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自然を採り入れ、木にこだわる
千葉県建築家 小野新祐
家を建てる期間の長さが問題にな
るようになってきたこともあって、
工期の短縮、簡易施工が重視される
傾向が続いてきた。
それがプレハブ住宅などと呼ぶ要
因ともなったし、プレハブ住宅づく
りを押し広げるための謳い文句とし
て使われてきた。
いろいろ事情はあるにしても、工
期は短いに越したことはないとはい
え、人生最高の買い物であり、家族
の和を育む寝食と生活の拠点であり、住まいの文化を育てる所である家づ
くりは、決して時間との勝負ではな
いはずである。
家づくりと文化を原点から考え、
ハウスメーカーにも、建築家にも
「異議あり」と手を挙げ、日本本来
の家づくりを大切にしている建築家
小野新祐さんを千葉の船橋市に訪ね
た。
一見、気難しそうでありながら、
人なつっこい笑顔を見せる小野さん
が、最初に一枚のコピーを示してく
れた。
「建築家は、これまでのすぐれた
遺産を継承し、自然環境をまもり、
自らの業務を通じて安全で快適な環
境をつくり、人間の幸福と社会文化
の形成に寄与します。
この建築家の
業務は職能意識によって裏付けられ
ています。
」を前文とする日本建築
家協会の建築家職能原則五項目だっ
た。
小野さんは「プレハブ住宅謳歌に
しても最終段階にきている、日本の
文化として受け継がれてきた木の家
づくりを広げるべき時だ」と語る。
その根底にあるのが「文化という
ものは、輸出できるものでも、輸入
できるものでもないし、してはいけ
ないものだ」、その国の風土と民族
の歴史の中で作り上げられるものだ
からという哲学である。
「高気密、高断熱住宅というのは、
日本の気候風土に合わない異文化だ」
と断言し、「この30数年間、日本の
住まいの文化をダメにしてきたのは
誰か」と問いかけ、それは、異文化
を押しつけ、肥大化してきたハウス
メーカーだと答える一方で、建築家
も建築家としての職能原則を忘れて
いると指摘する。
「建築家は、もどかしさを感じな
がら沈黙し、異文化に迎合して、わ
けのわからない家づくりをしてきた。
日本中どこへ行っても同じ家づくり
で良いはずがない」と鋭い。
そして、「世界の中で、木を愛す
る民族は1番目が日本人で、2~4番が
なくて、5番目が北欧人です。
」と、
1番根っ子のところから、木の家づく
りを語り、意欲をみなぎらせる。
だから小野さんの家づくりは、まず
依頼者の要望を聞きながら、日本ら
しい家づくりに心掛けるという。
その真ん中にあるのが、出来得る
かぎり、光、風、自然を採り入れる
ことにある。
「風が通らず、自然の
光の入らない家は家じゃなく、箱で
しかない。
今風の設計理論にかたま
ると、家じゃない箱づくりになってしまう」と、あくまでも日本らしい
家づくりへのこだわりを見せている。
次いで考えるのが家のレベルの問
題だという。
アメニュティとか、安
心・安全とかを考え、スタンダード
なものからハイクオリティなものま
でを与えられる条件の中で追求する。
同時に追求されているのが、文化
としての家づくりで、家族のコミニ
ュケーションをはかり、心の安らぎ
と健康づくりをすすめることと、地
域環境・街並みに合った建物をつく
ることにある。
住宅を家具のような商品として見
るのではなく、あくまでも施主と建
築家と職人が、共同して造るという
姿勢がある。
そしてこだわるのは材料。
なるべ
く木を使う。
その木も出来合いのも
のではなく、自然のものを職人さん
が心をこめて作る。
職人さんが職人
であることを大切にすることでこそ
日本の文化が生きるとの考えがある。
家というのは、住む人間をつつみ
こんでくれるものだから、やさしさ
と強さがなければいけない。
きれい
すぎるツキ板や木の自然さを良しと
しない家具のようなものではなく、
後からでも何とでも手を加えられる
自然な木でなければ、とのこだわり
がある。
建築の世界に対しても疑問を呈し、
問題意識をもって本来の家づくりに
携わってほしいとの想いも熱い。
公共事業で補助金が出ていてもコ
ストが下らない不可思議さ、生活者
が家を建てるに当たって相談する所
がわからない、誰に聞きに行けば良
いかわからない、こんなところから
質して行かなければという。
こんな哲学と理念を持つ小野さん
の造る家にはふんだんにムクの木が
使われている。
マツが一番好きだからということ
で、その多くの家に、床や壁面、天
井に国産のマツ板やパインのパネル
が生かされ、もちろん構造材として
も使われている。
マツの木目が好きだからマツを使
うが、スギやその他の材も使う。
そ
して節を好み、節を生かしている。
「マツでもスギでも節があるじゃな
いですか、節のない方が気持ちが悪
いですよ」と、当たり前のことを言う。
当たり前のことが奇異にとられる
建築界や木材界の方がおかしいとい
う言外の批判が窺える、当たり前派、
自然そのまま派である。
だから、木
の荒っぽさを好み、荒っぽさを生か
した空間づくりが多い。
それに、語る通り、可能な限りの
光と風を取り入れる設計が小野さん
らしさを作っている。
T邸は隣接している条件の下で、
プライバシーを守りつつ、目線にさ
らされることなくオープンに、という
ハウスメーカーにはない家づくりが光
っている。
A邸の場合は都市型のコンパクト設
計でありながら、随所に光と風を取り
入れる工夫が凝らされ、木目も生々と
映えている。
M邸では、小屋組みで、壁を上げら
れないので、箱を置き上げる感じを持
たせ、白い壁と木の感覚との対比を演
出。
施主が蝶々の蒐集家。
木が好きと
いうことでふんだんに木を使い、木の
香りにつつまれた家と好評を得て
いる。
最近は良く洋小屋組も使うと、木の
生かし方もいろいろ工夫が多い。
自信作は?と聞くと、胸を張って
「全部です」との答えが返ってくる。
どんな条件下であっても、それぞれの
施主のため、自分を出し切り、全力投
球をしてきた自負と、作品への自信が
凌っている。
元千葉大名誉教授であり、元日本インテリア学会会長であった小原二郎先生の木材と日本人の文化についての資料をまとめたものを掲載しています。日本人と木材、タテ割りとヨコ割り、木肌の魅力と木用貧乏、木材を生かす愛情の4つに大きく分類されています。それぞれ、鉄やコンクリートには人をひきつける何かが欠けている、桧は切られてから300年間、強さが増す、人に人柄があるように、木材にも木柄がある、看板をわざわざ木材で作るところが日本的、木が生えていたときの条件と同じにしたなど、他にもたくさん紹介されています。資料ひとつひとつの長さは、長すぎず短すぎず、読むのにちょうどいいです。また、英文も同時に掲載されています。ホームページは
樹から木までの散歩道 です。
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