ある著名な建築家が「住宅に健康を求めるべきではない。どれだけ健康を 阻害しないようにするかが問題だ」と語っていた。
恐らくこれは建築関係者のこれまでの一般的な考え方であっただろうし、 いま言われているところの「健康住宅」も、その大部分は、なるべく健康を 阻害しないように、という発想のもとでしかない。特に従来のプレハブ系の ハウスメーカーが「健康住宅」を言うなぞはお笑いもので、これまでの自分 達の売っていた住宅は、健康破壊住宅だったと白状しているようなものであ る。健康住宅はどうしたら作れるかは、単純に言えば、健康を破壊するよう なマイナス要因を取り除けば良い様に考えられがちだが、環境や食品や社会 生活での健康破壊要因を取り除くことは不可能に近く、自力でできることは 僅かしかない。
住宅に限って見ても、既存のマンションやプレハブ、鉄筋コンクリート住宅 をどうするのかだし、新築にしても現段階ではいろいろと問題も多い。
しかし、大切なことは、本当の健康住宅とは、健康を増進する住宅であり、 阻害要因を減らす程度の消極的なものではないはずである。
ではどうするかだが、まず、住宅観を変えなければ、どうすることもできな い。
詳細は別にして、まずアメリカナイズされた洋風文化、西洋文明の下での住 宅観を見直すことから始めなければ根本的な対策も解決も生まれない。 西洋文明の根底には、宗教観とも関連し、自然との断絶、自然支配の思想が ある。
また、森林資源をはじめ自然の恵みが少なく、厳しい環境の下では、自然と 対峙し、遮断しなければならないという条件もあった。 ここから、自然と共生した生き方、住まい方ではなく、自然と敵対し、遮断 する文明が作られてきた。
石やレンガの住まいは自然との断絶だし、いつも自然に身構えて土足の生活 を当り前にしてきた。
ところが、日本をはじめとする東南アジアの宗教観は、宇宙に存在する全て のもの森羅万象には神仏が宿っているとする多仏神信仰であり、恵まれた自 然と共生し、自然の恵みをいただいて生きるという文明を創ってきた。
自然を愛するという心と、自然の力への畏怖心と神聖視する思想が、気候風 土や自然条件の下で培われてきていた。そこへ敗戦とともにアメリカ経由の西洋思想、洋風文化が一部強制的、一部 意識的に持ち込まれ、それが主流になる下で、住宅観も洋風化の讃美と大合 唱の下に押し流されるところとなり、高気密・高断熱化と無機質材を中心に した規格化された工業製品資材へと行き着いて来ている。
現在の住宅観の基本で主流となっているのが、多少形を変えてもこの洋風文 化を受け入れたものとなっている。今後いろんな角度から木の住まい、和風 住宅を見直して行くことになるが、戦後、洋風化の嵐の下で打ち捨てられて きた和風、和の心を考えずに健康住宅を考えることができないというのが、 第一の問題である。