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「土壁」癒しの健康素材と健康づくり
人類が文明生活を始めて、最初に出現する加工用具は土器とされています。
その材料となる土をナマのままで利用したものが土壁で、そこから左官の技術も始まりました。
これらの素材は、可塑性、展伸性といった優れた性能を持っていたことから広く建築技術のなかで利用され発展していったものと考えられています。
左官と言う名称が使われ始めたのは文献上では、坂口家文書の「室町殿実録永享八年」というのが最初で、ついで元和元年に本光国師日記に「左官助三郎」とあるのがそれと言われています。
左官の呼称は、少なくとも桃山時代以前からあったものと思われますが、巷にゆきわたったのは江戸時代とされており、それまでは泥工・砂官・壁大工等とも呼ばれていたそうです。
古くから日本文化に深く浸透していた土壁は建築様式の洋風化にともないその数は急速に減少し、最近ではコンクリートやモルタル壁にクロス貼りの壁を想像されることと思います。
壁とは人々を風雨から守る役目があれば良いようですが、左官が塗る「塗り壁」は、社寺等を見れば分かるように、心(わび・さび)を含んだソフトで、耐久力があり、しかも健康的な役目をもっています。
ほんの数10年前までは当たり前のように使われていた土壁。
その優れた性質が現在の自然志向、健康志向の流れの中で脚光を浴び始めています。
今回はそんな癒しの健康素材としての土壁にせまり、いかに日本の気候風土に適した素材であるか、再認識して欲しいと考えています。
土壁がなぜ健康に良いかというと、第一に考えられるのは高い調湿性能にあると言えます。
日本の気候風土はご存じの通り温暖多湿のため、最近の乾式建材で作られた高気密高断熱の壁では結露によるダニの発生が問題となっています。
壁には乾式工法と、湿式工法があります。
最近の壁材にはほとんどが工場生産による加工材が使われており、これらの資材による施工を乾式工法といいます。
一方湿式工法は、水を媒体として拵えた材料で塗る事を言います。
水を使用して壁を塗るため乾燥した壁が湿度を調整することで部屋に潤いを与えるのです。
このように湿式工法である土壁は自然素材であるため、その資材そのものが持つ吸放湿力が自然調湿の役目をするので健康的と考えられています。
特に最近では超多孔質性の資材「珪藻土」の開発によって、健康壁イコール珪藻土壁といわれるくらい注目されてきており、本誌創刊号でも既に紹介しています。
最近の住宅は高気密高断熱であるため、温度・湿度の調整をエアコンや換気扇に頼る割合が高くなっています。
日本の気候を考えるとその矛盾に気づくはずですが、大手ハウスメーカーを筆頭にそれが現在の主流としてまかりとおっています。
本来、日本の住宅には昔から温暖多湿の気候風土に適応した部屋づくりが確立していました。
その中心が木材と土壁であったはずです。
そのいずれの材料も自らが呼吸できる素材であるため、自然の状態に温度・湿度を調節することで快適な住空間をつくり出していたのです。
土壁材料には、このように吸放湿性能に優れているだけではなく、室内空気中の有害物質を吸着する効果も備えていることが、滋賀職業能力開発短期大学校住居環境科の杉本誠一講師の実験によって明らかにされました。
実験ではアンモニアとホルムアルデヒドを吸着対象物として測定が行われ、どちらの有害物質に対しても高い吸着効果が確認されています。
さて、これまでは住宅内部の壁について言及してきましたが、当然壁は外にもあります。
そして健康への影響は外部の壁についても関係があります。
最近の家では、外壁も乾式工法で施工される事が多くなっています。
当然ながら壁面には継ぎ目があり、その継ぎ目から雨が漏れる事例が最近多くなってきています。
壁材の中には保温材が入っていますが、その保温材に水分が多くなると重くなって壁の隙間、特に下の部分に溜まってしまいます。
この保温材は水分を発散させませんので、非常に衛生的に悪く、ダニ等が発生しやすくなるのです。
その点土壁には継ぎ目がないので、この様なことはおこりません。
また健康面ばかりではなく、火災においても土壁の優秀さを知ることができます。
外部の壁に関しては、乾式・湿式いずれの施工の場合でも耐火性に問題はないのですが、特に水を媒体に塗られた土壁は適度な水分を保有しているため、燃えにくい性質を持っています。
しかし、不幸にも火災が発生した場合、もっとも重要なのは内部の壁で、その役割は人間の命に関わる問題となります。
火災での死亡事故のほとんどが「煙害」によるものだといわれています。
乾式材による有害物質の発生が避難の妨げとなり、炎から逃げるよりも先に、煙にまかれて命をおとすというケースが目立ちます。
ホテルなどの火災で多数の死者がでるのもそのためとされています。
その点、土壁などの「塗り壁」は殆ど燃えず、
有害な物質を発生させませんので煙やガスで命を落とすようなことはまずなく、安心できます。
このように土壁は、健康的という事だけではなく、人の命や財産を守る役目も果たしてきたのです。
さらに環境という観点から見ても土壁をはじめ「塗り壁」と呼ばれるものの資材関係には、ほとんどがリサイクル出来るものを使用していますし、セメント系統の材料にしても廃棄・焼却のいずれにおいてもダイオキシン等の有毒物質を排出しません。
壁として使用する時は健康に優しく、リフォーム等で解体する時には環境に優しいものとして人類に貢献できる材料と言えるのです。
このように優れた性質を持つ土壁ですが、実際に施工するにあたっては、様々な現実的な問題があるのも事実です。
最大の問題点と言えるのは、湿式材の宿命ともいえるその工期の長さとコストについてです。
いくら良いものでも従来の工法のままではこれ以上の普及には限界を感じます。
しかし最近ではこの問題をクリアすべく、「乾湿工法」という新しい工法が誕生しています。
下地材に石膏ボードなどの透湿性のある乾式材を使用することで工期の短縮をはかり、同時に費用を抑えることも可能にしました。
また吸放湿性能においても旧工法に近い数値をだすことに成功しており、関係者の期待は大きくなっています。
土壁などの左官壁は高値になるとの感じがありますが、その性能と耐久力を考えれば建築時に少々高くついても永い目でみれば安いことが分かります。
それは各地に残る茶室・社寺・城郭の壁が証明しているとおりです。
一度塗れば何十年、何百年ももつものが左官の壁なのです。
日本の壁だけでなく大正時代に建てられた洋式建築からもこれは理解できると思います。
土壁は日本の気候風土のなかから生まれた人間の知恵の産物で、これらの壁を芸術化したものが茶室であり、社寺の壁といえます。
最近になって土壁が注目されてきたことはなにも実用的な性能ばかりが求められたからではありません。
精神的なもの、土の温もり、素朴な味に魅力を感じる人が増えてきた結果と言えます。
そして若者の中には「左官のアート性」に魅かれ、興味を持つ人も出てきていると聞きます。
茶室を完成させたのは茶道の大成者、千利休と言われています。
その利休が、土壁の茶室にかけられた掛け軸を見て、「荒壁にかけものおもしろし」と謳った記録が残っています。
土壁の持つ味わいが、この一節に凝縮されているのが読みとれるのではないでしょうか。
世界の7979種もある樹木のレッドリストを日本語で調べられるようにしています。フレームを利用するタイプと通常リンクで利用するタイプの二通りの利用方法があります。科名(英語)、科名(和名)、学名(属種)、命名者、標準和名、年度(年版)、カテゴリー、その基準、標準英名、標準フランス名、標準スペイン名、基準の説明、ワシントン条約の項目があります。カテゴリーとはレッドリストの絶滅度の度合いを区分けしたもので、その解説を基準の説明でしています。これは国際自然保護連合(IUCN)のデータを参照し引用したもので、日本語訳にしてくれておりわかりやすいです。ホームページは
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