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広葉樹と内装材の世界
日本人の感性が育てた ツキ板と化粧合板
化粧合板が織りなすツキ板の表情
ラワン合板やMDF等の基材をベー
スに表面化粧として天然木ツキ板を使
用するものを天然木化粧合板と呼びま
す。
この化粧合板の国内の原点は大正
時代にさかのぼるとされています。
ある下駄作りの職人が雪解けの山に
原料の木を探しに入ったところ、奇麗
な玉杢(光沢ある玉状の模様)が出て
いる切り株を見つけました。
通常は無
垢として削り出し下駄を作り上げるの
ですが、珍重される希少な模様が故、
職人はその木を薄くスライスし何枚も
の薄板をつくり、普通の無垢の上に貼
り付ける事(化粧する)により、何足
もの美しい玉杢柄の下駄を作り出す事
を思い付いたのでした。
これが美しい銘木を有効利用する化
粧合板の幕開けと伝えらています。
このように木を薄くスライスし、基材
に貼り付けることで、多くの面積を美
しい銘木の意匠で飾る事のできるよう
になりました。
合理的な木材利用のス
タートでした。
次にこのような技術が開発されたこ
とにより、下駄からより広い面積を必
要とする部分への使用が始められまし
た。
一枚一枚のツキ板を剥ぐ(並べて
貼り付ける)ことにより家具、壁、天
井、床、生活空間のあらゆる場所へ使
われるようになるのです。
ここで注目すべき事は、従来の無垢
との違いです。
無垢では同じ木目を並
べたり同じ色を揃える事はできません
が、ツキ板はほぼ同じ木柄を並べる事
ができます。
木柄を連続して並べる事
により、その広い"面"に対し一つの意
匠を作り出すことができるのです。
例
えばスリップマッチ(図1)は若干の
変化を伴う同一柄が連続しリズミカル
に意匠を奏で、又、柾目貼りに見られ
る突板一枚一枚の左右の色変化も心地
よいリズムを生み出します。
また、ブックマッチと呼ばれる技法
(図2)はツキ板を裏表に交互に並べ
る技法で、左右対称の木柄を描き途切
れない美しいデザインパターンを作り
出すことができ、カットして折り合わ
せる場所を意識することで色々な表情
を作り出す事ができます。
このマッチ
ング方法を用いると曲がった木や節な
ども意匠ポイントとして有効に使えま
す。
この様にインテリア素材として、化
粧合板に"美"の意識が盛り込まれるよ
うになったのです。
また、日本の気候
の関係で無垢では使えなかった国外の
銘木が薄くスライスすることで割れや
ねじれといった欠点を克服し日本の生
活文化の中に多く取り入れられるよう
になりました。
木材の合理的な利用から始まった化
粧合板は"美"を追求する生活文化の一
つのエレメントとして、日本の生活文
化の発展に大きく寄与することとなっ
たのです。
また、最近になりこの銘木柄は美し
い意匠をつくりだすのみにとどまらず
人々に多くの精神的影響を与えること
も注目されるようになりました。
木柄の意匠、そしてその連続性は視
覚的なリズムを作り出し、見る人に安
らぎを与え、また木の香りも人々の心
を癒します。
また、木柄の選定によっ
て空間の場(雰囲気)が変わる事もわ
かりだしてきました。
例えば社長室に
はローズウッドのような重厚な木柄を
用いることでその威厳をかもし出し、
玄関には赤松のような暖かみのある木
を使う事でお客様を暖かく迎える心を
作りだすことが出来ます。
この様な事は長い歴史の中で慣例化
されてきたものですが改めて考えてみ
ると、無意識の内に私たちは"木"の不
思議な力の恩恵を受けていることが多
いことに気づきます。
では逆にその"木"の不思議な力を空
間に持ち込む事で、その空間、またそ
こに居る人々の心を変えていく事もで
きるに違いありません。
天然木化粧合
板は"形"から"癒し"にシフトされつつ
あるデザインシーンに於いて充分にそ
の役割を充分果たす素材でもあるので
す。
"経済性重視"の時代から"美"の時代
そして"心"の時代と移りゆき、化粧合
板の役割もそれに伴い変化し続けてま
いりました。
そして昨今の環境問題や
生態系問題が取りただされる中、天然
銘木化粧合板が改めて脚光を浴びるよ
うになりました。
技術的にも不燃基材に貼り付ける事
で、公共施設や地下街での木の使用を
可能にした不燃化粧合板の開発やラッ
ピング技術(二次元局面への貼り付け)
の発達によるあらゆるインテリア部材
への参入とその用途は広がり続けてい
ます。
このように天然銘木化粧合板は自然
と共に生きる日本人の知恵が育て上げ
た素材であり、また一つの文化として
今後も末永く利用し続けられるであろ
うと思います。
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