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山を育て木の家をつくる

日本らしさを取り戻し 木の家づくりを広げよう

個々人のアイディンティティの確立は、近代思考の枠組みから脱しないとできないのです。
西洋文明の思想を乗り超えた、より高い次元からの自己観、人間観をつくる、その力が全体として日本らしさをつくる力となるからです。
それが、木の家づくりを本流にして行く力でもあるのです。
現実問題としては、木の家づくりを広げる物理的な障壁はいくつもあります。
しかし、最大の障壁こそが、日本人が日本の民族性を見失っているところにあるのです。

日本人は、本来誰もがやさしい心根の持ち主であり、対立や競争よりも「和わし」「愛し」「助け合う」という特性を持っています。
それが壊されてきたひとつの大きな原因に「家」があることを考えなければなりません。
家というのは、まず、家族の和と愛を育て、人間を学ぶところです。
そして、この家族こそは、人間が社会生活を営む最初の最少単位であり、基点です。
ところが西洋文明が持ち込まれ、住宅が洋風化してくるにつれ、家族の分断が始まりました。
それを形にしたのが個室であり、歪んだ個の主張です。
家族の主であるはずの父の威厳が時代とともに低下していったことも家庭崩壊の要因となりました。
それに、無機質材で囲まれた家は、人間の情操感や自然親和性を奪い去り、おびただしい室内の電磁波やプラスイオンが自律神経や細胞を犯し、キレルやイジメ、アレルギ-疾患、不定愁訴と呼ばれる現代病を生んできました。
親子別居も当然のようになり、同居していても家族の和と愛が断絶した家庭から、正常な人間らしい思考は生まれてこないのです。
このことだけを見ても、日本らしさや家族の絆、人間らしい心を育てる上で、伝統的な日本の木の家が、本来の家が果たすべき役割を備えたものであるかがわかります。
ですから、個々人のアイディンティティの確立をめざす相互の協力や働きかけにこそ心を砕かなければならないのです。
そして、同時に、木の家づくりに、全力をあげて取りくみ、周りに働きかけることが急がれているのです。
●建築家は勇気をもって木の家づくりの先頭に 基本となる問題の上に立って、直面する課題について考えてみます。
本稿の冒頭に、建築関係者と林業・木材関係者の自覚と行動の必要性を第一主義的課題としてあげました。

現実問題としては木の家づくりを広げる前提は間違いなくここにあり、この面での立ち遅れを克服することが焦眉の課題となっています。
建築家の中では、木造中心に家づくりをしている人はまだ少数派ですし、少々遠慮気味に口を開いている感じです。
建築誌等を見れば、依然として高気密・高断熱住宅が先端住宅のように取り扱われていますし、洋風住宅づくりで自己主張し、存在を示したそうな建築家も多く見られます。
日本の家づくりの基底に流れるのは、大地に続く柱立てを中心にした木組みで、自然と共生していることにあります。
しかし、木の家づくりを語るに当っては、必ずしも工法に縛られるものではないと考えるべきかもしれません。
考えるべきはふたつで、ひとつは、構造的に木を中心とした造りで、光や風を採り入れ、自然と共生した家です。
もうひとつは、内装中心であっても木材をたくさん使うことです。
吸湿・保温・断熱・吸音・吸光・感触・弾性などの建築材料としての特性と同時に〝ゆらぎ〟による自律神経の活性化、マイナスイオンによる活力の回復や、木材に秘められた無限の宇宙エネルギ-の発散による精神の安定、快眠、情緒の育成などの効果が木材から得られるからです。
木の家をつくるというのは、このふたつの内容を持っているのですが、ここから家族の絆、和のこころや情操感が育てられるのです。
木の家は、自然との共生を実現するとともに、木の持つ力で癒され、育てられることになるのです。
建築家の中でこそ、このような木の家の持つ素晴らしさ、さらには、意匠的にも評価される木肌の美しさや自然感、木組みの美しさなどを大いに語り、学ぶ気風を作ることが求められています。
そして、それぞれが建てた家のコンセプトや出来上った姿、さらには、そこに住んだ人の感想などを交流し合い、建築家の多くが、木の家づくりに向かうように働きかけることが求められています。
その働きかけ手が一人でも多くなることが、木の家の時代をつくっていくことになると思います。
●林業・木材業こそ立ち上がれ 木の家づくりの立ち遅れの大きな原因のひとつに、林業・木材業の意識と対応の遅れがあります。
本誌を通して何回か指摘してきたように、林業・木材業の視点が建築家や家を建てたいと考えている人たちに向いていないことが立ち遅れの原因になっているのです。
戦後の家づくりの変質化の中で、多くの木材業者は、時の流れとばかりにハウスメ-カ-やゼネコン、一部建材メ-カ-への部材提供業者となってしまいました。
外材化時代が来ると我れ先にと外材にシフトし、安い原材料による大量生産での価格競争、品質競争に走り、徐々に自分たちの首を絞めてきました。
メ-カ-向けと流通向けを主対象にした部材提供業化したことで、必然的に規格製材品、規格製品づくりに力を入れるようにならざるを得ませんでした。
メ-カ-志向と規格品づくりは、ますます本来の木材・製材業が担っていた家づくりの主体の一角からの脱落をすすめることになり、建築家・生活者との接点を断つことになってしまいました。
いま、家づくりに結びついている木材業者は、ほんのひと握りの木材問屋、流通業しかありません。
その仕向け先の多くは工務店です。
ところが、この木材の流れの中には、一部かもしれませんが、材料で利益を取ろうとするため、末端の木材価格が不透明で「高い」という意識を持たせているという問題もあります。
この工務店等へ行く木材も、柱や羽柄材などを主にした規格化されたものがほとんどです。
しかし、現実の建築現場や建築家、施主が求めている木は、必ずしもいま流通している規格化されたものだけではありません。
太い丸太や太い柱もあれば、板も15㎜前後ではなく、もっと厚い板が求められていますし、梁材の加工されたものだけでなく、自然の形の材など様々なものがあります。
これから木の家づくりが広がれば、このような規格品でない材がもっともっと求められることになります。
林業・木材業が、これにどう対応して行くかが問われているのですし、それが出来ない林業・木材業であれば、このまま衰退して行くしかないのです。
とりわけここで大きな意味を持つのは製材業だと思われます。
現在の製材業は、柱を中心にした規格サイズの製品づくりではとても採算が合わず、乾燥コストをかけても、その費用もとれずに四苦八苦で、廃業者が相次いでいます。
すでにメ-カ-依存、流通依存の旧来の経営では成り立たないところへ来ているのですから、大胆な発想の転換が必要になっているのです。
求められているのは、受注型経営への転換です。
建築家や施主の要望を受けて生産する方式へ転換し、そのアドバル-ンを上げなければなりません。
そのためには、原材料を一定の期間寝かせることも必要になるでしょうが、受注体制をつくれるならば、そのロ-テ-ションで回転できることになります。
また、その期間は丸太や荒木取材の乾燥期間と考えることもできます。
何よりも、受注生産は、コストもはっきりしているのですから、直接ユ-ザ-への販売は、価格の適正化にもつながり、製材業も施主も喜べるものになることは間違いありません。
これが、木材業が、家づくりの主体の一員となる道であることを強調したいと思います。
「木のこころ」の読者がリ-ダ-に 木の家づくりを本流にまで押し広げることは、口で言うほど簡単なことではないでしょう。
法規制をはじめ数々の障壁があることは十分承知しています。
しかし、手をこまねていて広がるものでもありません。
小手先の対策だけですすむものでもないでしょう。
何よりも大切なことは、人びとの意識に働きかけ、意識を変えることと、木の家づくりの主体の確立にあると考えます。
本稿を通して強調したかったことは、意識づくりは、近代思想・西洋合理主義の呪縛から脱皮した一人ひとりの存在性・アイディンティティの確立を基礎にした日本らしさの復興にあるという点です。
そして、木の家づくりの主体の確立のために、建築家の奮起とともに、立ち遅れている林業・木材業が、家づくりに目を向けた発想とモノづくりへの転換を決意することからだという点でした。
この先に出てくる問題が、林業と木材業の一体化、杉材をはじめとする乾燥の促進、供給体制と供給ル-トの確立などになります。
この点については、別に検討を深めたいと思っています。
本誌の読者のみなさんが、木の家づくり、日本の木の文化の再興で、素晴らしい21世紀をつくろうと決意を強められ、力を合わせて行動し、オピニオンリ-ダ-としての役割りを果たして下さることを期待しています。
(酒井)

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