大阪市/(有)竹山建築設計事務所 竹山通明
●風を感ずる空間の広がり大阪市東住吉区、大通りから少し中へ入った住宅街、照ヶ丘に建築家・竹山通明さんによる木の家がつくられた。「風を感じ、光を楽しむ、木の香りにつつまれた自然素材いっぱいの家」は、竹山さんのコピーのフレーズで、照ヶ丘のI さん宅のことを表すと同時に、竹山さんの家づくりのコンセプトの基本になっている。玄関に入ると、玄関ホールのすぐ先に力強い格子の引戸が目に飛び込んでくる。開けると12帖の居間から食堂・台所へと視線を伸ばすことができる。居間と食堂の間もまた格子の引戸で仕切られるようになっている。
居間と食堂はタイルカーペット貼りだが、食堂につながっている台所は檜の緑用板を使い、キッチンをタモの化粧貼りにしている。障子で仕切られた居間の奥は6帖の和室で、床の間と仏壇が配されている。玄関付近と、居間から和室への天井は、木の温かさを感じさせる杉の無垢板貼りで、広い空間の一体感を感じさせてくれる。 居間と和室に面して中庭があり、小さな鳥居の祠が奉られている。玄関ホールの奥には浴室などの水まわりが配置され、2階へ昇る階段がある。2階には6帖の和室と10帖の寝室、それに納戸がある。家の中をひとまわりして感ずるのは、広さと明るさである。それぞれの空間が孤立することなく、連続性のある広がりを持たせている。その広がりによって、風と光をふんだんに取りいれられて、一段と明るい空間を演出しているようだ。都心でも自然換気で、さわやかに風が通り抜けている。壁面が珪藻土仕上げで、食堂などのラフィットクロスやケナフ紙に同系色を採用したことも、空間の広がりに一役買っているようで、壁面の調湿効果も期待されている
その広がりの中でのアクセントとなっているのが格子で、居間の入口の力強い格子引戸だけでなく、居間と食堂の仕切戸、居間と和室の襖にも、それぞれ格子の枠の大きさや組子の太さに変化を持たせながら調和を生んでいる。もうひとつのアクセントは、食堂の天井に見る現しの梁と、よろい格子状のトップライトの天窓ルーパーであろう。
●昔のものをゆるやかに生かすここには、これまで住んでいた古い家があり、昔からの生活に根づいた設えや奉物があった。お稲荷さんの祠、神棚、古井戸などがそれで、今もたいせつにしているという。それをゆるやかな形で生かしてほしいという施主の要請を満たす工夫がされている。中庭の奥に奉られている祠は、和室・居間からも、食堂からも、2階の和室や寝室からも毎日見て、手を合わせられるようにしてある。神棚は食堂に奉られ、古井戸は階段の下にいつでも使えるように守られている。昔からのものを生かしながら、明るくてさわやかな家という希望には、既成の建材やコンクリート、化学工業製品では応えることができないことになる。 外観にしても街並みにマッチしたものが求められ、なおかつ木造の趣を持たせることが課題とされた。外壁は、角波状のガルバリウム鋼と力骨入りラスモルタルを下地に塗壁のコテ仕上げとでまとめ、屋根をガルバリウム銅板と瓦棒葺きにして周辺の街並みにフィットさせているが、玄関へ誘う塀は、米杉のキシラデコール塗りの板塀とし、玄関のアプローチには、廃材とおぼしき古い枕木を数本、変化を持たせて埋め立てている。表から見える2階のバルコニーも米材のキシラデコール塗りでバランスが良い。この家づくりで竹山さんが意図したのは、現代の住まい文化の提案であった。それは、和の文化を継承しながら現代とのマッチングをはかり、のびやかで木の香りにつつまれ、光と風の通う住みがいのある家である。この家づくりは建築家だけの独りよがりでできるものではなく、施主の理解と協力が大切になっている。
施主のIさん夫婦との共同作業の側面を持ってつくられたのがこの家である。
建築のこともかなり知っているIさん、皮デザイナーである奥さんが施主である。とことんこだわりを出してもらうことから家づくりがスタートし、意見を交わし合い一致点をつくりながらすすめられたというが、壁の色やタイルカーペットなどの色決めをするまでに、いろいろな資料やサンプルを取り寄せながら3ヶ月を要したという
●求め合って生まれる出合い仕事をするにつれ、より理解が深まったというが、そもそもが求め合っての出合いのようである。出合いのキッカケには、第3者が関わるが、Iさんが求めていた家づくりのイメージに合ったのが竹山さんであり、竹山さんがつくりたいとイメージしていた家づくりを求めていたのがIさんだったから、必然のめぐり合わせとでも言えるようである。施主との感性のつながりこそが、この家をつくらせたと話している所へ奥さんが顔を出してくれた。
ほぼ完成に近い状態での感想を聞くと、最初は漠然としていたけれど、出来てくるにつれて満足度が深まってきたという。「現代感覚を取り入れの和風の雰囲気に満足しているし、和風だと落ち着けるからいいですね」とのこと。施工を担当したのは(株)伊藤嘉材木店の伊藤さんで、この日は竹山さんと同席して話に入ってくれていた。伊藤さんは、材木店ではあるが、木への強いこだわりから、木の家づくりをはじめて9年になるという。寡黙で多くを語ろうとしない伊藤さんだが、いつも心掛けているのは、木の感触を大切にし、五感にやさしく触れ合えるようにということであった和気合々で話していると、記念写真をということで並んでもらおうとしたら、Iさんだけが照れくさがって去って行ってしまった。折角だからと、施主の奥さんが入り、竹山さんと竹山さんの事務所の金子さん、伊藤さんとでの記念写真となった。大阪では最近、街なかでの木造住宅が良く建てられるようになってきたようである防火その他の規則の多い中で、周囲と隣接して純和風は難しいながら、可能性を追求した木の家づくりが、この照ヶ丘でもはじまった。竹山さんの木の家づくりが、Iさん宅から新しい広がりの生まれることを期待したい
(有)竹山建築設計事務所、伊藤嘉材木店