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平井信二樹木研究
ぺカン属の樹木(その1)
1.ペカン属の概要
 ペカン属(ヒッコリー属、カリア属)CaryaクルミJuglandaceaeに属し、異名にHicoriaがある。北米東部に25種ほど、遠く隔離してアジア東部に4種が分布している。英名はhichory、独名はHickory、Hickorynuss、仏名はcaryer、noyerd'Amerique 、中国名は山核桃という。
 クルミJuglansにきわめて近縁でよく似ているが、いくつかの点で違っている。落葉で大部分は大きい高木となる。クルミ属では髄に空隙があって階段状の仕切りがあるが、ペカン属では充実している。樹皮は通常初め平滑で灰色などであるが、年と ともに粗くなって鱗片化または裂片化する。葉は互生する奇数羽状複葉で、小葉は3~17個あって対生する。葉縁に鋸歯をもち、やや芳香がある。托葉はない。
 花は単性花で雌雄同株、葉とともに開花する。雄花序は腋生の短い総花序軸からふつう2~3分岐して細長な尾状花序を出し、それらに多数の花をつけて下垂する。雄花は花被はなく各花に包1個、小包2個があり、その腋に雄ずいが2~10個、通常4個つく 。葯は無毛。風媒花である。雌花序は頂生する穂状花序でそれに雌花が2~10個つき、各花は無柄で、先が4裂する花床の形になって、1個の雌ずいの子房を包む。花床の裂片の内訳は包1個、小包2個、花被1個に相当する。子房は1室、花柱は2本で短い。包 と小包は花後に凋む。果実は本体は堅果であるが、花托部分がその外側を包む石果様の偽果で、球形から長楕円形を呈する。偽果皮(殻という)が乾質で4弁に裂開することと、堅果に相当する核(nut、ナットという)の表面が平滑、ときに角ばっている ことがクルミ属と異なる。核の内部は不完全に下部は4室、上部は2室となり、発芽時に子葉は核内に残ったままである。
 ペカン属は通常次の2節に区分される。
 (1)ペカンSect.Pecania:ペカン類、pecan hickoryといわれ、冬芽は淡色、鱗片は4~6個で、すり合わせ状に接続する。小葉は3~17個であるが、一般に数が多く、多くは皮針形である。偽果皮に翼状になる縫合線があり、核の壁は薄い。
 (2)ヒッコリーSect.Eucarya:ヒッコリー類、true hickoryといわれ、冬芽は暗色、鱗片は6個以上で瓦重ね状である。小葉は3~9個で、通常頂小葉は他より大きく、多くは倒卵形である。偽果皮に翼がないか、またはほとんどない。核の壁は厚い。
 両者は次節以下に記すように材でも多少の違いがあり、利用上では材はヒッコリー類の方が良質で主要なものであり、果実ではペカン類が重要である。
 中国の学者はアジア産の4種を別に設けたSect.Sinocaryaに入れている。その特徴は冬芽が裸芽で鱗片を欠き、複葉の小葉数が5または7個で少なく、偽果と核(ナット)が卵形または球形に近いこととしているが、この扱いは妥当と思われる。  
2.ペカン属の材の組織
 環孔材または半環孔材で、ヒッコリー類では環孔部分が明瞭である。辺・心材の区別は明瞭で、辺材の幅の広いものが多く、白色から淡褐色、心材は淡褐色、褐色、紅褐色を呈する。生長輪は明瞭である。木理は通直、ときに波状ないし不規則となり、 肌目は粗である。特別な匂いや味はない。
 材の顕微鏡的な構成要素は道管、真正木繊維、軸方向柔組織と放射組織とである。
 道管は単独で相互の間隔がかなり離れているものが多く、その断面形は早材部で楕円形~長楕円形、晩材部で楕円形~円形、ときに2~3個が放射方向などに接続するものがある。環孔部は通常1~2細胞層である。分布数は2~20/mm2。その径は早材部と 晩材部とで急激に変化し、ヒッコリー類でとくに甚い。0.03~0.40mmにわたる。顕微鏡写.真を示したヒッコリー類の1例では、環孔は1~2細胞層、早材部の分布数2~4/mm2、接線方向の径0.14~0.28mm、放射方向の径0.20~0.38mm、晩材部の分布数12~20/m m2、径0.03~0.05mmである。せん孔板は水平または僅かに傾斜し単せん孔をもつ。有縁壁孔の径は0.006~0.010mm。チロースは少ないものと多いものとがある。
 材の基礎組織を形成するのは真正木繊維または繊維状仮道管で、その長さは1.3(0.7~1.7)mm、径は0.01~0.02mm、壁厚は0.003~0.005mmである。
 軸方向柔組織では、周囲柔組織は1~2、ときに3細胞層ある。帯状柔組織はとくに晩材部で明瞭で放射方向に1~3細胞層である。ヒッコリー類では早材部で不明瞭となる。また短接線柔組織、単独散在の柔細胞に移行する形が見られる。柔細胞の径は0.01 ~0.03mm、壁厚は0.001~0.002mmである。細胞内に樹脂様物質の含有は少ない。
 放射組織は1~5細胞幅、1~70細胞高である。その構成はほとんどが平伏細胞からなるおおよそ同性である。細胞内に樹脂様物質を含むものがある。  
3.ペカン属の材の性質と材その他の利用
 ヒッコリー類とペカン類とは材質がやや異なっており、気乾比重の平均的な値として、ヒッコリー類は0.83、ペカン類は0.75ほどとされている。生材から全乾までの全収縮率の属の全般的な値として接線方向8.9%、放射方向4.9%、体積13.6%をあげて いる文献がある。その他の材質数値はそれぞれ個々の樹種の項であげる。
 材質は同じ重さの心材と辺材とでは著しい違いはない。ヒッコリー類は重硬で強く、とくに靭性があることが評価されている。すなわち衝撃曲げ吸収エネルギーで1.90(0.63~2.75)kg・m/cm2の高い値があげられている。
 材の化学的組成の例をあげると、セルロース56.2%、うちaセルロース76.3%、ペントザン18.8%、リグニン23.4%、樹脂・ワックス・脂肪0.63%、灰分0.61%である。
 一般に製材、乾燥、切削、接着、塗装などの諸加工でとくに困難はなく、曲げ加工も良い結果が得られている。材の耐朽性は低く、キクイムシの食害を受ける。
 古くから材は斧・槌・工具などの柄として最も有用なものとして知られ、フローリング・窓枠・階段、パネルなどの建築造作材、家具、器具、機械部材、スキー・体操用具・ゴルフクラブの柄・オール・ピッケルの柄などの運動具材、車両、パレットそ の他の梱包用材、桶樽、木型、旋削物その他と、燃材としても広く用いられてきている。ペカン類は材質が劣り、フローリングなどには良いが、強度、靭性をとくに必要とする用途には適当でないとされる。かつてヒッコリーはとくにスキー材として随一 のものとされてきた。すなわち1965年頃まではすべてヒッコリーの素材単一板のスキーであったが、その後ヒッコリー積層合板、アルミ軽合金とヒッコリーのサンドイッチ構造材、メタル・ガラス繊維の複合材を経て、現在は炭素繊維強化プラスチック(C -FRP)のスキーが一般的となっている。
 この属の材のその他の用途では、鋸屑、チップまたはソリッドが、肉にフレーバーを与えるスモーキングに使われることが知られている。
 ペカン属樹種の果実はアメリカ産の堅果類では最も重要なもので、菓子用に広く用いられ、その為ペカンなどが多く栽培されている。また核から食用油が得られる種類もある。
 樹はよく繁って姿が良いので、庭園樹、公園樹、街路樹に多く植栽されている。     平井先生の樹木木材紹介TOPに戻る
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