれ、建築後に平衡含水率(結合水が放出された安定した状態15%程度)まで下がります。
その過程で変形することを知った上で、それを考慮に入れた使い方をしていました。
(変形は、含水率30%から20%に下がる段階でもっとも現れる)しかし、今はこのような使い方は通用しませんし、それを使いこなせる大工技術も不足していますから、どうしても乾燥を考えなければなりません。
一般的には、伐倒木を枝葉を残したまま、山で天然乾燥する葉枯し乾燥をして、それから製材して人工乾燥する方法と、生材に近い材を製材して人工乾燥するかしているものと、未乾燥のものとがあります。
しかし、これはスギの結合水が、ヒノキなどに比べて放出されにくいことを考慮に入れた対処とは言い難いものがあります。
葉枯し乾燥は、普通3ヶ月程度とされているようですが、平成10年に、奈良県林業試験場が行った実験によれば、伐採後60日程度で、辺材の含水率は50~60%に下がっていますが、心材の含水率はほとんど変化がなく60%程度のままで、この状態は90日でもあまり変化していないとの結果を出しています。
全体の重量は25~30%程度軽くなって、運搬はしやすくなっていますが、期待する含水率に至るには、スギ材の場合2年前後必要のようですし、それだけ長期間放置すると、割れその他の問題が生じます。
そうすると人工乾燥を考えざるを得ないのですが、ヒノキと同じ方法では、心材の結合水の解放は難しいと考えなければなりません。
先にあげた本誌第16号でも書いたように、製材品を乾燥するにしても、材の外側から順次中心に熱を伝えて乾燥する方法では、全体の含水率が同時に減少することはありません。
中心部を20%以下にしようとすれば、外側は10%前後にしなければならず、しかも相当の日数を要しますから、材の破損や歪みを生むことになります。

スギ材の乾燥の基本は、対流や伝導による熱伝導方式ではなく、遠赤外線効果などで直接中心部にも熱を伝える放射(輻射)式でなければ十分な乾燥はできません。
このことを林業・木材関係者も行政も正しく認識していないため、含水率にムラがあったり、表面含水率で20%程度でも、後で内部の結合水が浸透してきて含水率が高いというクレームがつくことになるのです。
スギの乾燥の基本は、あくまでも材の中心部にも直接熱を伝える放射式であることです。
これによって、細胞壁を構成している一部であるリグニンとヘミセルロースを軟化させ、細胞を破壊することなく変形させて結合水を解くことで、スギ材の乾燥ができることになります。
 

この方法として現時点で確認できるのは、丸太の場合は、含水率の高い生材に近い状態で行う燻煙熱処理の後、6ヶ月天然乾燥して製材する方法があります。
(本誌第13号創刊2周年記念特集「スギ材を生かすための挑戦」を参照して下さい)製材品を乾燥する方法としては、本誌第16号で紹介した燻煙ミスト乾燥と高温蒸気乾燥があげられます。
この乾燥方法を基にしながら、より良いスギの乾燥への研究が早急に全関係者に求められているのだと思います。
以上のことを早急の課題としながら、日本を代表するスギが本格的に建築材として使われ、日本らしい木の家づくりが広がり、林業が復活し、日本の山を育てなければならないと思っています。
そのために「木のこころ」では、何等かの運動体づくりや、宣伝・啓蒙活動を具体化させるために提案や活動を考えています。

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