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木造伝統住文化の都市への再生をめざして
実験から分かったこと
●高い耐力と壁倍率、大きな安全率が得られた 表2に、試験体毎の1/300rad.(大抵の試験体で壁倍率がほぼ決まる軸組の変形角で、震度5~6の中地震想定時の揺れに相当)時の耐力と最大耐力、先に述べた壁倍率と安全率を一括して示します。
従来の実験値に比べると、「一般工法」の内壁だけは同レベルの性能値を示していますが、それ以外は極めて高い耐力と壁倍率、そして大きな安全率が得られています。
これらの数値の持つ意味は以下で順に説明します。
●従来の土壁実験とは最終崩壊形態がかなり 異なった 従来の実験では、大変形になると加力の繰り返しの影響も受けて、塗土が中塗り・荒壁ともに全面的に崩落して、小舞下地が露出する例がしばしば見られました。
しかし、今回の試験体ではすべて、相当の大変形時にも、塗土は大量には崩落しませんでした。
すなわち、「KN工法」では、縦貫周辺の縦の大亀裂で壁面を分割してせん断変形を吸収しましたし、「一般工法」では、壁面亀裂の発生に加えて、下地木舞とともに塗土壁面が面外に大きくはらみ出すことでせん断変形を吸収していました。
●建物重量が水平耐力を向上・安定させた 柱軸力を与える建物重量が壁面の剛体的回転を抑制し、柱脚の引き抜けを緩和して、初期変形時の水平耐力を向上させましたし、また浮き上がり変形後に、逆載荷のとき元に戻る復元能力を高めていました。
これより、瓦や葺き土、土壁を用いる木造伝統構法の建物自身の重量が、地震時の復元力を高めたり安定させるのに、一定の役割を果たしていることが分かります。
●何れの工法の壁体も極めて高い剛性を示した 初期段階の剛性に相当するいわゆる「壁倍率」の計算値は、「KN工法」では、内壁で3.7~3.9、外壁で4.2程度となり、既往の土壁の実験結果に比べて、極めて高い値を示しました。
一方「一般工法」でも、内壁で2.4程度、外壁で2.8程度となり、既往の試験結果並の値を示しています。
なお、壁倍率への外壁面のモルタル壁の寄与はさほど大きくはありませんが、最大耐力を顕著に向上させています。
柱脚の浮き上がりを許せば、みかけの変形角が1/30rad.迄の変形に対して、「KN工法」では、 壁面に目に見える亀裂の発生は見られませんでした。
変形の初期から塗土面が剛体的に回転し、この作用による柱脚の浮き上がりに対して、木ダボがせん断と引張でよく抵抗しますが、最終段階で木ダボが破断しました。
他方「一般工法」でも、柱脚の浮き上がりを許せば、壁面中央に縦亀裂と隅角に斜め亀裂が発生したのみでした。
しかし、塗土面の剛体回転による柱脚浮き上がりに対して、柱又は土台側のどちらかのかど金物の釘が引き抜けて、緊結力を失いました。
伝統構法では一般に上部構造は礎石上に直置きですから、建物重量と浮き上がり力との相対関係にも拠りますが、激震時に一時的な若干の浮き上がりが生じるようであれば、土壁は壊れにくいということになります。
●何れの仕様の壁体も極めて靭性の高い耐力 特性を示した 逆に、柱脚の浮き上がりを防止すれば、「KN工法」では、1/10rad.迄の変形に耐え、このとき最大耐力の40%以上をなお保持していましたし、「一般工法」でも、1/20rad.迄の変形に耐え、このとき最大耐力の50%以上を保持しました。
軸組に極度のせん断変形が生じても、土壁は簡単には耐力を失わないで、粘り強く耐えうる可能性を持っていることが分かります。
●通し貫軸組は初期の剛性と耐力は低いが、 大変形時でも耐力低下を生じない高靭性 を保持した 通し貫の入った木造軸組だけの壁倍率は0.4程度で、私たちが行った別の実験と同様に低い値になりました。
2本の柱間では剛性確保のための通し貫効果はさほどに大きくはないことを今回も確認しました。
しかし、通し貫の楔のめり込みで、主に大変形を吸収しつつ、一定耐力を保持し続け、変形が進行しても、この相互関係は変わりません。
通し貫は建物の倒壊を防ぐ最後の命綱になると、私は解釈しています。
●土壁が最大耐力を発揮するメカニズムが見 え始めた 土壁がどのようにして水平外力に抵抗して、剛性を発揮したり、耐力を生み出すのかというメカニズムが、実験の観察を通して見え始めてきたように思います。
土壁の剛性や保有耐力推算の可能性が出てきました。
現段階ではまだ仮説に過ぎませんので、詳細は省略しますが、今後の検討課題として、現在村上研究室等と協力して、この仮説を検証するための新たな実験を始めています。
成果が得られたら、またの機会に報告しましょう。
●激震にも耐えうる伝統木造の可能性 伝統的技法で、良好な条件下で醗酵し製造された塗土と適材の竹小舞を使用して、丁寧な施工が行われれば、土壁は「高剛性」「高耐力」であるのみならず、極めて大きなせん断変形を生じても、容易には崩落せず、急速には耐力を失わない「高靭性」を保持することが、実験を通して確認出来ました。
今回の実験データは、このような土壁は、「それなりの変形抑止能力」と「大きな外力を受け止めうる安定した耐力」と「大変形を生じても粘り強く対抗できる懐深い余力」を持つことを意味しています。
この結果はまた、しっかり施工された木の軸組とこうした土壁が組み合わされた木構造は、特に靭性に優れた耐震性能を持つことを示唆しています。
私たちが実施した立体架構としての実大の実験住宅棟でも、こうした性能の内在を検証しています。
前号でも既に指摘されていますが、現実に伝統木造の耐火や耐震性能を法規定上の評価に耐え得るようにするには、性能の実現を担保する品質管理や施工管理、さらには性能値の定量的予測を可能にしなければなりません。
伝統木造の担い手の連携が強められ、実験や解析を重ねて普遍化が図られるよう期待するとともに、自らもその一員として努めたいと考えています。
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