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木の家づくり各地の動き<
「土間のある家」を都心につくる
青森ヒバに想いをこめた家族の家
東京/建築家・大沢 匠
都心の杉並区に家族のこころが通い合う「土間のある家」・青森ヒバの家が出来た。
昨年9月に民家再生で、古い民家を現代に蘇らせた建築家・大沢匠さんを取材した際に見せて
もらった建築中の家である。
本誌第7号特集「日本のこころ 日本の家 古い民家と蘇る民家」
で、大沢さんの民家再生を紹介し、その最後に少しだけ触れた家だが、完成を、大沢さんの話を
聞くにつれ、どうしても紹介したくなった家である。
ワークショップの家づくり
建て替えかリフォームかで迷っていたが、結局建て替えとなったKさんの家は、杉並区の閑静な
住宅街の中で、通りから少し入ったところにある。
「両親が建て、自分も育った家。
居間の天井が吹き抜けで気持ちがよい」というものの、傷み
がきているし、建て増しで不便さもあり、Kさん夫婦と4人の子供、お母さんの7人家族。
話し合い
の結果が建て替えだった。
どんな家にするかにはじまる家づくりに当って、大沢さんが試みたのはワークショップ的方法。
まずKさんの新しい家づくりへの希望の「できるだけ国産材を使った家」「日本の気候に合う
日本の建材」を基本に、子供たちからお母さんまでが参加した新しい家のイメージづくりで、ひと
つのスタイルが出来上がった。
住みなれた家には白アリも出ていたことから、国産材を使いたいというKさんに大沢さんが紹介
したのが青森ヒバだった。
湿度と腐朽菌に強く、美しい木理を知っている上に、前の年に青森
へ行き、下北半島の山のヒバの立派な林を見て、一度は使ってみたいと思っていたからだった。
そして「青森のヒバを見に行きませんか」という大沢さんの提案に、「それなら家族全員で」とK
さんが乗り、大型レンタカーでの家族旅行となった。
三内丸山古墳から下北半島、恐山、そしてヒバの見本林のある葉研温泉、そして青森市内の材木
屋でヒバの製材品を見るという2泊3日の旅が実現して、青森ヒバを使うことが決まりとなった。
建築家としての大沢さんが木材の知識を持っていたことと、実践行動の大胆な提案が実を結び、さ
らに家族全員での家づくりにつながっている。
この旅行中で三内丸山古墳での体験が、Kさんに「土のままの土間をつくれないか」と言わせる
ことになったという。
復元された竪穴式住居の内部は、残暑の厳しい日にもかかわらずヒンヤリし
ている。
土間に感激しての注文だった。
それを受けた大沢さんは、居間の南側に〝たたき〟仕上げの土間をつくる本当の土間床を、さら
に1階の床を、土間コンクリートの上に直接床を貼る〝土間床工法〟を考え、計画の骨格が出来上
がったという。
夏の涼しさと冬の暖かさをもたらす土の持つ温湿度の安定性を生かし、床下空間をとらない床は
、かつての北方系の祖先の暮らし方だったという大沢さんが、三内丸山遺跡での体験から本格的に
考えはじめて採用した土間床である。
ただ、冬期を住む前だったため、土からの寒さがどの位になるか予想できないので、床暖房は採
用したという。
昨年暮れに完成した家なので、結果的には一冬過ごしているが、土間のおかげで、乾燥しがちな
冬の室内に適度な湿気を放出してくれ、木材のヒビや割れも防いでくれたというし、土間と居間の
間に、当初計画の間仕切りを省いたが、それでも、全てペアガラスを使ったことと、木製の窓や引
き戸の影響もあってまったく寒さも問題なかったという。
その次にKさんがこだわったのが壁だったという。
新建材やビニールクロスにしたくなかったと
いうことで行き着いたのが左官壁。
そして左官屋さんもKさんがインターネットで探し、すぐ近所
に住み、イタリアでフレスコ技法を学んだという若い職人さんと出合って話がまとまったという。
竹小舞も組めるということで上壁になったという経緯であった。
外壁はモルタルの上に土佐漆喰の
木擢コテ仕上げで、微妙な細
工が施されている。
内部は土壁が主で、仕上げはなるべく土の感触を
残した中塗りとし、大沢さんが好きな竹小舞仕上げの円窓もある。
外壁には既成品の木舞竹で手間をはぶいてはいるが、あとは伝統的な塗り方で、下塗り*返し塗り
*貫ぶせを行っている。
土間もこの職人さんの力を借り、庭での土こねからはじめての三和土仕上
げとなった。
家族でつくる家のシンボル
設計に当っても大沢さんは、家族の希望を出してもらい、それを生かしている。
「家族のコミュ
ニケーションの取りやすい家」という要望に対し、なるべくオープンな間取りで、1階を広々とし
たワンルーム空間にすると同時に、土間の上を吹き抜けにすることで2階との一体感を持たせている。
「子供の成長に合わせた子供部屋の増設」という希望に対しては、当面は2つに仕切る程度にし
て、成長したら4部屋の子ども部屋をつくれるように考えたつくりとしている。
大沢さんのもうひとつの提案は、建具はすべて木製引き戸にして、南西に開く庭と道路空間とを一
体にした開放的なものにしてはどうかだった。
かつての日本の住まいが、縁側や土間から自由に出入
する、内と外とのゆるやかな関係であった民家のようなスタイルが、Kさん一家にピッタリすると思
ったからだという。
また以前のKさん宅でも中庭で金魚を飼ったり、バーベキューをしたりしていた
というし、今度は、土間からのより広い空間を持てるからだった。
木製引き戸も戸袋に収納する。
これに合わせて玄関もドアではなく引き戸にするという提案にも納得してもらい、「変っているで
しょ」と大沢さんが満足気に笑う、玄関でないような不思議な形の玄関が出来上がっている。
こうして出来たのが「土間のある家」だった。
土間づくりに入る前ではあったが、建築中のこの家を見て心を打たれたのは、土壁・竹小舞と薄緑
をおびた淡い黄褐色の青森ヒバの太い柱と手作りの建具。
そして何よりも2階子供部屋の前の広いホ
ビールームの真ん中に立つ丸太のままのヒバの柱だった。
聞けば、青森からヒバの丸太を取り寄せた工務店まで行って家族全員で皮をむき、ていねいに磨い
たものだという。
大沢さんのワークショップ型家づくりの象徴的表現であり、この家のシンボルにも
なって、心を通わせてみんなで参加した家づくりの楽しい思い出の柱となっているようである。
ほかにも家族の希望が生かされたところには随所にある。
3階のロフトは、将来何かの必要が出て
きた時に生かせるようにし、今は、ベランダで洗濯物を取り込み整理するスペースと納戸として使う
ことにしている。
台所は「家族で料理作りを楽しみたい」という希望を反映させて調理テーブル付き
の台所となっている。
ピザを自分で焼くのが夢だったというKさんのために、土間にはバーベキュー
炉付きのピザ窯も設けている。
お母さんの部屋を南東に置いたのは、陽当りの良さと庭へ出入する家
族や、今までも庭のシンボルであった桜を眺め楽しんでもらおうと考えたからだという。
至るところに家族参加の家づくりが見られる。
希望を最大限に取り入れる姿勢もさることながら、
家族にとって長く住んで愛着の持てる家づくりをコーディネートし、山へ木を見に行く、皮むきをす
る、土間づくりをするなど、なるべく家づくりに参加する場を持つことを大切にした大沢さんの家づ
くりの姿勢が、本当に建主に喜んでもらえる家づくりとなっている。
建主の建築に対する知識の有無より、自分の家をつくることへの積極性を引き出すことが、これか
らの家づくりに問われていることを感じさせられる。
大沢さんは、「世紀の変わり目に近づき、様々な分野で見直しがすすんでいるが、家づくりにかか
わる建築家もその役割や意識を考え直す時期に来ているのではないか」と問いかけている。
情報があふれ、生活者がいろいろ勉強しているいま、「成熟した消費者が、力を借りるに足る専門
家になることが、私たちの使命のひとつではないか」と言って、これからの建築家の役割はもっと広
がり、街づくりのコンサルタントとしての役割、家づくりのワークショップを運営するファシリテー
ター(促進者)としての役割もそのひとつではないか」と語っている。
風通しの良い日本の家に
今回の家づくりに当っての大沢さんの基本方針は、在来軸組構法にする、健康な住まいをめざす、
風通しの良い家をつくることに置かれていた。
構法については、在来軸組みとし①継手、仕口には金物を使わない、②伝統構法に可能な限り近
づけ、継手は込栓、くさびなどによる、③筋交いを使わず、貫+構造用合板により壁耐力をとる方
法がとられている。
健康な住まいをめざしては
①接着剤をなるべく使わない家にする
②O設計室特注の厨房家具では徹底的に合板を使わず、ヒバ材による框組みの扉や引戸引出しを採
用する
③塗装は渋柿などを採用するなどの配慮が施されている。
大沢さんが一番大切にしたのが風通しの良い家にすることで、風が通り、家族の気持ちが通じ合
えることを設計の中心に置いたという。
それは①南北から東西へ風が吹き抜けることを目標にし、
②風を感じ、人の気配を感じる家、子供の姿がいつも見える家、③すなわち、日本の家の本来型で
ある家族の風通しも良い家をめざしたものであった。
これにワークショップ型の家づくりが加わって、大沢さんにとっても満足感があるようだが、誰
よりも満足し、感激しているのはKさん一家のようである。
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