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木材の寿命は果てしなく長い


  第三に問題とされるのが、木材の寿命 です。
本誌では随所でこの問題を取り上 げてきましたが、一部誤解を招いた面も あるようですので、改めてここで考えて おきたいと思います。
 結論から言えば、木の寿命は何百年、 千年以上と考えられるということです。
 一般的に言われているのは、木は育っ た年月だけ保たれるという言い方で、こ れが広く知られている表現です。
そのこ とを考慮し、本誌では、「少なくとも育 った年月は保つ」という表現をしたこと がありますが、明確に、育った年月以上 と言うべきと考えています。
 木という素材は、伐られた後、少しづ つ強さが増すことがデーターとして示さ れています。
 岐阜県の(協)あすみ住宅研究会の研 究データーによれば、百年以上の桧は、 伐られてから2~300年間で少しづつ強 度を増してピークになり、それからゆっ くり弱くなって、伐った当時の強度に戻 るには千年以上かかるとしています。
ま た、5~60年生の人工林材でも、伐れた 3~40年後に強度がピークに達すると言 われています。
 ですから、数十年生の人工林材でも、 使い方を間違わずに、乾燥した上で、生 きている状態で使う(呼吸できる状態) ならば、育った年月より、もっと長く働 いてくれるのです。
学説によれば、スギ、ヒノキの寿命は 1300年以上とされていますが、これは 現存している東大寺や法隆寺をはじめと する社寺仏閣に生きているからで、この 先、何百年耐え得るのかが不明なために

1300年以上と言うことになっているの です。
木の中では比較的に傷みが早いと 言われるマツでも5~600年の寿命と 言っています。
クリなどは、遺跡から出 て来たものもありますし、クスノキやト チ、ケヤキなどの仏像その他は千数百年 でも数多く健在です。
 このように見ると、木材の寿命は、平 均しても千年以上になるのではないかと 思われます。
 ただし、歴史に残っている木材は、少 なくとも樹齢150年~200年以上と見 られますから、本当の木の味は、やはり 最低でも百年以上の木と言えるようです。
 人工林材でも、先に触れたように、伐 って数十年後が強さのピークで、それか らゆっくり弱くなるとしても、優に百年 以上は持つことになるのです。
 木の育った年月だけに寿命を定めるの は、やはり現実的ではないと言うべきで しょう。
 ですから、木の寿命を生かした使い方 で家を造れば、人工林材でも百年住宅は 十分に出来ることになりますし、構造材 を、樹齢の高い木で、太く使えば何百年 住宅が造れることになります。
事実、民 家再生活動を見れば、百数十年経った民 家の構造材は、表面を削ると、きれいな 肌を見せて、本来の芳りを発して再利用 されています。
本誌第七号にも紹介した 兵庫県の「千年家」の構造材は、6百年 前の状態を残しています。
 プレハブ住宅を基準に、20年、30年 を前提に考える住宅関係者や行政の視点 は、日本の伝統建築、民家建築に目をふ さいでいるもので、今回言われている性 能保証も歴史的には重大な矛盾を含んで いると言えるでしょう。
   日本の家は、昔から近くの野山の自然 の素材を使って作られていますが、木だ けは、自然のエネルギーを受けながら、 何十年、何百年と育てられた植物素材で す。
これを構造材をはじめとする主な部 位、要の所に使っているのは、木の持つ 寿命を生かした住まいという考えがあっ たからです。
木の家こそが長寿の住まい となることを、改めて見直したいもので す。

木の家づくりは21世紀の文化の柱
 
このように、森林を育てながら、自然 の循環サイクルに見合い、再生産可能な 範囲で木を使うことは、環境破壊どころ か、素晴らしい環境保全、環境改善、環 境育成につながることになるのです。
し かも、植える木を増やし、増やした分だ け使う、使った分だけ新たに植え育てる ならば、これ以上の環境に役立つことは ないのです。
また、これ以上に地球の温 暖化を防止し、環境を悪化させずに環境 を良くする方法がないということは、殆 どの科学者が認めていることでもあるの です。
 木を伐るなという自然保護論者や、木 の欠点らしきものをあげつらっての木材 攻撃などは、木を使わせないことで利を 得ようとするものの代弁者と言われても 仕方がないのです。
 地球環境はもう限界ギリギリで、これ 以上破壊することが許されないところへ 来ているのです。
20世紀と20世紀の 価値観では、もう環境をはじめ社会のあ らゆる問題を解決し得ず、未来を語れな いところへ来ている今、何を尺度にする べきかを考えなければなりません。
 その答えは、何万年の歴史を刻んで作 り上げられてきた日本の心、日本らしさ を取り戻すことしかないのではないでし ょうか。
 その日本の心、日本らしさの根底に流 れるもの、それは自然との調和と共生、 自然の摂理の下で、自然の意に従う慈愛 と互恵の森林的思考です。
 それを現代社会の中に生かすことは、 一見すると大変難しいように見えますが 、住まいと住まいづくりを通して考えるならば、日本らしい木の家づくりをすす め、早く洋風住宅観の呪縛を解き放つこ とです。
 先に「環境共生型住宅を考える」の中 で、環境に共生するとはどういうことか 環境に共生する住宅とはどんなものかを 考えてきましたが、この環境共生の思想 と住まいづくりこそ、日本民族が森林的 思考の具体的な姿をつくり上げてきたも のにほかならないのです。
それが、時代 とともに形を変えてきたとは言え、日本 らしい木の家そのものです。
 木を中心に、近くの環境が育てた植物 素材と自然の土や石を巧みに組み合わせ 、自然と共生した造りとし、自然と調和 した暮らしを作っていたのです。
 時代の中では、神社仏閣や貴族の館、 領主の城、武士の邸宅、庶民の住まい、 世捨て人の庵、民家や町屋など様々な形 を持っていますが、これらのすべてが、 自然との共生が貫かれたものでした。
貧 富や身分、時代による形態の違いを乗り 越えて共通していたものこそが、自然と 共生する森林的思考で、その下で日本の 心、和の文化を育んできました。
 20世紀、とりわけ戦後の昭和の社会 がアメリカ支配の下で否定し、消し去ろ うとしながら消し切れないでいるのが、 森林的性格と森林的思考です。
そして、 それに裏付けられた和の文化です。
 木の家づくりの復興こそが、和の文化 、日本らしさの再育成につながり、それ こそが、今日の環境問題に対する21世 紀の在り方の大きな柱のひとつとなるも のではないかと考えています。

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