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伝統町家の都市への再生
第6回木造伝統住文化の都市への再生をめざして関西木造住文化研究会(KARTH)の取り組み関西木造住文化研究会:略称KARTH(カース)KansaiAssociation for Research in Traditional HousingKN1実験住宅の居住体験を通して伝統町家の都市への再生の可能性を考える
●KN1実験住宅の建物概要 2000年7月に竣工したKN1実験住宅は、京都・西陣の準防火地域の木造伝統町家集積地区の角地に建つ。
南北に細長い鰻の寝床スタイルの約56坪の敷地で南及び西側は4m幅道路に、東側は青空駐車場に面している。
主屋・ミセノマ・通り庭及び下屋の水廻りで構成された間口7.3m、主要部奥行14.9m(延べ52坪)の木造ツシ2階建の中規模都市型庶民住宅(戸建住宅)である。
江戸時代の京町家の痕跡が見られる通り庭の間口の広さ(約3.3m)が特徴的で、北側に小規模な庭を持つ。
●現在の住まい方と居住実験の目的 KN1は、木造伝統構法の都市への再生の可能性を検証するために、築150年以上の江戸時代生まれの庶民住宅を、伝統の自然材料と木造伝統構法の知恵と技を活かした手法で、今後も地震や火災時だけでなく、日々の暮らしの中でも家族3世代が安心して健康に暮らせる心豊かな安らぎのある住まいに蘇らせることを目指した試みである。
そして、空洞化した都心に住人を呼び戻し、そこで安心して家族が住み続けられるよう、住まいの中に生産の場を設けた2世帯同居型の職住併用住宅スタイルとした。
2000年7月に改造工事が竣工し、現在は、私共の住まい(家族2名)兼仕事場(建築事務所)兼KARTHの活動拠点の3つの機能をもたせた形で利用している。
居住実験に関しては、早稲田大学長谷見研究室の温熱環境の研究の他、木造伝統構法の住宅の今後の都市への再生に関する生活レベルのさまざまな課題を、住性能の経年変化も含め、住み手の視点から拾い出し、課題の改善の研究・提案をしていく予定である。
伝統町家の住みにくさとしては、暗さ、夏のむし暑さ、冬の底冷え(特に土間の通り庭の台所など)、気密性の低さ、家族のコミュニケーションの場・くつろげる広い部屋が無い、プライバシー確保の困難さ、天井の低さ、段差、地震等の災害に対する不安などの指摘が多い。
KN1ではこれらの住みにくさに対し、さまざまな工夫で対処しているが、居住実験では夏のむし暑さ、冬の底冷え対策が大きな課題の一つであった。
●設備に頼らない生活の中から見えてくるもの KN1は地球環境負荷等の面で「設備に頼らない素足の暮らし」をコンセプトの一つにしている。
夏季は、エアコンを使わずに生活の知恵を使って夏の暑さをどのように楽しむかが一つの課題であった。
引越し間も無い時期で昼夜の無い超多忙な時期であったため、1年目の夏は、風や太陽などの自然のリズムや風の通り道などを見つけ、建具の開閉の調整などで家族の憩いの場と風の通り道をつなぐ工夫などができた程度であったが、大きな風の通り道である南北に走る西側道路を活用した風の誘導手法や、LDの通り庭の西日対策、2階の天井高の低い化粧屋根裏天井の部屋の屋根の断熱対策などが今後の課題といえる。
●伝統町家暮らしから得られた心の豊かさ KN1に使用されている基本材料は全て人間よりはるかに寿命の長い、傷つき易い生き物で、その中での暮らしはあたかも地球の自然神に守られた暮らしのようで、「もの」に対する慈しみが自然と培われていくのが感じられた。
設備に頼らない生活は、自然と共生した日本人特有の繊細な美意識を呼び戻し、窓を開け放しの生活は、部屋の中にいても早朝の托鉢の声や夜回りの拍子木の音など、まちの豊かな生活文化の鼓動や息づかいが伝わり、一種の感動の連続の毎日である
●地球環境に極力負荷を与えない暖房手法の工夫の取り組み 京都は冬の底冷えがきついとよくいわれるが、冬の寒さが厳しくなる前に、京都・西陣のまちの伝統住文化を活かした暖房手法の生活レベルの研究に取り組み始めた。
建物の規模・間取り・毎日の建物の使い方を考えて、吹抜空間の通り庭のLD(杉の床板張り)に灯油ストーブ1台+壁掛型扇風機1台を置き、それだけで家中を暖房する手軽な手法を実験中である。
昼間の太陽光、木造・土壁の蓄熱性・保温性などを積極的に利用しながら、どこに灯油ストーブと壁掛型扇風機を設置し、どのような使い方をしたら、家中に使用されている木材などを乾燥面で傷めずに、地球環境負荷を極力押さえ、快適で健康的で経済的な暮らしができるかを検討中である。
2000年の12月半ば時点で、足元廻りの冷気を遮断した場合は、LD(杉の厚板の床板張りの座式の生活)は室温16~18℃、湿度60%程度でも快適な状態で、LDの暖房だけで2階全室が暖まり、2階は暖房器具不要の状態である。
冷気の通り道を集中させ、足元まわりの冷気を遮断し、足元まわりを暖め、湿度をある程度上げることなどが省エネ対策のポイントのようで、土間の冷気対策とLDの加湿対策が今後の課題といえる。
地域固有の文化を活かした新しい生活文化の創造気密性の低い住まいでの冬の暖について、今回は設備に頼らず、加湿機能は内土間への打ち水や、平均温度16~18℃の井戸の湿気を活用するなど、京都・西陣の生活文化の知恵を活用した手法を貫きたいと考えている。
ある程度のすきまは室内汚染空気を清浄化するための24時間自然換気と考え、西陣織の材料・道具などに井戸の湿気を室内に誘導する機能とインテリア機能をもたせるなど、伝統文化の日常生活での新たな活用方法を模索中である。
●各種実験・研究・居住体験の場としてのKN1の開放 伝統構法には多種多様な工法があり、KN1実験住宅はその一事例に過ぎないが、高耐久性を研究し続けてきた木下棟梁の技と哲学が凝縮され伝統構法の研究の宝庫といえる。
その意味で、より多くの分野の研究者・実務者・市民の方々にKN1の意味するものをご理解頂き、KN1を伝統構法の再生のための各種研究・実験・居住体験の場として積極的に活用していただくことを期待してやまない。
関西木造住文化研究会 田村佳英関西木造住文化研究会ではワーキングメンバーとして継続的に活動に参加して下さる方を様々な分野から募っています。
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