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木の家を楽しむ住み人の声

再生した築200年の茅葺き屋根の家

~いろりに集う高畠の家~住み人/

山形県 安部さん設計・監理/㈱たくみ 丸山賢治

●我が茅葺き屋根住み家の再生工事安部さんからの便り我が家の再生前の住宅は、今ではおんぼろの珍しい茅葺き屋根の家で、江戸時代の中期、寛政3年に建てられた住宅です。雨降りには、洗面器を何個か抱え雨漏れ水を受ける状態で、よく今までこの家に住んで居られたものだと我ながら感心しております。思えばこの住宅が、200年以上も持ったことを考えると、只々、木たち生命力に驚くと共に、何だか不思議ですが、その事に感謝し有り難いことだと思います。

何故200年以上も風雪に耐えることが出来たのか。素人考えですが、それは丈夫な太い梁と太い柱、栗などの頑丈な材質、湿気の多いところには檜など適材の配置、職人の手でしっかりと編んだ壁の下地と厚い土壁、緑の下などの風通しの良さなどのお蔭で、我が家のような一般住宅でも200年位は優にもつ(我慢すれば)家が出来たのではないでしょうか。その時代の棟梁たちの木造建築への思いの深さが、この家に暮らしているとしみじみと伝わってきます。

あの、梁1本移動するだけでも大変な時代、先人達はどうやって上げたのでしょう。しかも屋根の上まで、クレーンもない時代、水平器もなく電動工具、パワーシャベルもなしでよくこんなことが出来たものです。何故そんな苦労をしてまで建てようとしたのか。昔も今も人の考えることは同じで、丈夫で長持ちし、快適に暮らせる家を建てたい、と考えてのことであったと思います。かつての日本人は、どこの国よりも木の美しさ、木の優しさ、木の強さを知っていたのかも知れません。思えば200年、現代の建築と比べたら何が違うのでしょう。現代の建物は、確かに化学的なデーターを基に、丈夫で長持ち、特に快適な住宅も多くあり、そんな現代の建築にも魅力があり引き付けられるものがあります。

素人の私には、どう違うのか分からないのですが、現代の建物に何代の人が生活できるのでしょう。それを考えると200年の歴史を刻んできた茅葺き屋根の我が家でも有難い事だと考えます。やはり日本には木の文化というか、日本の自然に溶け込んだ建築工法が結果的には世界にも類をみない日本の文化として、日本の家として生き続けて来たのかも知れません。結局は自然から、人間はいつも教えられて生きて来たのだと思います。私の家では、年寄りは「この古い家を残せ!」と言う、大雪で茅葺き屋根が壊された年でした。新しく建てれば簡単でしたが・・・。どうしたら良いかしばらく悩んでいましたが、そうしたある時、古民家など再生工事が得意な「㈱たくみ」さんを降幡先生より紹介して頂き、年寄りの意見も取り入れ、現代生活も快適に暮らせると言う工法があると言う事で、やっとこの再生工事が前進しました。工事中は、一時はどうなることやら大変でした。その間も雨水が壊れた茅屋根から容赦なく広げたシートに落ちていました。しかし再生工事が完成してみると、懐かしさをそのままに、子供達が「なんか新しい家に入っている気がしない」と良い意味で言っていました。

 

現代でも古い建物という違和感がなく住める再生工法があったとは知りませんでした。ふっと見上げると高い天井、太い梁、広い空間、そこに先人達の知恵を見ることができ、それでいて疲れることもない、やはり日本人は昔より木と共に生きてきたのだなあと改めて実感しています。

●再生工事の設計・監理を担当して私が安部邸の再生工事の設計監理に携わることになりましたのは、私が師と仰ぐ再生工事の第一人者である長野の降幡廣信先生より、山形県高畠町(まほろばの里)の推定210年も経つ古民家再生工事の命を受けたことに始まります。平成12年5月にその再生工事宅の安部邸を訪れました。安部邸は、車の窓越しに茅葺屋根の片側をブルーシートで養生してはいましたが、長年の風雪に耐え、特に今冬の大雪も凌ぎ、その冬の痛みを僅かに残しながらも悠然としたたたずまいを見せていました。母屋の広間(18畳)に案内され、囲炉裏を囲みながら安部氏より再生計画の経過や説明をお聞きしました。お父さん(爺っちゃん)お母さん(婆っちゃん)の言葉の端々に、祖先が築いた家を何とか残したいという強い思いが感じられました。再生計画の基本として、現在のご家族七名が、この歴史ある空間で囲炉裏を囲みながら快適な生活が出来るように、18畳間を界に、残す方を上げ舞し、基礎を高くし屋根を茅屋根形のカラー鉄板葺きとし、内部18畳間は太い梁と一部小屋組みを表した造りとし、水廻り部分と子供部屋は増築部分とし二階建てとすることにしました。計画から約1年をかけ平成13年5月に完成しましたが、何とか施主様の思いを実現できたかなと思っております。

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