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本物の木にこだわり、イワシをタイに
伊吹の自然も借景したテラピス
滋賀県 匠工房 島田廣己
木の家づくりに取り組む建築家が
日増しに増えている感じである。
時代の転換が至るところですすん
でいるようで、木を求め、木を愛す
る人の輪が広がっている。
だが、本当は驚くことではなく、
忘れかけていた木の文化の再興が始
まっているだけだ。
木の家づくりには、建築家のいろ
いろなこだわりや想いがある。
新旧
・和洋折り混ぜたものもある。
そんな中で、「これしかない」で
はなく自然や歴史を生かしながら、
さり気なく、しかし新しい感覚を加
え、本物のしっかりした木にこだわ
り、飾りっ気の少ない家づくりをす
る建築家が昔の中山道の宿場町で知
られる伊吹の里にいた。
その人、匠工房の島田廣己さんを
冬の日に訪ねた。
民家の再生から木にとりつかれて
滋賀県・伊吹山の麓に、面白い造りの家らしきもの
が建った。
道行く人が「何だろう」と足を止め、近所の人は
どんな建物になるのか関心を高めていたのが「テラ
ピス伊吹」という治療院。
病院はいかにも病院らしいものが
多いし、治療院はそれっぽいものが
多い。
そんな固定概念を笑うかのように
造られたのがこの「テラピス伊吹」。
雪の伊吹山を前に建つ姿は、一風
変った木造の建物。
三棟が連なった
ようだが、一棟は院長家族の居住棟、
大きなのが治療棟や待合室とリラク
ゼーションやエステ用のホール、そ
の横にあるのが男女別の浴場。
この「テラピス伊吹」を設計し、
建築監理をしているのが山東町の昔
の宿場町柏原に住む建築家の島田廣
己さん。
一級建築士事務所・匠工房
の代表である。
島田さんが、木と木の家づくりに取り付かれたのは、
11年前、あるきっかけで長浜市の民家の再生を手が
けたことに始まっている。
ムクの材しか使えない民家の再生で、木とムク板
への見方が180度どころか540度ほど変わり、以来木
に取りつかれているという。
更に変わったのは、伊吹山の麓で住宅を作ったと
きのこと。
施主が寿し屋の主人で、ネタに強いこだ
わりを見せ、「イワシの材料をタイにせよ」と注文
をつけられた。
意地と意地とがぶっつかり合ったようなもので、組
んずほぐれつで仕上った家に満足してもらえたこと
から一層、木へのこだわりが強くなったという。
だから、島田さんの信念は「鰯を鯛へ」である。
何も安い材料や悪い材料を使うということではない。
イワシだって美味しく栄養もある素晴らしい魚だが、
タイの方がやはり格が上になる。
きれいな材や貼り
ものや化学工業製品などのニセものを使うのではなく、
あくまで材料は本物だけにこだわり、骨太の厚板を
使い、その価値を120%生かし、満足してもらえる
ものを造るというところにその心
がある。
ムキ出しの構造材に杉のムク板内装
その信念を生かして造った「テラピス
伊吹」。
ケヤキの林地を整備して建てたものだが、
島田さんは、もうひとつこだわりを持っ
ていた。
それは自然と調和することだっ
た。
伊吹山を正面に見えるように配置し、
前面は総ガラスの感じで、建物は離れて
見れば、伊吹山に抱かれているようであ
る。
整地の時にケヤキの樹の伐採は最小限
にした。
周囲には一本でも多くケヤキを残
しただけでなく、「切らないで」と言った
樹はなるべく多く残し、その樹を取り込ん
だ設計に仕上げた。
だから、浴場にもテラ
スにも直径三十cm近いケヤキが何本も立っ
ている。
これを島田さんは“借景”と言っている。
造りは丈夫であるこ
とは大きな条件で、その第一歩となる床下は、傾斜地をものとも
しない高床式でニョキニョキ柱が生えている感じさえある。
床は全面が国産材の杉縁甲板、壁面も漆喰に工夫を凝らした箇所
以外は全部杉板で、一部米松を使った柱も梁もムキ出しで、丸見
えの高い天井も杉板が使われ、切らざるを得なかったケヤキがド
ンと長椅子とテーブルになって生かされている。
網格子のような
仕切や空間演出にデザイン配置された鴨居材に似た材が十数本並
んでいるのも広い空間を落ち着かせている。
地形をなるべくなぶらず、樹木も生かすことと、外との一体感
を持たせ、自然の景観を拝借した上で、内と外の仕切も曖昧に、
在来の骨組みに新しい感覚も加えた治療院づくり。
105平方mの居
住棟と300平方mの治療棟、テラスが180平方mと外への広がりを
作っている。
島田さんがめざした「自然のリズムを治療の中に取り入れ、リ
ラクゼーション機能を生かしたい」が充分生かされ自然の光と風
とを一体に感ぜられる治療院に仕上がったようだ。
2階建ての居住
棟も同じような造りで和みが満ち、2階の天窓から吹き抜けを抜け
て陽射しが入ってくる。
夏は暑そうだと思うと、その周りには葉を
落としたケヤキの枝が重なっていた。
家族がひとつに住まう家づくり
島田さんが自宅を建築中と言うので見せても
らった。
外観は一風変わっているが、白壁と杉板を縦
張りにし、テラスも杉板使い。
内部は「テラピ
ス伊吹」と同じように、島田さんの思想が生き
たむき出しの構造材に、杉のムク板の天井。
天井はそのまま2階の床で、材料にはごく自然に
柿渋が塗られている。
昔の民家風に新築したもので、家族が一人ひと
りにならないように、普通に「おい」と呼
べば答えが返るような造りをと、部屋の仕
切も最小限にし、居間は吹き抜けにして
いる。
三十八坪の家づくりで、家族の家だから
気取りはない。
二階の子供部屋へは垂直に
立てたハシゴを使うことにしている。
家族がどうしてひとつの家に住むか、限
られた
予算の中で、間を取ろうとゼイ肉を落として作ら
れた家。
子供と親の関係を大切にするための大部屋が中心
で、開放的だが、お互いへの配慮も大切にしたい
という想いを生かした建築である。
島田さんは、今も民家の再生をひとつのテーマ
に取り組んでいる。
山東町立伊吹の見える美術館、中山道柏原宿歴
史館などは、島田さんが手がけたものだという。
古いものを生かして新しい感覚を加え、古いも
のを新しいものにぶっつけ合うことで、引き立た
せるという思想が随所に生きている再生民家であ
る。
本物の木にこだわり、イワシをタイにし、自然
との調和と共生を求め、借景も大切にする伊吹の
建築家の心意気が伝わってくる。
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