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資源・環境保全と木材利用の関係

東京大学大学院農学生命科学研究科 有馬孝禮 


循環型社会における森林と木材


最近、循環型社会とかゼロエミッションという 言葉がごく一般的に目につくようになってきた。
資源・エネルギーの消費と廃棄物問題が身近な課 題として少しずつ意識され出したことによるので あろうが、21世紀にむけて森林や木材がきわめて 重要な位置にあると意識している人は必ずしも多 くはない。

いまだに木材生産を業とする林業や木 材工業(林産)は森林伐採という行為を行うが故 に、環境破壊の張本人としてみなされることも少 なくない。
とくに経済、効率優先、多エネルギー消費型の 材料の中には、降りかかる環境問題に目をそらす ために、エコロジーや環境保護を楯に木材資源を 使わなければ良い、という安直な代替を繰り広げ る状況すらある。
それは自由経済、弱肉強食の論 理であったり、人間が生活するための資源問題や 都市の消費形態には触れず、単に森林を伐採すべ きでない、守るべきだという短絡的な結論である。
それはある点では明快であるが、人間の関与す る環境保全問題を基本的に意識していないことに なる。
いずれにしても、このような認識は森林の 保全の重要性を明らかにしてきたが、ともすれば 人類の生活基盤である資源を生産、更新する重要 性を見逃す恐れがあった。
すでに当たり前のことであるが、森林には生物 資源の多様性確保や水源涵養などの多くの機能と 恵みをうるために保護する森林と持続的な資源生 産を担う森林がある。
それが共存・共生しなけれ ばならない重要さを曖昧にしてはいけないのであ る。
森林が資源の生産の活力を失って循環社会など ありえない。
また、森林が環境保全の機能を失っ て成り立つ循環社会もありえない。
それは近年の 化石資源に依存し、資源の枯渇に向かってきた豊 かさ追求の視点を、森林や木材のような再生産可 能な生物資源との共存に向けることができるかと いうことである。
将来にわたる人間活動や人類の 将来の生存の持続性を見据えて、森林や木材を促 えることが都市に問われている。
しかしながら、 いまだに都市は、森林を離れた存在としてみてい るようにみえる。
一九九七年の気候変動枠組条約京都会議におい て1990年以降に植林された森林の成長を二酸化炭 素の吸収源として評価することになった。
吸収源 としての森林を評価されたことで木材や森林に関 係する人々は溜飲を下げたようなところがあるよ うではあるが、その扱いについては課題も少なく ない。
とくに化石資源の消費に伴う二酸化炭素の 放出量を抑制しようという原則が森林での吸収を 評価することによって薄れるという主張は必ずし も明確に報道されていなかったようである。
その差し引き計算は数字のつじつま合わせのよ うで、国家間の利害や政治的決着とはいえ、その 姿勢の曖昧さは余りいただけない。
化石燃料消費 を減らす、すなわちエネルギー消費による二酸化 炭素放出の削減への努力目標と、森林の植林活動 の努力目標が分離して機能することを願いたい。
もう一つ気になることは伐採という意味がどの ように受け取られているかである。
依然として伐 採した後の木材の位置づけが一律に二酸化炭素 CO2の放出源と見なされていることは大きな課 題である。
すなわち、森林でCO2を固定保存し た木材は、伐採後も木造建築物などに長期保存さ れ、除却、解体されたときに排出される。
投棄後 腐朽などで生分解されるか、焼却されたとき大気 中にCO2として放出されるが、リサイクル資源と して生かされたとしたら固定保存の状況が続くこ とになる。
今後、木材のCO2の放出に関わる扱い、 とくに輸出国、輸入国間の負担分担や持続可能な 森林からの木材などの扱いが議論されるであろう。
ともあれ、伐採された森林は管理されているな らば、造林によって世代の交代が行われることに なる。
ここに人工造林木の成長速度の意味があり、 同時に、そこに時間的なゆとりを与えるのは木造 建築物をはじめとする木材製品の耐用年数であり、 使用後のリサイクル、すなわちカスケード型利用 という都市に課せられた環境問題の視点がある。
持続可能性、循環型社会形成には永続的な資源確 保への努力と適正な利用への姿勢こそ必要であり、 伐採から焼却までの時間が長ければ森林の樹木に 充分に生長する時間を与えることになる。

 

 

<プルフィール>
有馬孝禮 (ありま たかのり) 1942年生まれ、鹿児島県 出身、1965年東京大学農学部材林産学科卒。
修士課程を修了し東京大学農学部文化教官助手から建 設省建設技官主任研究員、静岡大学農学部助教授を経 て東京大学助教授。
現在、東京大学教授(大学院農学 生命科学研究科生物材料科専攻)。
木材物理学、木質材科学、木質構造学を専門にしてい る。
主な著書に「エコマテリアルとしての木材-都市 にもうひとつの森林を」(全日本建築士会)ほか共著で 「構造材料と施工」(彰国社)、「木材の工学」(文永 堂)など多数。

特定非営利活動法人である古材文化の会(旧:古材バンク)のホームページです。古材文化の会は、古建築や古材の保存と活用を促進するために、民家や木造建築の研究者・建築士・工務店・そして家や古材について学ぼうとする人たちのあつまりである調査部会で、古民家や古材などを調査し、地域の中で再び木造建築を甦らせるための活動を行っています。ホームページでは、古材文化の会についての紹介や、活動記録、イベントなどの情報が公開されています。ブログである「事務局日誌」では、古材文化の会のイベントの様子や活動が頻繁に更新されており、充実した内容となっています。 ホームページは 生かせ木の命 古材文化の会 です。
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