麻薬のような心地良さを感じさせる呼称、夢を誘うように流されるコマーシャル、思わず
見惚れるパンフレット。
健康は誰もの願いですし、人間が人間らしく生きる前提です。
健康を求めることがいけないのではなく、これほどまでに多くの人々が健康を気遣い、健康を心配しな
ければならない。
こんな社会がおかしいのではないでしょうか。
そして、健康が商業活動の花となり、『健康』と『自然』
と『環境』を冠すれば受け入れられるという錯誤が生活者を混乱させ、眼を曇らせる風潮こそが問われる
時代になっています。
インスタントものの隆盛の時代ですが、数年、10数年前から真剣に健康や環境をテーマにしてきた企業
がある一方、この数年にインスタントと思えるように『健康』を冠した商業活動をしている企業がむしろ
大手を振っています。
本誌では、創刊以来一貫して健康と健康住宅を主要なテーマのひとつとして位置づけ、取り上げてきま
したが、本稿では「健康住宅」に焦点を当て、真の健康住宅とはどんなものか、いわゆる『健康住宅』は
何が問題なのかを中心に、これからの健康住宅づくりと『健康住宅』をどう捉えるかを考えてみます。
◆「健康住宅」の概念を考える
健康を破壊する要因については、創刊号の「現
代社会は健康破壊のアリ地獄」を始めとして各所
で取り上げ、その中心は、近代文明の発達ととも
にすすんだ①地球環境の破壊、②農薬や化学物質
による被害、③現代病の原因であるストレスを生
む社会環境、④健康を破壊する住まいなどを主な
ものとして考えてきました。
健康住宅については第2号と第3号で、自然と
共生した和風住宅こそが健康住宅の基本であり、
洋風文化を真似て自然と対峙する高気密・高断熱
住宅は、日本の文化と相容れないもので、健康住
宅とは呼べないものであることを考証してきまし
た。
その上で第4号では癒しを育てる住まいづく
りと健康を考えてきました。
この全体を通して改めて強調すべきことは、
「健康住宅」とは健康破壊を減らすものという次
元にあるのではなく、健康を増進し、健康な状態
を当たり前として、健康かどうかを論ずる必要の
ない住まいを目指すということにあるはずです。
多くの建築家の方々とともに考え、「木のここ
ろ」が「健康住宅」の概念としてまとめられるの
は以下にあると考えます。
(1)自然と共生した住まい
気密化ではなく、自然の風・光・香りを取り入
れて、自然と共生した住まいであることが第一で
す。
それは①風や光などを通して自然の無限のエ
ネルギー、マイナスイオン、〝ゆらぎ〟を取り入
れることで自己治癒力や活力を高めることになる。
②人間もまた自然の産物であるからこそ、そのベ
ストな状態は生みの親である自然と共生すること
にある。
③日本民族は長い歴史を通じ、森林的性
格を持ち続け、自然の懐での生活を最も似つかわ
しいものとして創り上げてきた。
④四季の変化を
受け入れながら感性を育て、そのサイクルを体内
に宿した暮らし方をしてきた。
⑤温暖多湿で変化
に富んだ日本の気候風土では、自然の外気となる
べく順応することで体調を維持することが理に叶
っており、自然と隔離されるほど脆弱化し抵抗力
を弱めることになる、ということからだと考えま
す。
寒冷地の住まいや風雨時、外の騒音や煤煙など
の考慮も必要ですから、無条件に解放的というの
ではなく、なるべく自然を受け入れるということ
が大切だと考えています。
(2)自然の素材を使った呼吸する住まい
呼吸する住まいというのは、外の空気(エネル
ギー)を取り入れられることと同時に、素材その
ものが呼吸することで、温湿度の調整を中心に、
音の吸収、光の乱反射の吸収、芳りの放出、宇宙
エネルギーの放散などをしてくれる住まいです。
呼吸する素材には何があるかと言えば、①植物
性素材、②無数の孔の中に一般に遠赤外線と言わ
れる宇宙エネルギーを持つ多孔性素材、③内部に
微生物を胎蔵している素材(微生物の無限の存在
とその役割の究明は、まだ緒についたところです
が、別の機会に考察します)などです。
この呼吸する素材として家づくりに生かされて
いるのが木材、草、紙(原料は木材や草)、土、
自然石などの素材です。
これらの素材は、呼吸す
ることで、温湿度調整などの働きを通して室内環境を整えるだけでなく、室内の汚染物質(悪臭、
プラスイオン、電磁波、低周波音など)を吸収し
たり、細菌や虫を除去したりしてくれます。
そし
てもたらしてくれるのがマイナスイオンの放散、〝ゆらぎ〟の演出などですから、存在するだけで
無意識の内に健康を守り、促進してくれることに
なります。
その自然素材を生かすためには、密閉したり、
厚い塗膜で覆ったりして呼吸を止めないことが大
切なのは言うまでもありません。
自然素材が他の化石燃料資材をはじめとする無
機質材と決定的に違うのは生産・加工過程におい
て熱エネルギーをほとんど要せず、廃棄時には土
に還ることができる極めてエコロジカルな素材で、
特に木材は寿命が尽きるまでリサイクルできるこ
とにあります。
(3)質素・簡素でも心通わす和の住まい
住まいの質は豪華、高級、高付加、高機能を良
しとすべきではないと考えています。
大切なのは質素・簡素でもしっかりした造りで、
人間生活の最初の単位である家族の和を生む間取
りと心の和みを生む空間づくりです。
間取りに当
たっては家族が寛ぎ団欒する居間を中心に、鬼門
への対処や風水学を取り入れた配置を考えるべき
です。
建物の広さや立地条件で一様でないのは当
然ですが、日本家屋の中心が居間(民家の御上・
おえ)にあるのは、家族の和を住まいの大切な要
件としていたからで、祖先からの叡智を引き継ぎ
つつ愛と想いやりと道徳を育てることで、人間ら
しい成長を願ったからにほかなりません。
和みを生む空間づくりの要件は、華美にわたら
ず、自然素材でさり気なくというところにあるの
ではないでしょうか。
木をはじめとする自然素材
は呼吸して存在することで、住む人との同調性を
呼び、無意識の内に心の落ち着きと安らぎを生ん
でくれます。
木や草などの〝1/fゆらぎ〟や放
散するマイナスイオンが自律神経を整え、精神的
安定と情緒を育てます。
これは無機質の化学製品
や工業製品では得ることの出来ないものだという
ことは言うまでもありません。
(4)住まいも健康で、愛着の深まる長寿住宅
住む人にとって健康な住まいは、住まい自身が
健康で百年以上の長生きできる家であるべきでし
ょう。
住まいが健康であるということは、材料が自然
の素材であることは当然ですが、造りも健康な家
でなければなりません。
その要件として考えられ
ることは、①周囲の環境・自然と調和して共生し
た家、②家自身が自然のエネルギーを取り入れた
健康的な家であることです。
太陽エネルギーで充たされ、床下の風通りが良
く、雨や雪や風と対峙するのではなく効果的に利
用できる造りの昔の家は、文字通り健康な家とし
て100年を支えられることが出来ています。
家の
補修さえすれば、主体となる木材は有に100年は
持ちこたえられるのですから、プレハブ等の20年、
30年住宅とは比較にならないローコスト住宅なの
です。
自然素材で包まれた健康な家は、住む人にとっ
ても健康であることは言うまでもありませんし、
住むほどに愛着が生まれ、柱の傷も懐かしさを覚
えるような家となるものです。
以上が本当の意味での健康住宅、健康を増進す
る住まいではないかと考えます。
その意味で、こ
んな健康住宅は、単に健康住宅と呼ぶよりも、む
しろ「自然派住宅」「自然共生住宅」「エコロジ
ー住宅」、もしくはエゴに対して21世紀の基調
である愛と調和と互恵を意味するエヴァを冠した
「エヴァ住宅」とでも言った方が良いように思え
ます。