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学習のひろば

シンポジウムより

(社)日本建築家協会近畿支部住宅部会は、2月16日と3月2日に兵庫県芦屋市 民センターで〝風の路〟シンポジウム2002第9回・第10回を開催した。
9回目の講師は、ナマコの研究の第1人者であり、〝歌う生物学者〟としても有名 な東京工業大学生命理工学研究科の本川達雄教授で、「~ナマコから現代文明まで~少 しだけ動く生活」と題し、生き物の形、生き物の時間といった観点からナマコがいか に省エネであり、人間がどれほどエネルギーの浪費をしているか、そこから21世紀の 文明とそれを支える技術に何が求められるのかを講演し、質疑応答を行った。
10回目の講師は、仏文学、現代思想、言語学を専攻し、日本語について理論を展開 している、中央大学理工学部の加賀野井秀一教授。
「やっぱり日本語~曖昧さに隠され た発想~」と題し、曖昧でいい加減だ、習得するのは難しいとよく言われる日本語に ついて、今抱える問題点や、理にかなった言語であることなどを解説し、画期的視点 で日本語論を語った。
以下に質疑応答を含む講演の要旨を紹介する。
● ナマコから現代文明まで 少しだけ動く生活 東京工業大学生命理工学研究科 教授 本川達雄生き物のデザインを考える 今までの科学教育は論理や分析的な事実を与えることばかりを行ってきた。
そして各 専門に細分化された現代において、ものごとを正しく判断するということが難しくなっ てきている。
現在、環境や人にやさしい技術といったことが盛んに言われているが、環境とはさま ざまな生き物がからみ合ってできていて、人間はその生き物の一員である。
そこから、生き物とはどのようなものであるのかを理解しなくては、文明を支える技 術が人や環境に優しいものとはなり得ないであろう。 物理学的思考一辺倒で発達してきた技術の限界を乗り越えるためにも、生物学的思考 が必要であり、生き物の形、生き物の持つ時間といった生き物の基本デザインを鍵とし て、新しい技術をつくり出すことができる。 それはまた、現代人にとって本当に必要な教養というものであろう。
●生き物の形 ナマコの研究をしているうちに、ナマコの目から世界を見るとどうなるかを考えた。
動物・生物にはデザインがあるが、それを人間がデザインするものとどんな関係にある かを考えると大変面白い。
生き物を知る、人間を知るということは、その機能だけでなく形を知ることが必要に なってくる。
生き物には、微生物から動植物に至るまで多種多様な形態があり、生き物全体を通 じての形となると定義し難いように思われる。
しかし、よく見ると生き物は基本的に円柱形によって構成されていることがわかる。
動物、植物を問わずその体は円柱形の部品が組み合わされることによってできている。 動物であれば、頭、胴、腕、足などすべて円柱形であるし、植物においても、幹、 根、葉脈など円柱形が基本となっている。 中には平たい部分もあるが、光合成に必要な光をたくさん受けるために広い面積が 必要な植物の葉、蝶が飛ぶために必要な羽や魚が水中を泳ぐために必要なひれなど、 大きな表面積を必要とするところに限定される。
では、なぜ円柱形なのかということについては、円柱形が構造物として力学的に強 く、体を支え維持するために適した形だからである。
力学的には球体が最も強度は高いが、球体は体積当たりの表面積が1番小さい形で もある。
生き物は、体の表面を通して栄養等を吸収したり熱交換をしたりしているが、体積 の増加が長さの3乗に比例するのに対し、表面積の増加は長さの2乗に比例し、食事 をするにも体温を維持するにも、球体ではサイズが大きくなるにしたがって表面積の 不足が生じてくる。
そこで、力学的にも強く、表面積を確保する工夫として円柱形が 決定された。 生き物の形は円柱形なのである。
●生き物は水っぽい 次に生き物は何でできているかであるが、そのほとんどは水である。
人間の場合、年齢にもよるが、体全体の60~80%が水である。
ナマコは90%、クラ ゲは95%、ミミズは80%、ヤギ79%、カエル8%が水である。
水には特別な性質があり、1つは水の分子が水素結合という分子同志が離れにくい結 合をするために、本来ならすぐに蒸発するはずのものが蒸発しにくくなっている。
もう1つは、様々な物質を溶かす性質、溶解性が高いという性質がある。
特に後者の性質は重要で、物質どうしが結合したり分解したりする化学反応は、水が 存在することにより起こったり促進されたりするものが多くなることを意味する。
生き物においては、生理的活動が、種々の化学反応によって為されていることから、体 の含水量が多いということは、その生き物の活力が豊富であるということになる。
人間も年齢が高くなると含水量が低下するが、活力も低下していくことはそこからも説 明できる。

ここでさらに水と円柱形の関係について見ると、水は流体であり決まった形が無いが、 それを脂の膜で囲い込んだのが生き物の細胞である。
水を囲い込むと内圧が生じ、それ を支えるために円柱形が必要となってくる。
生き物は、進化の過程で、単細胞生物から多細胞生物へと移り変わってきているが、 多細胞生物はその発生過程で円柱形の細胞がさらに分裂合体し、内肺葉、中肺葉、外肺 葉となり、細胞内ばかりでなく個体としてその体内にも水を囲い込んできた。
正に生き物は水っぽいといえる。
●生き物と人工物 以上のことから、生き物=丸い、軟らかい、水っぽい、という明確なイメージが浮か び上がってきた。
それに対して人工物はどうか。
周囲を見渡すと人工物は総じて、四角で角があり、平 たいものが多い。 そして、人工物は水っぽくないのである。
人工物=四角い、硬い、乾燥していると言え、ここに生き物との設計思想の違いを見 ることができる。
人工物は、作られる際に水を使い化学反応を必要とするものが多い。
しかし、1度で きあがってしまうと、その耐久性を維持するために逆に水を嫌うようになる。
水が原因 で化学反応を引き起こし劣化が進むためである。
それは、自然では処理しきれない廃棄物を生む結果となり環境破壊へとつながってき た。
文明とは、歴史的に見ても、石器から青銅器、鉄器と、硬く、水っぽくない人工物の 上に発展してきたことがわかる。
これらのことから、現代文明を支えている技術というものが自然とは反対の立場に位 置し、自然を効率よく破壊するものであると言うことができる。
つまり、良い人工物とは自然と相性の悪いものなのである。
●文明の時間 体の時間だけでなく社会生活の時間も時計で計るものではないかもしれない。
エネルギーを使えば使うほど社会生活の時間も速くなっている。
車をはじめ、文明の利器と言われるものは、便利なものばかりで、便利とは速くでき ることと言える。
飛行機、電話、コンピュータ、工場の生産ラインなど、エネルギーを 使って時間を速めている。
社会活動においてもエネルギーを使えば使うほど時間が速く進むと言ってよいであろ うし、安定した食糧供給、安全な都市づくり、頼れる医療など、莫大なエネルギーを使 用することにより可能になっている。 現代人の寿命は人工的なものと言えよう。 我々は、時間とは絶対に変わらず一定に進むものと考えているが、エネルギーをふん だんに使うことにより時間を操作しているのが現実なのではないか。
そうであるならば、 我々は時間をデザインすることが可能であると言える。
建築物においても、空間だけの設計から生活の時間までを含めたデザインが求められ てくるのではなかろうか。
●時間は回る そもそも生命というものは永遠を目指すものであり、我々も不老不死を願ったり、自 分を永遠にこの世に刻印しようと不朽の建築物を作ったりする。
永遠に残る建物を作ろうとすれば、絶対に壊れないよう建てなければならないが、歴 史上、世の権力者によって建てられたものは、ほとんどが跡形も無くなっている。
しかし、ニュートン力学的思考に支配された西洋的な〝時間は直進する〟という考え から離れ、仏教などに見られる〝時間は回る〟という考え方をするなら、永遠に残る建 物も可能となる。
伊勢神宮がその代表例である。
物は壊れるに決まっているのだから定期的にまったく 同じものを建て替えていけばよいという発想である。
子孫を残すことによって時間をリ セットし、時間を回す 生物的発想とも言える。
現代人の最大の環境問題は時間の問題ではないか。
文明の力によってエネルギーの消 費時代になり、早くなった環境に体がついていけるのかどうかだが、体の時間は変わっ ていない。
体の時間に合った家の時間を支配する家をつくって、安心して暮らせる環境 を考えることが大切ではないか。
これからの住まいや環境の問題を考えたとき、ナマコのように少しだけ動き、省エネ に徹しゆったりと生きる時間のデザインは、何かしらのヒントを与えてくれる。
大量のエネルギー消費によって生活速度を速めている現代社会は、人間が生物として 持つ時間と文明の時間環境が合わなくなってきている。
そのことに気づいた今こそ、ニュートン力学的な時間概念から抜け出し、生き物とし て本来持つ時間の基準を持つときではなかろうか。
●やっぱり日本語  ~曖昧さに隠された発想~ 中央大学理工学部教授 加賀野井秀一 日本語が直面している問題 日本人は、はっきりと自分の意見をしゃべれないと言われている。
最近は、1語文が 多く、きちんと話すことが身についていない人が増えている。
曖昧さに頼り、言わなく ても解ってもらえるという甘えから、そのような状態が生み出されてきた。
  元来日本人は寡黙であり、万葉時代から以心伝心の文化を生みだした。
日本語は1を 言って10を知ると言うように全てを言葉で説明せずに、コミュニケーションを行って きた。
例えば文学を見ても、外国の文学では愛を語る言葉が溢れているのに対し、日本の作 品の中にはあまり見かけない。
それは日本語の素晴らしさであり、決して捨てさるべきものではない。
だが、国際化 がすすみ、生活も欧米化し、日本人の生活形態が変化する中で、今までの曖昧さ、あ・ うんの呼吸などが通用しなくなってきている。
もともと日本人は、議論をつくして相手を説得することが嫌いだった。
以心伝心の文 化は素晴らしく、寡黙な文化は素晴らしいのだが、以心伝心のできない時代、言わなけ れば通じない社会になってしまった。
そこに日本語が直面している大きな問題点が見え てくる。
なぜ、通用しなくなったのだろうか。
曖昧さで通じるには、お互いの共通教養が同じ レベルでなくてはならない。
しかし、現在、共通教養が著しく低下、もしくは崩壊して いる状態であると言える。
以心伝心のコミュニケーションをしているつもりでも、もう それが通用しなくなってきている。
また、現在はグローバル化が進み、日本人以外の人ともコミュニケーションを取らな くてはならない機会も増えている。
欧米の1から10まできっちりと言語で伝える文化 に対し、日本人の曖昧さに頼る言語は通用しない。
それは、今までの言語教育に問題がある。
時代が変化する中、言葉で伝える技術が必 要となっているのに、いつまでも以心伝心に甘え、慣れてしまって、相手を説得する技 術を培ってきてこなかった。
これが今日本人が直面している大きな問題である。

日本は民主主義国家として、近代化を進めてきた。
民主主義とは多数決で決まるもの であり、多数決で決定するまでには、とことん議論しなければならない。
それができな ければ、多数決は有効に機能しない。
だが、日本人は議論する技術を身につけていない。
それはとても危険なことである。
それに、現在使われている言語は、明治期に入ってきた西洋文に対応するために1万 語の新語がつくられたが、それが日常の言語の中でたくさん使われている。
言語史にお いては、大きなカルチャーショックだったが、思想語とも言える2字の新しい漢字語を わかったつもりでいるが、本当にわかっているのだろうかという問題もある。
言語が身 についていないので、どうしたらよいかと言葉にうろうろさせられているという面もあ る。
●それでも曖昧さはすばらしい ここまで見てくると、日本語のもつ曖昧さの欠点ばかりが目についてきたが、決して このまま捨て去るべきものではなく、むしろ大事にしなくてはならないものであるとも 言える。
時代の変化の中、相手を説得する技術も日本人は習得していかなければならないが、 それと同時に以心伝心で通じる日本語をもう1度きちんと考え、取り戻せるものなら取 り戻すべきである。
共通教養の崩壊はなぜ起こったのか。
そこには様々な要因があるが、現在の情報過多 の社会が、共通教養をつくれない要因の1つと言えるのではないだろうか。
あまりにも多くの情報の中で育つと、本来必要であり、皆が知っていることが常識で は無くなり、世代ごとに自分たちに興味があるものしか取り込もうとしない。
また、情 報量は多くても、質はどうなのかということも問われる。
現在の若者の幼児化も問題と されているが、この様な背景からくる、言語の未熟さが原因とも言えるのではないか。
かつての曖昧な表現は、共通の高度な教養と理解の上に成立したし、空白が大事であ った。
それが今は舌足らずに転換してしまった。
再び曖昧な言い方にできるようにしなければならない。
きちんとした論理言語を持つために、表現教育のない教育学校の国語教育の改革、辞 書の充実(諸外国に比べると日本語の辞書はまだまだである)をはかり、言語で伝える 技術を身につけ、その上で、もう1度、日本人が何千年もかけて培ってきた以心伝心の 文化を再認識することが求められている。
と加賀野井教授は日本語のすすむべき道を語 った。
欧米化の波にのまれ、本来の日本の良さを殺してしまっていた日本。
もう1度、日本 人の良さを見直し、その上で新しい力を身に付けるという姿は、言語も家づくりも同じ である。

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