力を合せて理想の木づくりの家を建てる
兵庫県龍野市 ㈱田渕木工所
●力を合わせ、目指すものを形に 「木づくりのエコロジー住宅を作っているので、一度取材に来ませんか」という誘いがあった。
兵庫県龍野市で活動している㈱田渕木工所の田渕和幸さんがその人である。
今では元請けもして、木の家づくりの活動を行っているが、もともとは、父親の代から続いている建具屋さんである。
今までは工務店の下請けとして仕事をしていたが、工務店から予算が降りて来るときに、予算内では施主が希望する家具などが作れなく、本当はムクしか使いたくなくても、なかなかそうはいかない日々が続いていたという。
また、大工が少なくなり、お得意さんにちょっとした大工仕事も頼まれるようになってきた。
それなら、いっそのこと自分で家づくりをしてしまえば、本当に作りたい木づくりの家も出来るし、ムクをふんだんに使った建具も出来ると考え、家づくりを始めたという。
もちろん、田渕さんは本職ではないので自分1人では出来ない。
そこで、知り合いであった大工の松本さんに声を掛けてみると、すぐに一緒にやりましょうということになり、共同で家づくりを始めた。
ふたりで家づくりを開始してから、理想の木の家づくりを求めていろいろな場所に出掛けていくうちに設計士の岡本さんと知り合いになり、木の家づくりをしたいという思いで一致し、一緒に仕事をするようになった。
3人は、仕事を発注する側、される側などと分かれるのではなく、3人が1つのチームのように、お互いを補い合いながら仕事をすすめる関係だという。
3人の心のなかには、誰にでも手が届く木づくりの家を建てたいという強い思いがあり、それを実現させるために、力を1つにし、人手が足りない時には、岡本さんも一緒に作業をするという。
「材料の質を落としたくないから、自分たちが動くしかしょうがないです」と田渕さんはいう。
取材にいくと、まず田渕さんの木工所に案内された。
広いスペースにたくさんの材料、工作機械がずらっと並んでいる。
作っている最中の家具やキッチン収納は、ほとんどがムクの木で作られている。
ヒノキで作られたキッチン収納のドアを開けると、中から充満していたヒノキの香りが飛び出してきた。
それは、ひとの心をホッとさせる匂いである。
「ムクを使うといいでしょ」と田渕さんは嬉しそうな顔をした。
家づくりに使う材もすべてここで加工する。
そうすることでコストが抑えられる。
「いくらいい家でも、値段が普通の家の2倍もしたら一般の人には手が届かない。
普通の人が住める家をつくりたいから」と田渕さんはいう。
●工夫と技術の家づくり 作業場を見せてもらった後、早速、今手がけている家を見に出掛けた。
車で40分程行くと兵庫県佐用町にあるその場所に到着した。
まだ建築中ではあったが、外観を見ているだけで、木をふんだんに使ったこの家は住む人の心を育てるだろうなという事が十分伝わってくる。
外壁は全面に植物性オイルを塗ったベイスギがはられている。
周りの風景ものどかで緑の多い場所であり、心が穏やかになるようである。
建物の中に入ると設計士の岡本さん、大工の松本さんが迎えてくれた。
3人に内部を案内して頂く。
まだ壁もあまり貼られていない状態である。
この住宅は2世帯住宅として建てられており、1階、2階共にキッチン、バス、トイレなどを持つ作りになっている。
全体的にあまり部屋を細かく仕切らず、生活形態の変化に応じて使えるようにしている。
特に2階の子供部屋などは仕切らずに部屋を広く取り、子供が遊んで1階に音が響くと感じた時には、床にコルクを貼って防音できるなど、子供の成長に応じた対応が出来るような造りである。
1階、2階とも、壁・天井・階段はヒノキ、床は30㎜程の厚さのあるスギの板を貼り、柱・梁ともスギ材を使用している。
壁の一部はボードを使っている。
コストの面や作業の面を考えるとしょうがないが、本当は漆喰を使いたいという。
1階のスギ床下には、製材する時に出るスギの切り落としを入れて断熱材として使用している。
1枚が5㎜程の厚さの物を7~8枚重ねて入れることで、他の断熱材以上の断熱効果を得ている。
建材をなるべく使わず、しかもコストもかけないで作ろうと頭をひねってこのような色々な試みをしている。
規格品を組み立てるだけではなく、材料を見て、それに応じた建具を作る姿を見ると、さすが本物の大工さんだと感じさせられる。
凄い大工さんはまだまだいることを知ってほしいものだ。
1階の天井は、そのまま2階の床である。
1階の明かりが入りにくくて暗くなってしまう場所は、天井をすのこ状にして2階の明かりが入ってくるようにするなど、随所に工夫が窺える。
2階にはロフトが作られ、小屋組みの梁や柱も現しになっていて、見る物の心を和ませてくれる。
ここで、育つ子供がうらやましく感じられる家である。
「まだ途中だから完成した姿が想像しにくいでしょうから、前に建てた家を見にいきましょう」ということになり、車で十分くらいのところにあるそのその家へと向かった。
緑に囲まれた小高い場所に建てられたその家は、すでに入居されているため内部をすべて見ることは出来なかった。
ここの施主は、陶芸家で、住宅の一部が陶芸の展示場になっている。
その展示場と、部屋の一部を見せてもらった。
展示場は本物の三和土になっていて、そこに、沢山の作品が並べられていた。
壁には先に取材した家の床下と同じように切り落としのスギが入れられている。
家全部の壁に入れたかったけれども、材料が無くなってしまったので、一部は断熱材を入れているが、断熱材を使った部屋よりも、スギを入れた部屋のほうが、夏は涼しく、冬は暖かくて快適に過ごせるそうである。
壁には和紙が貼られているのだが、これは施主が自分で貼ったという。
その他にも、三和土や壁にスギの切り落としを入れる作業など、岡本さんも交えて皆でやったという。
その時の話しをする3人の顔は、輝いていて、嬉しそうである。
一つのものを共同で作り上げた満足感と充足感に満ちている。
田渕さん、岡本さん、松本さんの3人は、自分たちの出来る限りのことをして、本当に作りたい家づくりをしていた。
とにかくやってみるという姿は、とてもパワーの感じられるものであり、見るものを勇気づけるものだった。
今後の活動が楽しみである。