メルサワ属の樹木(その5)
20.Anisoptera laevis RIDLEYの概要
Anisoptera laevis RIDLEYは
Sect.Glabraeに属する。マレー、ボルネオに分布しマレーでは最も普通でまた重要な種類である。マレーで標準名
mersawa durianがあてられまた
medang sawa、lohなどの地方名があり、サバで
pengiran
durian、ブルネイで
mersawa durianとされる。
高さ65m、直径2mまでにもなる大高木で、この属では最も大きくなるともいわれる。樹幹は通直で円柱状、枝下高は長い。樹皮は帯黄灰褐色でときに灰白味を帯び、縦の裂け目が入ってやや大きい不規則なフレーク状になって剥げる。板根はふつう大き
くて厚く高さ15mまであがるものがある。葉は倒卵状長楕円形などで比較的小さく長さ5~11cm、幅3~4cmである。先端は短凸頭で鋭尖端、基部は鈍形または広楔形、側脉は10~14対でこれらをつなぐ細脉は網状である。下面に帯紅褐色の鱗状毛を疎生する
。葉柄の長さ1.5~2cm。頂生または腋生する円錐花序は長さ12cmまでで2回分岐して下垂する。分枝には11個までの花をつける。花弁は淡黄色で中心が緑色を帯び長楕円形で小さい。雄ずいは15個あって花柱と同長か僅かに長くそれぞれは不同長である。
花糸は短く葯は狭い長楕円形で内側の葯室は外側のものより短い。葯隔の付属体は短く直立している。雌ずいの子房の上を円板状の足体が被いその上に糸状で無毛の花柱がつく。柱頭は不明瞭に3裂する。果実はほぼ球形で径1.2~1.5cm、頂端に円板状の
足体と長さ5~8mmで糸状の花柱を残存する。萼裂片の外側の2個がへら形で鈍頭の翅に発達し長さ8~15cm、内側の3個の短裂片はほこ形~線形で長さ2.5cmまでである。
21.Anisoptera laevis RIDLEYの材の組織と性質
辺材は黄白色、心材は帯紅淡黄褐色である。手許の文献で体系的に材の組織について記載したものは見当らないが同属の他の種類とほぼ同様と考えられる。諸文献の断片的な記述から二、三のことをあげる。軸方向柔組織では周囲柔組織は薄く短接線柔
組織ないし散在柔細胞はよく発達している。垂直樹脂道はきわめて少数のものが散在しているに過ぎない。放射組織にはふつうシリカが含まれている。
材質数値の例をあげる。気乾比重はマレー産で0.59(0.52~0.70)サバ産で0.55、インドネシア産で0.63(0.54~0.66)の報告がある。またマレー産で生材から全乾までの全収縮率は接線方向9.5%、放射方向3.8%、また別の報告で生材から気乾までの収
縮率は接線方向3.2%、放射方向1.4%の値があげられている。乾燥は遅い。マレーで接地条件での耐朽性試験ではその成績は不良であった。材の用途は属として記述したことと同様と考えられる。
22.Anisoptera reticulata ASHTON
Anisoptera reticulata
ASHTONは
Sect.Glabraeに属する。ボルネオ北部産であり多くはない。高さ65m、直径2mまでになる大高木で、樹皮は黄褐色を呈しフレーク状になって剥げる。板根はやや大きい。葉は倒卵状楕円形などで長さ4.5~13cm、幅2.2~2.5cm、先端は急に短凸頭に
なり基部は広楔形、側脉は9~14対あり、やや厚い革質である。葉柄の長さは1.5~3.5cm。円錐花序は長さ6cmまでで1回分岐する。花弁は黄白色を呈して舌状。雄ずいは約35個で長さ不同、葯は長楕円形で葯隔の付属体は糸状である。雌ずいの子房の上に
つく足体は長楕円形で軟毛を布く。果実はほぼ球形で径は2cmまで、頂端に長楕円形の軟毛ある足体をのせる。萼裂片の2個は舌状へら形の鈍頭の翅になり長さ13cmほど、3個の短裂片は線状皮針形、鋭頭で長さ2cmまでである。
23.Anisoptera scaphula PIERREの概要
Anisoptera scaphula PIERREは
Sept Glabraeに属する。これまで多くの文献で
Anisoptera glabra
KURZとされてきたものはこれと同一と見られるのでその扱いで記述する。分布はバングラディシュ、ビルマ、タイ、インドシナ、マレー、ボルネオと広い範囲にわたる。バングラディシュで
boilam、ビルマで
thinkadu、kaunghmu、材を
mascal
wood、タイで
krabak、カンボジアで
phdiek、ベトナムで
ven-ven、ven-ven xanh、マレーで
mersawa gajah、sanai terbakなどの名がある。
高さ45m、直径1.5mにもなる大高木で、大きいものは直径2.8mという記録がある。樹幹は通直で枝下高は大きく15~20mに達するものがあり、樹皮は灰褐色などで板根が発達する。葉は長楕円形などで長さは平均して15cmほど、幅5.5cmほど、先端は短凸頭
となり銃尖端、基部は円形を呈する。革質で側脉は17対ほど、これらをつなぐ細脉は網状となり下面は疎に鱗片があるのみでほとんど無毛に近い。葉柄は長さ約2cmである。花芽はやや球形に近く熟するといやな匂いを発散する。円錐花序は頂生または腋
生。花弁は白色で卵状長楕円形、鈍頭で長さ約0.4cmである。雄ずいの葯隔の付属体は短い。雌ずいの子房の上につく足体は円板状で花柱の先端柱頭はやや広がって不明瞭に3裂する。果実は球形に近く径は約1.8cmで頂端に盤状の足体をのせその上から細
い円筒状の残存花柱が突出している。堅果を包む萼筒部に僅かにいぼ状突起があり、萼裂片の外側の2個は長いへら形で鈍頭の翅に発達し、長さ14cm、幅2.5cmまでになるものがあるが通常はこれよりずっと小さい。短裂片3個は長さ2.5cmまでである。
24.Anisoptera scaphula PIERREの材の組織
辺材は灰黄色、心材は淡黄褐色でときに淡紅色の縞がある。木理は通直または狭い幅で交走し肌目はやや粗である。一般に欠点が少ない。材の構成要素の割合を測定した1例をあげると道管27.0%、繊維状仮道管(道管状仮道管を含む)44.9%、軸方向柔組
織5.3%、垂直樹脂道0.9%、放射組織21.9%である。道管は多くは単独でときに2~3個が斜方向・放射方向に接続し分布数は4~10/mm2、径0.07~0.3m、チロースが見られる。道管状仮道管はきわめて僅かでおおむね道管の周囲に柔細胞と共に存在する。繊維
状仮道管は材の基礎組織を構成し長さ1.7(1.0~2.4)mm、径0.02~0.03mm、壁厚0.005~0.009mmである。軸方向柔組織のうち周囲柔組織は同属の他種にくらべてやや厚い方で1~3細胞層、接線方向に5細胞までのびてやや翼状を呈するものがありこのもの
は放射方向に1~6細胞層ある。垂直樹脂道を含む柔組織には長い帯状になるものは少なくおおむね各個の樹脂道の周囲に眼瞼状または翼状をなしているものが多い。道孔の上下で放射方向に2~4細胞層、道孔を外れて3~7細胞層ある。短接線柔組織と散在
柔細胞は移行しまた周囲柔組織とも不規則に結合するものがある。短接線柔組織は接線方向に2~7細胞がやや乱れて連なる。柔細胞の径は0.02~0.04mm、壁厚は0.001~0.0015mmである。垂直樹脂道は散在またはほぼ接続方向に2~3個が少し間隔をおいて並
ぶものがあり分布数1~3/mm2、径0.06~0.17mmである。放射組織は単列と多列の2型があり単列はきわめて少ない。多列のものは2~8細胞層で幅の大きいものが多い。5~100細胞高ある。単列のもの、多列のものの上下両端1~2細胞層の1~2列部および多列
部の周縁鞘状部の大部分は直立細胞、方形細胞またはやや高さが大きく放射方向の長さが短い大形の平伏細胞であるが、同属の他種にくらべて鞘状部は不完全不明瞭である。多列部のその他の部分は通常の小形の平伏細胞よりなる。細胞中に樹脂様物質と
シリカが見られる。
25.Anisoptera scaphula PIERREの材の性質と利用
この材の材質に関する報告がかなり多いが、ここでは国立林業試験場のカンボジア産
phdiekについての詳しい研究結果を基にして常識的にまとめられた数値をあげる。気乾比重0.65(0.50~0.75)、含水率1%当りの収縮率は接線方向0.37(0.27~0.47)%
、放射方向0.18(0.11~0.25)%、繊維に直角方向の熱伝導度0.12kca1/m・h・C、同じ方向の温度伝導度5.3×10(-
4)・m2/h、誘電率(1MC)は含水率0%で2.0、15%で4.6、縦圧縮強さ410(350~600kgf/cm2、縦引張強さ1,300(950~1,700)kgf/cm2、曲げ強さ750(550~1,050)kgf/cm2、曲げヤング係数12.0(8.5~14.0)×10(4)kgf/cm2、せん断強さ100(80~125)kgf/
cm2、衝撃曲げ吸収エネルギー0.57(0.35~0.80)kgf・m/cm2、ブリネル硬さは横断面3.7(3.0~4.6)kgf/mm2、放射断面1.1(0.9~1.4)kgf/mm2、接線断面1.6(1.2~1.9)mm2である。その他の報告での気乾比重の例をあげるとバングラディシュ産で0.56
~0.58、ビルマ産0.58、タイ産で0.59、カンボジア産で0.72(0.68~0.84)、0.66~0.70などがある。
材の化学的組織を求めた1例ではカンボジア産材でホロセルロース75%、αセルロース50%、リグニン29%、冷水抽出物2.2%、熱水抽出物4.7%、1%NaOH抽出物21.3%、アルコール・ベンゾール抽出物4.5%、灰分0.9%となっている。
保存的性質については建築内装材としては良好であるが接地条件では腐朽しやすい。ラワン類より重硬でまた材中にシリカがあるため製材はやや困難である。鉋削などの切削加工はとくに困難でないが刃物の鈍化が著しい。乾燥は遅いが人工乾燥による
欠点の出現は少ない。表面仕上げ、塗装性、釘着性、接着性は概して普通ないし良好である。
用途は属としてあげたことと同様、すなわち建築材(内部造作材、フローリングなど)、車両・船舶材、家具材、器具材、包装材その他に用いられ大陸地域では普通に見られる材の1つである。樹脂斑点が出ること、パルプの強度が低いことで製紙パル
プ用材としては不適当とされている。
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