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木の住まいが育てる日本のこころ
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家の寿命は120年以上
家づくりのすべては、前記の2つの考え方から始まると言って
も言い過ぎではないはずです。
その上で、もうひとつ当然と考えるべき問題が家の寿命です。
寿命の基準はどこに置くべきかということでは、いろいろ論があ
ります。
ハウスメーカーや建設省の考え方は20年で、25年持
てばベストというところにあるようですが、これは、商売として
〝家という商品を売る〟思想、つまり近代資本主義思想、近代文
明観の表われ以外の何物でもありません。
冗談じゃありません。
ところが、こんな馬鹿げた話が罷り通る
世の中こそが「近代」という妖怪が演出したものなのです。
人間の寿命は、今は70~80年です。
家の寿命の基準は、当
然、人間の寿命以上でなければならないはずです。
では80年住
宅かと問われれば、それは違うと考えるべきで120年以上と答
えたいと思っています。
動物の本来の寿命は、生物学者によれば、脳の発達する年数の
5倍が基準と言います。
人間の脳は平均25歳まで発達すると言
いますから、それを5倍すれば125歳まで生きて不思議ではな
いのです。
家の寿命を120年以上と考える第1点はここにあり
ます。
第2点目は、使う材料です。
鉄やコンクリートなら長くて50
年が目安でしょう。
アメリカのスラム街がそれを証明しています
し、日本のマンションは20~30年経つといろいろ大変です。
コンクリートの腐触(近い内に詳論を予定しています)、鉄の腐
触が最大の原因です。
これに対して木の家は有に百年は持つのです。
現実に、昔の民
家は150年、200年しっかりと建っています。
木という素材
は、以前にも書いたように、切られてから強くなり、数百年から
千数年の寿命を持っているのです。
腐朽菌や白アリなどが住みつ
かないように乾燥させ(含水率15%)呼吸できる状態で使いさ
えすれば、平均千年程度の寿命を持つのが木という素材です。
あの単年草の葭でも屋根の上で50年は持つ(25年位での補
修は必要です)のですから、しっかりした木を構造材として組み
、それに、木材や土などを材料として使えば、途中の補強だけで
150年以上持つのは当り前のことになります。
それに、日本の木組みの技は世界に誇れる芸術的な水準と認め
られているのですから、今日風にしなければ、120年は最低で、
それ以上の長寿命を基準とすべきではないでしょうか。
長寿命の
ために、念には念を入れるということで地震や火災を考慮すれば
万全です。
ヨーロッパでは、3世代住宅は不思議でも何でもないことで、
ローンも3世代にできれば住宅着工数は、今の倍以上になるはずです。
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形だけを追い求めた近代モダニズム
和と愛を育て、健康を育てる長寿住宅が、家を考える基礎になる
べきで、それに、あとは何を付加するかというのが本筋ではない
でしょうか。
安心・安全は、すでに前述の中に含まれています。
残るのは快
適さ、利便性、高機能、自己満足くらいではないでしょうか。
そ
れと高断熱はともかく高気密は問題外です。
こう考えると、今日風の住宅、ハウスメーカーや多くの建築家
が大合唱したモダン建築が追い求め、大切にしてきたものはまっ
たく逆だということがわかります。
それは、自然と親しんで共生し、宇宙・自然が主人公で、人間
も自然の子と考える日本の思想・文化と、神の子である人間が主
人公で、人間が自然を支配し、異教徒も支配するという西洋文明
の違いそのものであるのです。
ですから一神教を絶対視する西洋文明の下での家は、家族の和
から始まるのではなく、まず自然との対決があります。
自然を支
配するということは、同時に厳しい自然(嵐、寒暖など)とたた
かう堅牢な器にしなければなりません。
さらに、異教徒は敵とし
て侵略することを是認しているということは、同時に侵略される
危険とも背中合わせですから、敵である異教徒の襲来に備える砦
でもあるのです。
なぜ家の中でも靴を履いているのかという疑問の答えがここに
あります。
これではゆっくり家族で寛ぐための家という位置づけ
は生まれて来ませんし、時には、家族も運命共同体などと言って
おれず、個々人が自分を守ることを考えなければならないのです。
(最近言われる〝ジコチュー(自己中心的)はとても心配な症状
です)〟
自然対決、自然支配、他民族支配という思想が、個人主義、自
己中心主義につながるのは当然の姿でもあるのです。
現実の欧米の人たちが、必ずしも家や家族をこんな風にとらえ
ていない様子は伝わってはきますが、根底に流れている文明・文
化は変わることはないのです。
洋風住宅というのは、このような思想を根底に持っているのだ
ということを理解しないで、形だけ洋風化を追い求めると、自分
たちの文化も忘れ、遺伝子の中に受け継がれている民族の風俗や
習慣、気候・風土にそぐわない家をつくり、文化を歪めてしまうというとんでもない結果を生んでしまうのです。
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日本建築の理念が21世紀を創る
日本の家の位置づけを見ると、その昔から底流として流れてい
たのは、和と愛を育み、自然と共生した長寿命の家でした。
建築家の菊竹清訓さんが「風の路」のシンポジウムで語ったよ
うに、日本の家は、時代の変化の中で少しずつ改良し、新しい型
を見つけるのに4世紀のサイクルがあり、その進化は縄文以来の
家から4世紀の高床堅穴の大柱・通し柱造り(古代)、8世紀の
寝殿造り(平安時代)、12世紀の書院造り(鎌倉時代)、16
世紀の数寄屋造り(室町時代)、そして現代の自在造りと続いて
いると言います。
その型とは別に、平安時代から江戸時代にかけて武士や町人、
庶民の家が造られています。
今でもその姿を残している武士の家
とされる六~七百年前の民家や、江戸時代の民家、京都や大阪に
見られる町家などがあります。
型は時代とともに変化をしていますが、その通底に流れる理念
は何等変わっていないことに注目すべきでしよう。
この点について菊竹さんが「西洋では建築家は型を考える職業
との認識で天才をめざすが、日本はひとつの課題に関わる人々と
一緒になって技術をつくる〝読み人知らず〟のような家づくりだ。
型をつくることは、社会全体のなかでも誰もが造れるものをつく
ることで社会の進歩に役立ってきた。
技術も環境も含めて社会に
大きな影響を与える型がつくられたが、どのような型を導き出し
ても、その中心を見つけ、余分なものを取り除くことを大切にし
てきた。
住宅は、まわりの環境に対しても責任があるという意識
があった」と言っています。
さらにまた「日本の建築は、高度化されている技術だけでなく、
生活に結びついている。
木とともにであり、木よりも生活に結び
ついている」と家と人と木の関係を語っています。
つまり、時代に合った型で、誰もがつくることができ、社会の
進歩に役立つもの、中心を見つけて簡素で、自然と調和し、共生
したものであったことがわかります。
また、本誌で何回も登場願った数寄屋研究の第一人者で、京都
伝統建築技術協会理事長の中村昌生さんは、本誌第9号のインタ
ビューの中で「方丈記にあるように、住む人の心とひとつに結ば
れた庵というものは、歴史の表面に余り現われないが、時代をこ
えて存続してきた、その時代その時代の智恵が生んだ住まいとも
言えるでしょう」と住まいの通底に流れるものが、住む人の心が
ひとつに結ばれた〝和〟を基調にしていると語っています。
さらに中村さんは、そこにある素材を生かすのが数寄屋であり
、日本の家だと言っていますし、「日本の建築の基本にあるのは
掘っ立て柱です」と言って「大地とともにという思想が根付いて
います。
自然との共生を表現する大工技術は、床をつくっても柱
は大地に続いているのです」と語り、「数寄屋のように自然石を
柱底にひかりつけても、その柱に宿る思想が、自然を尊重すると
ころにあります」「そのソフトが、あらゆる技術、あらゆる工法
、あらゆる時代に通じているのです」と言っています。
日本の建築の歴史を研究すると、その根底には、これまで触
れてきた「和と愛・人との結びつき」「自然を尊い、自然と共生
する」思想が脈々と生きていることが明かされるのです。
そして21世紀に向けて菊竹さんは「西洋は生活を拘束する建
築に向かっているが、生活と空間の関係をつくりあげてきた日本
の建築が21世紀の主流になり、それがまた世界をつくることに
なる」と、日本の木の家づくりが21世紀の世界の建築を牽引す
る役割を持っているその必然性を語っています。
また中村さんは「自然石を使い、柱をひかる。
その柱に宿る思
想が自然を尊重するところにあり」そのソフトがあらゆる技法・
工法に通じ「あらゆる時代に通じているのです。
21世紀を前に
して、いま建築が一番求めているものを数寄屋はやり続けてきた
のです」「世界の建築が行き詰まり、悩み、苦しんでいる。
そこ
に救いを呼びかける内容こそが数寄屋のソフトにあるのです」「
21世紀には、日本の建築家がローエ等を乗り越えて、自然回帰
の新しい典型を作ってほしいものですが、そのために数寄屋のソ
フトが必要になります」と言っています。
戦後、近代化の下で除け者にされてきた木造の日本の家の根底
に流れるものが、和と愛を育て、自然の下で自然と調和・共生す
るところにあったことは繰り返すまでもないことです。
真面目な多くの建築家が語るように、世界の建築家が行き詰ま
り、悩み、苦しんでいます。
その近代モダニズムを追い求めた日
本の建築家も同様に煩悶しているようですが、その打開の道こそ
が、日本の木造建築に返り、学ぶことにあるのです。
21世紀初頭の世界的基調が、「自然との調和と共生」「人間
関係の新しい発展」「本物主義」にある下で、建築界でそれを実
践するものこそが木の家づくりです。
木の家づくりは21世紀の世界的主流であり、本流になること
に確信を持って語り、木の家づくりの輪を広げる力が大きくなる
ことを切望してやみません。
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