~読者プレゼントのタモ腰板が迎える内山邸~
新潟県浦川原村 株式会社 武江組
●夢の空間が実現した雪国・新潟から、木造の新しい家に住んで5ヶ月の内山早苗さんからの便りが届いた。<br />木の家に暮らしはじめてもう5ヶ月が過ぎました。<br />毎朝階段を降り、カーテンや窓を開けたとき、デッキに出たときの風の気持ちよさは何とも言えません。<br />いつも同じ、新鮮な気持ちを味わっています。<br />家の中を歩くとき、足もとや、まわりの木のぬくもりが、やわらかく、見ているだけでも心が安らぐ感じです。<br />風の流れや、明るさ、木の色、木のぬくもりがみごとに調和していて、あきのこないつくりになっています。訪ねてくる友人たちにも、どうぞくつろいで、という感じで、私自身も気どらないでいられる家です。
家を建てるときは、機能的で現実的なものでいいと考えていたのに、設計士さんと話し合ったり、色々な家を見てまわるうちに、"夢"が広がっていったのでした。
家族1人ひとりにとって、大切にしたい空間はあるわけで、どうせ家を建てるなら、夢の空間を実現したい、とみんなで思ったのです。<br />そして、たくさんのステキな素材があったわけですが、それをどこにどのようなかたちで使うかで全くイメージが違ってくることも実感しました。<br />今はまだ子供たちも小さいので、毎日バタバタあわただしいですが、それなりに子供と共に、家の空間を楽しんでいます。<br />何年かして、子供たちが成長し、私だけの時間がもてるようになったら、また私なりに、この家の空間を楽しみ、くつろいでいるだろうと思います。
内山さんの家は、昨年9月に着工し、今年の3月に完成したもので、5ヶ月の生活を通しての便りからは、住みがいの良さを感じさせてくれる。
この内山さんの家を建てたのは、本誌第13号でお知らせした第4回読者プレゼントのタモ腰板に当選した新潟県の(株)武江組だった。<br />武江組の太田定義デザイン室長が、着工した内山さんの家に使いたいと思って読者プレゼントに応募していた。<br />当選が決まって届いた実物を見て、想像した以上に良いものだと喜んでくれ玄関ホールと廊下に使いたいと、提供先の服部商店に追加注文をして、合計220枚のタモ板を使用したという経緯があった。<br />完成後、服部商店に送られてきた施工写真が非常に良かったことで、タモの腰板を使った家はどんな家だろうと太田さんに連絡し、ここに紹介できることになった。<br />雪国の木の家を紹介するに当たっては、そこで5ヶ月の生活をした住み人の感想もということで、冒頭の便りを添えてもらうことができた。<br />便りにあるように、内山さんも多くの一般の人と同じように、イメージしていたのは、機能性や性能を優先した洋風住宅のようであった。<br />しかし、太田さんとの話し合いや、実際の木の家を見て"夢"が広がったと言っているように、木の家が、夢を広げられる家で、武江組が掲げる「ナチュラルハウス」の思想が、その夢を実現する家だった。
●ナチュラル思想の具体化をめざし武江組の掲げる「ナチュラルハウス」の思想は、次のように表わされている。<br />
・使用する材料は、生産地、加工過程、使用状態、使用後の廃棄まで考えて最適なものを選ぶ・隣接する周囲の自然環境に調和するよう、佇まいと外壁材に配慮する。<br />・大きな開口部により、家の内と外をおおらかにつなぎ、生活の中に自然を積極的に取り入れる・夏には外からの風が良く通る家を心がけ、冬の寒さのために気密性にも配慮する。<br />・室内は合板類をできるだけ使わず、無垢材を使い、デザインのベースは木を大切に生かす・ パブリックスペースの壁の部分は、調湿性と消臭性をそなえた、火山灰を原料とする中霧島壁を使用。<br />・個室部分の壁は、来客者と住人の健康増進のため備長炭入りクロスと竹炭入りの壁紙を使用。これは、近く完成予定の家の見学案内書に示されたもので、そのほかにも、自然の材料の使用自然エネルギーの利用などが示されている。<br />内山さんの家も、ほぼこの思想の下でつくられており、祖父と若夫婦、幼い3人の男の子が 住む雪国の木の家である。
●味わい深い雪国仕様の木の家周辺の環境は、交通量の多い国道に面し、右側に法人建物があるほか、現状では3方が空地であることから、控えめな外観では周囲に圧倒されてしまうので、シンプルで力強い造形が考えられ、地域で存在感をもった住宅になっている。
この家を建てる実質上のスポンサーである祖父の内山守さんの希望は、自分も住むが、娘夫婦と3人の孫たちのために、「かっこいい家にしてくれ」ということだったが、その夢の実現にもなっている。<br />道路側は高床式総三階建てになることから、単調になることをセーブするため、道路に面した北側に1.8m幅のピロティを約12mの長さで設け、その上を2階のフラットルーフとして設置し、北から東に庇を付け、意匠性をもった実用的なこころ配りがある。<br />南側は、自然環境が保倉川の対岸まで続いている景観も生かし、屋外生活を楽しめるようにサンデッキを設け、雪国における夏期のライフスタイルを提案したものとなっている。<br />外壁は、施主の希望もあり杉の五分板を本実で張り、それ以外はリシンの吹きつけ塗装をしている。<br />雪国仕様と言えるもので注目されるのは、屋根雪対策で、雪おろしをしなくても良いように基礎高床にして、自然落雪方式を採用していることにある。<br />それと同時に、落下した雪が壁際に溜まりすぎないように大きく6尺の軒(妻側5尺)を出し、軒を保護するための登り梁とそれを支える構造方杖が意匠性を兼ねたものとなり、大屋根の佇まいに安定感を与えている。<br />1階は車庫・倉庫で、2階の玄関を入ると、框の先にナラのフローリングのホールと廊下が続き、壁のタモの腰板が奥へと導いてくれる
腰板の上は中霧島壁の落ち着いた淡色で、天井にはイエローパインの無垢板が貼られている。
ホールからはダイニングキッチンと茶の間へ通じ、茶の間の奥は座敷で、8帖2間続きの和室は内山さんの希望であった。<br />構造材は、柱は杉柱の4寸角を使い、梁は松材を使っているが、2間の和室の間に5寸幅で1尺2寸のケヤキが通っている。<br />この地域では指(サシ)と呼ばれている差鴨居と言うもののようで、柱間を大きく広げた開口部を確保し、柱が担う耐力や剛性を補い、力強い意匠となっている。<br />
それをつなぐ柱もケヤキの8寸角材で、ともに内山さんが特別に手配した材とのことである。<br />ホールから廊下の右手には階段と水廻りが設けられ、その奥に祖父の寝室がある。<br />3階は夫婦の寝室と3人の子供たちの部屋が配され、サンルームが中央にある。<br /
3階は施主の希望と設計者の考えが一致し、木構造の太い骨組みを、全室できるだけ化粧で見せ、室内空間の豊かさが演出されている。<br />
近年の風潮は、雪国こそ高気密・高断熱と叫ぶ人が多いようだが、武江組の手がける家は、施主との話し合いを重ねることで理解を深め合い、出来得る限りナチュラル思想を取り入れている。<br />タモの腰板を見事に生かした雪国仕様の木の家は、5ヶ月の実生活を楽しんでもらって、いよいよ味わいを出してきたようである。