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人間の特性と住まいを考える
ミクロの世界の研究に学ぶ
●人間は奇跡の存在
ずいぶん回り道をしたかもしれませんが、それは、人間の構造、精神やこころについて
の根源を理解しないと人間らしさを知り得ないと考えたからです。
◎人間誕生の神秘のプロセス
とりわけ、近代の実証主義と再現性に依る科学観に馴らされている私たちは、人間の存
在を絶対的なものと思い込み、頭デッカチの近代科学の枠内での判断に頼ってしまってい
ます。
私たちのはるか祖先の素晴らしい文化や科学の成果を知ることもなく、最先端の超
ミクロと超マクロの科学(まだ始まったばかりですが)が到達した成果にさえ目を向けよ
うとしていません。
現代社会が根源からの思考方法ではなく、目先対策、対症療法的思考に陥っていると思
われるだけに、「木のこころ」では、より根源からという視点を大切にしたいと考えてい
ます。
そこで改めて人間について考えてみます。
人間を考えると、人間という生物が存在して
いる地球という星の超不思議に出くわすのですが、なぜ地球には水があり、大気があり、
木があり、成層圏があるのかは、ここでは省いて、人間に焦点を当てて考えます。
まず誕生のプロセスを見ると、そこには想像を絶するドラマがあります。
人間の誕生は、1個の受精卵から始まり、その細胞分裂の繰り返し、つまりその遺伝子
情報のコピーの繰り返しで大きくなります。
私たちが学校で習ったこの受精卵の誕生まで
のプロセスでは、約1億個の精子の中の強いものが卵子と結合するという競争の原理で
した。
ところが、喰代栄一さんの「地球は心を持っている」(日本教文社)によると、射精に
よって女性生殖器に入った精子は、卵子細胞が精子を引きつけるために分泌する化学物質
に向かって群をなして泳いでいきますが、膣内の酸との戦いに始まります。
人間に例えれ
ば、荒波に逆らって毎秒3mくらいのスピードで約5mほど泳いで輸卵管にたどりつき、
今度は精子の8万5千倍もの巨大な卵子に向かって2重3重の障害を打ち破っていかなけ
ればなりません。
約1億個の精子が、自分たちの代表を卵子に送り込むための戦いで討
ち死にする形でサポートし、最後に1個の精子がたどりついて受精に至ると言います。
それは競争ではなく、協力と助け合いと自己犠牲で代表を送り届けるという巧妙で精緻
なプロセスを辿るものだと書いています。
これはまだ、生命誕生の序章でしかありませんが、1個の受精卵をつくるために約1億
個の精子が必要とされていることを知ると、この人知を超えたすごいドラマの神秘性と奇
跡の存在としての最後の1匹を考えざるを得ません。
同時に、このようにして生まれてくる
一人の人間が超の字がつくほど貴重で有り難い(有ることが奇跡のように難しい)存在だ
ということがわかります。
ここまでのプロセスは、他の動物でも多かれ少なかれ似ているようですから、人間だけ
ではなく、生物を生ませるという大自然の働きがいかに精緻極まりないものかが知らされ
ます。
次に知ってほしいのは受精卵が細胞分裂を繰り返し、体内の羊水の中で赤ちゃんへと成
長するのですが、そのプロセスもまた人間ワザでは為し得ない意味深いものがあるという
ことについてです。
遺伝子研究の権威である村上和雄筑波大学名誉教授は、「生命の暗号」(サンマーク出版
)の中で、遺伝子の中には地球生命35億年の歴史が全部インプットされていると言って
います。
「人間の遺伝子の中には、昔の魚や、爬虫類などの遺伝子も入っており、受精し
てから誕生するまでに、胎児は母親の胎内で過去の進化の歴史をもう一度大急ぎで再現す
る」と言っています。
胎児は、受精後3週間で魚の姿をし、五週間で両生類、3ヶ月で爬
虫類、そして哺乳類の姿をし、7ヶ月でチンパンジーの姿になって9ヶ月強で人間とし
て誕生してきます。
それでも人間からは魚や爬虫類は生まれてこないようにセットされて
いると言います。
なぜ人間が生まれてくるのに、地球上の生物の進化の歴史を再現する必要があるのかが
問題になってきます。
◎35億年の進化を宿す人間の脳
それを考える前に、もう少し不思議な世界を見ておきます。
たとえば脳についてです。
脳の構造もまた地球上の生物、爬虫類にはじまる動物たちの
脳の機能を持っています。
学校教育で、脳の器官については大脳の前頭葉、頭頂葉、後頭葉をはじめ、中脳、小脳
、延髄等の構造学的なことについては学んでいるはずです。
しかし、その役割や重要性に
ついてはあまり学ぶことはなかったのではないでしょうか。
そこで右脳研究の最先端を行く七田眞さんの「超右脳革命」などから学び、別の角度か
ら脳を見ると、タテの系列とヨコの系列からその構造と役割を見ることができます。
ヨコ系列は、私たちが日常働かせている低速リズムの言語脳と言われる知識中心の左脳
と、古代人が働かせていた超高速リズムの無意識・意識を中心にしたイメージ脳で、超意
識と結びつく右脳とに区別されます。
ヨコ系列の右脳の問題は、別の機会に改めて考察することにして、ここで取り上げたい
のはタテ系列です。
タテ系列を大きく分類すると大脳新皮質、大脳辺縁系(大脳旧皮質)、脳幹の3重構造
とされ、人間の意識の関係では爬虫類複合体を含めた4重構造とされています。
これをもう少し詳しく内側から見ると、まず、すべての動物に共通してあるのが脳幹で
す。
この脳幹は、生殖と自己保存に必要な根源的神経機構のあるところで、「いのちの座
」と呼ばれ、松果体、脳下垂体、中脳、脳橋、延髄、脊髄と間脳と呼ばれる視床、視床下
部がこの中に含まれます。
次が大脳辺縁系の前にある爬虫類複合体です。
これは数億年前に進化して爬虫類よりも
高度な動物にできた脳で「本能的な情動の座」と呼ばれる部分です。
その次にあるのが大脳辺縁系で「情緒・感性の座」と呼ばれる部分です。
これは約1億
5千万年前に進化して哺乳類に備わった脳です。
そして最後にあるのが高等哺乳類である人類だけが持つ大脳新皮質で「理性・知性の座
」と呼ばれる脳です。
このようにして見ると人間の脳には、地球上の動物の進化が包み込まれていることがわ
かります。
おそらく、母体の中で胎児が、35億年の進化の歴史を再現している過程でこの
ような脳が構成されてきたものと思われます。
脳幹にはじまるそれぞれの脳には、それぞ
れの働きがあるからこのような構造になっているのでしょうが、それにしても考えたいの
は、すべての動物の脳を持ち、その上に人間だけの脳を持っている意味についてです。
進化論で言われるように、人間が他の動物の進化の結果ではないことは今ではかなり知
られるようになってきました。
エンゲルスの「猿が人間になるについての労働の役割」が
まだ語られているようですが、遺伝子の研究からの報告では、チンパンジーと人間の遺伝
子の違いからそれは完全に否定されています。
ですから、ここでいう動物の進化は、単に進化して形が変わったということではなく、
地球上の究極の生物として人間が誕生するまでの歩みのこととして捉えてほしいと思いま
す。
別の角度からいえば、宇宙は、地球に生物が誕生してからの35億年間の試みとその進
化の結果として人類を生み出したということであり、人間にそのすべての動物の心をわか
らせるような仕組み、脳の構造を持たせているということになります。
これまで本誌では、ひとつの大きなテーマとして、木という植物の出現からその答えを
探ってきました。
そこから到達した答えのひとつが、ヒト科のヒトという人類を生むため
に、宇宙の大いなる意識が太陽系をつくり、地球をつくり、植物を育てて大気をつくらせ
、植物の究極として木をつくり、動物を生かしてきたという進化があったと考えざるを得
ないというところにあります。
それは、地球のすべての働きと存在のおかげで人間が存在していることを意味していま
す。
決して、地球の支配者として人間が存在するようになったのではなく、宇宙と自然に
よって生み出され、生かされている存在であることを教えてくれているのです。
私たちは、35億年もの歴史をかけて人類を生み、育て、生かしてくれている地球と自
然に感謝すること、そして1人ひとりの人間は、誕生のプロセスから計算して7兆分の
1という奇跡の存在であることへの喜びを持つべきではないでしょうか。
「望んで生まれてきたのではない」と言っても現実には生きています。
本質生命体のこ
とは別にしても、1人ひとりの親もその親も同じようにして生まれてきたのですし、子も
同じように生んでいるのですから、「自分だけ」と考えるべきではないようです。
元千葉大名誉教授であり、元日本インテリア学会会長であった小原二郎先生の木材と日本人の文化についての資料をまとめたものを掲載しています。日本人と木材、タテ割りとヨコ割り、木肌の魅力と木用貧乏、木材を生かす愛情の4つに大きく分類されています。それぞれ、鉄やコンクリートには人をひきつける何かが欠けている、桧は切られてから300年間、強さが増す、人に人柄があるように、木材にも木柄がある、看板をわざわざ木材で作るところが日本的、木が生えていたときの条件と同じにしたなど、他にもたくさん紹介されています。資料ひとつひとつの長さは、長すぎず短すぎず、読むのにちょうどいいです。また、英文も同時に掲載されています。
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樹から木までの散歩道 です。
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