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地域の活性化と木材産業

地域の活性化と木材産業を育成する住宅集落づくり


桜湖の里・ヘルシーハウス

夢を描いた人と形にした人
「安定成長期に入ったこれからの生活は、都会の劣悪な環境  ・喧騒から逃れて、自然に親しめて、すべての人にやさしい  住環境の中で、無駄な出費はできるだけ省いて、合理的で健  全な生活を享受したい」という夢と希望を多くの人が抱いて  いる。
これを夢で終わらせず、現実に提供しようとする試みが、ヘ  ルシーな住宅集落を創ろうという夢を丘陵地帯に描いた人と  、その夢を住まいに形づくろうとする建築家によって実現し  ようとしている。
舞台となっているのは、岡山県の中央部に位置する久米郡旭 町で、桜湖の里・ヘルシーハウスづくりがそれである。
「豊かな水」をたたえた旭川が流れ、「澄んだ空気」と「あ ふれる緑」「咲きほこる桜」という自然の財産を守り続けて いる気候温暖な地であり、〝ふるさとの郷愁〟を満喫させて くれるところで、歴史も生きている。
夢を描いたのは、神戸画廊を営む改田敏夫氏。
かって保証担 保調査の仕事でこの地の不動産整理に携わり、それが奇縁で この旭町の土地を所有することになり、別荘的な住まいも持 って、ここでの生活に触れてきた。
かつては人口五千人を超えた町も過疎化がすすみ、老人を中 心に今は三千六百人の町に。
古い民家の再生等の取扱いをもしていた改田氏が、都会から 人を呼んで迎えたが、なかなか定着しない。
町人(まちびと) も町役場も歓迎してはいるものの、田舎の因習や氷解しない 圧轢も残ったからだという。
そこで改田氏は、氏が所有する土地にヘルシーな住宅を五~ 六棟建て、都会から移住してきた小さな集団で協力関係を育 て、この集団と町人(まちびと)との共生的調和を考えて作ら れた構想がこの「桜湖の里」で、健康的な家を作ることだっ た。
大きすぎては集団がまとまらない、小さすぎると町人 (まちびと)との対等の共生関係は作れない。
五~六家族が適 数との判断があり、町役場もこの構想に全面的に賛同し、協 力体制が組まれている。
健康と環境にやさしいのは日本の民家
そしてもう一人、この夢を形にする建築家が 大阪で、「私達は生命を大切にした健康な建 物を提案しています」を掲げて実践している ㈱C・E・M椎原総合設計の代表取締役の椎 原毅氏である。
これまで、いろんな建物を造っていた椎原氏 が、木の住まいづくりにこだわり始めたのは 五~六年前。
飛岡健氏の著書に、ドイツで聞 かされたという「本当に健康と環境に良いの は、日本の古い民家」という一文との出会い からで、グローバルに見て素材としての木は 素晴らしいし、植栽、再生ができる唯一の建 築素材との確信が湧いた。
意識して木の住まいを作るようになったのは、 この四~五年で、住宅でも公共施設でも木を ベースにした住まい、建物にこだわっている。
「健康とか環境とかに〝やさしい〟という言 葉だけが一人歩きしている」が、実際には 〝やさしい〟などというものは殆どないし、 以前に比べて少し良くなった程度のものばか り。
と企業のエゴが先行する社会と建築の世 界に対し、椎原氏は、健康と環境に本当に 〝やさしい〟のは自然と木材であり、木の住 まいだとの信念を持っている。
そして木材の 中でも日本人と日本の住まいに最も適してい るのが日本の木であり、地元の木であるとい う。
この改田氏と椎原氏の想いがひとつになって 桜湖の里づくりがすすんでおり、すでに二棟 が昨年夏に着工し、年末に完成している。
国産材をたくさん使った健康を育てる家を基 本に、在来工法をベースにしながら新しい感 覚を取り入れているが、地元の大工さんにも わかりやすいオーソドックスな造りで、屋根 も瓦ぶきである。

外壁、内装、床、天井の全てを地元の木材で ということで、改田氏が津山の市で買い付け たムク材が使われている。
外壁は杉板を二枚貼りにし、内壁はそれに更 に杉板を横貼りにすることで、三重の板で断 熱材を使わずに断熱性を持たせている。
床は檜の27㎜厚のムク板を本実縁甲板貼り にして、天井も杉板という具合に木で囲まれ た住まい。
基礎は鉄筋コンクリートで、構造材は土台、 柱が檜角、梁に松、造作材も杉と檜で、全て に内地材が使われている。

自然を感じ、健康で豊かな生活をいつまでも
桜湖の里づくりは、こんな小集団を近隣に四ヶ所設ける計画 だが、その目的とされているのが「住み、集う人々の心と健 康を大切にし、自然を感じ、健康で豊かな生活をいつまでも 続けていただく、安全で、ここちよい住宅をつくる」ことに ある。
この目的に添って造られた家は、木材に囲まれることで、湿 度が高い時は吸収し、低くなれば、放散して室内の温度調整 が自然に行われ、断熱性もよくて夏は涼しく、冬は暖かで、肌にも目にもやさしい。
自然の香りとここちよい響きが、安 らぎと安心感と健康をもたらしくれる。
椎原氏は「ここに住み、集う人々の心身に健康と豊かさをも たらし、過疎の地域に人々を呼び寄せ、木材産業を育て、地 域環境に貢献し、日本の新しい木の文化をもたらす住宅を」 と語り、「日本の風土にあった、健康的な究極の住宅は、地 元の国産材をふんだんに使ったこだわりの建物と言うことが できる」と強調している。
当然ここには、健康障害を起こすような化学物質を使った建 材等は使われておらず、アトピー等の障害のある人も安心し て住める住宅となっている。
これだけを聞くと、木で息苦しくなると思われるかもしれな いが、開口部は広く取り、山なみの絶景が眺望でき、都会に 住んでいた人が、田舎を満喫できるようにと、南側に面する 居間、台所、風呂は下まで窓を広くつけている。
三百坪近くの敷地に三十坪の建坪の平家で、ロフトが別に付 けられており、A棟の場合で使われた木材は、三十三m3と多 い、マツが三m3で、あとはスギ、ヒノキが半分ずつ。
その分 多少コスト高のようには感じても、長く住み、愛しめる建物 だし、地価も安いから、マンションよりも安くなるし、百年 住宅として見ればトータル的にはぐっと安いと言う。
新しい豊かな住まいへの考慮
椎原氏が、この建物で新しい豊かな住まい として特に考慮したのが、 ①自然を感じる光、風、暖等の自然の恵み を充分に取り入れ活用し、楽しむ。
②四季や一日の流れを感じ、楽 しむ。
③地震、台風、水害に対して充分な対 策がなされて安全で、安心できる住まい。
④百年は耐用できる住宅。
⑤自然の素材を多用した健康な住まい (地元の木材を用いる)。
⑥豊かな空間と懐かしさを感じる住まい。
⑦人と人とのふれあいを楽しむことがで きる住まい。
⑧自然で健康な、生き生きとした生活を 楽しむ住まい。
⑨環境にやさしい住まい。
⑩地域に寄与する住まいにあった。
改田氏がこの開発を考えたのは十二年前 だったと言う。
しかし、その頃は国産材 が高かったので実現しなかったが、バブ ルの崩壊で材価が手頃になったからと笑
うが、時期が満ちたのだと感じている。
都会に住む人達を先頭に、自然と健康へ の想いの強まりがあり、本当の健康住宅 への要請がある。
そして、住まいは、地 場産業として、地元の林業の発展や地球 環境との共生をはかりすすめられるべき という意識の高まりがある。
この時流を 背景にして、実現に向った構想と言える ようだ。

新しいふるさとづくりに町も一体での協力
これらが全体としてひとつの夢を計画にし、実現に 向けさせていると言えよう。
町役場も、このような小集団での移住計画は初の画 期的な試みとして注目し、町上水道の給水や合弁式 浄化槽による排水その他にも協力し、若年定住促進 奨励金として四種類の制度を設ける等、町外、県外 から親しまれて移住(永住)してもらえる〝ふるさ とづくり構想〟を具体化している。
桜湖の里・ヘルシーハウスの建つ所の地名は垪和で 「はが」と読む。
大化の改新以前、この地には矢竹 で矢柄を造り、鷹などを捕えて矢羽根をつけたりす る仕事をしていた人々が住んでいた。
矢尻に羽を造 り加えることから「羽加(はが)」となり、「垪和」 に転化したとも、「矢削部(やはぎべ)」が訛った とも言われ、古事記にも出てくる地名である。
この 地方の竹は、今でも良質で、よく生育するので有名 でもある。

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