奈良市/㈱ハウ・ツゥ・ライブ 峯 誠
●ゼロからの自然素材住宅づくり
木の家をつくっている人達の中で、数年前から木の家を手がけ始めたという声をよく聞く 今回紹介する㈱ハウ・ツゥ・ライブの峯誠さんもその1人で、以前は新建材を使った在来工法 住宅を手がけていたが、自然素材を使った家づくりに転向した。
峯さんは奈良県奈良市に事務所を構え、今、自然素材を使った住宅を広めるために活動を している。
峯さんは数年前、新建材を使った自宅の新築でご自身がアレルギーをおこし、体 調を崩したことをきっかけに、自然素材を使った家づくりへと転向した。
「新建材を使えば、確かに工期も早く、施工費等のコストも安く、見た目にはきれいな家 ができます。
しかし、それは見た目だけです。
自分がアレルギーを起こさなければ、もしか したら今でもそのような住宅をつくっていたかもしれませんね」と峯さん。
自分自身がシックハウスの恐ろしさを痛感し、その時から今までの家づくりをすべて捨て ゼロから独力で自然素材の研究を開始した。
自然素材と言われているものは沢山あるが、その中でも本物で、自分が納得のいくものを 見付けるための研究の日々が続いた。
様々な材料や塗料などを取り寄せ、使ってみて、本当 にいいと自分で確信したものだけを使用している。
現在も、よりよいものを探求するために 日々研究の毎日である。
事務所は、峯さんが選りすぐった自然素材のギャラリーにもなっている。
その他にも、食 器などの住まいにまつわる雑貨などが並べられ、訪れるお客さんも多い。
ギャラリーでは定期的に、自然素材を知ってもらうためのセミナーや、手がけている 住宅を例にあげての自然素材の家づくり勉強会などを行っている。
また、現場見学会や 竣工から完成までをニュースとして配布するなど、地道に自然素材の家づくりを広める 活動を行っている。
そんな峯さんが、今回、京都に自然素材で家を建てたと聞き、取材にうかがった。
●シンプルでも美しさをもつ家
京都の郊外の住宅地に建てられたその家は、山荘風のイメージで、焦げ茶色の杉の外 壁材とシナジー部分の白とのコントラストが美しい建物である。
施主の増田さん夫妻は、今回の新築に当たっては、体に有害な化学物質を一切使用しな い自然素材を使った住宅づくりを念頭に置いていた。
施工してくれる所をいろいろと探し ているうちに、自然素材を使った健康的な家づくりに定評のあるハウ・ツゥ・ライブを知 り依頼することになった。
木としっくいを主な材料とし、光と風をたくさん取り込み、庭に木を植え、緑を身近 に感じて暮らすことをテーマとした、峯さんの設計による家づくりが始められた。
在来木造軸組工法の2階建て。
ベタ基礎を採用し、柱・梁には4寸~3.5寸の吉野の桧を 使っている。
断熱は外断熱を採用し、ソーラーシステムによる床暖房、給湯などもおこ なう。
基礎には全面に木炭を塗料化したものを塗布している。
これにより、防蟻材の使用を 避けることができた。
また、防蟻以外にも、調湿効果、化学物質・悪臭の吸着・除去、 マイナスイオン効果、遠赤外線の温熱保温、電磁波カットなどの効果があるという。
「これを塗っても、化学物質ではないので、取り壊した時に、そのまま自然へ還すこと ができます」と峯さん。
家を建てることは、住む人にとって身体にいいのはもちろんだ が、使用後の問題も考えなければならない時代となっている。
1階は、増田さんがフラワーアレンジメントの教室を開いているので、玄関を入ると まずアトリエ兼多目的ルームがあり、パティオを挟んでリビング、ダイニングキッチン トイレなどの水廻りが配置されている。
リビングは吹き抜けになっていて、パティオからとの光とあいまって明るく開放的な 空間である。
木製サッシの戸を開ければ、パティオを挟んで多目的ルーム、リビングを ワンルームのようにして使うこともできる。
各部屋は、庭やパティオに面して大きく開 口が取られているので、光と風がたくさん入り、手を伸ばせばすぐに庭の緑に触れられ る。
トイレにも、杉の腰板を回している。
木の香りが天然の消臭効果をもつという。
床には、カラ松の無垢フローリングを使用。
これは、無垢材が3層構造になっていて 上下に同質の樹種を使い中間層に別種の針葉樹を、表裏層と繊維方向を交差に敷くこと により優れた強度が生まれ無垢材の欠点でもある反りや割れ、ねじれなどを防ぐことが できる。
表面には亜麻仁油・蜜蝋などを使った天然ワックスを使用している。
もちろん 人体には無害であり、安心して接することができる。
塗料ではないので、年数が経つに つれ、木の色合いも変わり、味が出てくる楽しみもある。
天井には、間伐材などを利用して開発された3層クロスパネルを使用。
これは国産杉 を木の繊維方向を交互に直行させたパネルで従来の'火打ち'に比べてさらに強度が得ら れる。
木目も美しく、今回はそのまま天井仕上げ材とした。
壁は家全体にしっくい塗りを採用。
壁紙の需要の多い現代の住宅で、全室しっくいは 珍しく、施工した左官屋さんも大はりきりだったという。
クリーム色がかったしっくい をコテのタッチを残しながらラフに仕上げた壁は、落ち着きと清潔感が感じられる。
柱・梁・筋かい・上がりかまちなどの一部には民家の古材を使用している。
しっくい の白色に、古材の黒色がデザイン的に美しく、見るものに落ち着きを与えてくれる。
峯さんは、設計する家のどこかに必ず古材を取り入れるという。
「古材は見かけは貧 弱に見えるかもしれないが、ノコをいれて中を見ると、とてもしっかりしていますよ」 と言い、ギャラリーに使用している古材の梁を見せてくれた。
今ではもう手に入らない ような大径の松などの古材がたくさんあり魅力的な材料である。
どこかで民家の解体が あれば、古材を譲ってもらい、ストックしてあるという。
以前、古材を引き取る作業をしていたら、その家を建てた時に、さらに以前の時代の 古材を使って建てているのを発見したという。
今でこそリサイクルという言葉が使われ ているが、はるか昔から行われていたのである。
せっかく安全な木や自然素材で家を建てても、接着剤などを使用した家具を入れてし まったら台無しになってしまう。
この家では造りつけのクローゼットや、棚、ドアなど も、杉の間伐材を使用してつくられているので、その点も安心である。
すべてオーダー メードでハウ・ツゥ・ライブでつくっているので、家中に統一感が生まれている。
家具 の表面には天然成分のワックスや、色あいがほしい箇所には牛乳を主成分とした塗料な どを塗っている。
2階には、主寝室と古民家風の和室、ご主人の書斎が配置されている。
1階はオープン に外に解放したイメージなのに対し、2階はしっとりと落ち着いた、癒しのある空間であ る。
和室は、よしずを張った天井と縁なし畳で凛とした美しさを見せている。
木部は柿しぶ などを塗り、古びた感じの色合いに仕上げている。
すでに完成した新居では、夫妻の生活が始められているが、今でも見学者が多く訪れ る。
増田さん夫妻も、この家に住んでから体調が良くなったように感じ、自然素材の家 の良さを広めようと協力してくれているという。
見学に訪れた人は、一様に木の香りに驚くそうである。
設計した峯さん自身も、「木の 香りを今更ながら感じています」と語る。
今、峯さんの元には自然素材を使った家の依頼が沢山きているという。
ギャラリーで のセミナーや家づくり勉強会が実を結び、一般にも自然素材の家がじわじわと広まりつ つあるようである。
今後、峯さんが考えているのは、もっとコストを下げて、値段をおさえた自然素材の 家をつくることである。
これが完成すれば、自然素材での家づくりはさらに広がりをみ せるだろう。
木の家づくりに本気を出して取り組み始めた峯さんのこれからの活動が楽しみである
㈱ハウ・ツゥ・ライブ