マンゴー属の樹木(その2)
5.マンゴーの材の組織、性質と利用
散孔材。ふつう辺材が大部分を占め心材はきわめて少ないかまたは出現しないものもある。辺材は灰白色など、心材は褐色、暗褐色などで黒色に近い濃色の縞をもつものがある。生長輪はやや明瞭なものからほとんど不明のものまである。木理はふつう
通直であるがまた波状や浅い交走を示すことがある。肌目はやや精ないしやや粗。顕微鏡的構造にもかなり変化が多い。道管は単独のことが多いがまた2~4個がおもに放射方向に接続するものがある。分布数は2~7/mm2で径は0.03~0.25mm、単独道管は横
断面でほぼ円形を示す。せん孔板はやや傾斜しチロースが見られる。材の基礎組織を形成する真正木繊維の長さは短く0.8(0.6~1.1)mm、径は0.015~0.03mm、壁厚は0.002~0.005mmである。軸方向柔組織のうち道管に随伴型のものはふつう翼状でときに
道管孔2~3個を包む連合翼状柔組織となる。横断面で見てこれらは道管の上下放射方向に0~4細胞層、翼状の部分は接線方向に1~2個の放射組織を貫きながら2~8細胞のび、放射方向に1~7細胞層である。ターミナル柔組織の明瞭なものはほぼ連続し放射
方向に1~4細胞層である。柔細胞の径は0.015~0.03mm、壁厚は0.001~0.002mm。放射組織は単列でときに中央部で1層ほどが2列になるのが普通であるが、また両端を除いて他は2列または3列のものが現われることがある。3~15細胞高。構成は異性で上下
両端のおもに1層が直立細胞または方形細胞、中間は平伏細胞からなる。しゅう酸石炭の結晶および樹脂様物質を含むものがある。
材の気乾比重は0.59~0.80の範囲の報告があるが平均して0.65程度と思われる。材質数値の例をあげると、生材から気乾までの収縮率は接線方向1.9%、放射方向1.1~1.2%、縦圧縮強さ436kg/cm2、横引張強さ22~37kg/cm2、曲げ強さ1,100kg/cm2、曲げヤ
ング係数11.0×10(4)kg/cm2、せん断強さ93kg/cm2、横断面のヤンカ硬さ445kgである。加工的性質は属として記載したこととほぼ同一で材の利用も同様としてよい。
6.果樹としてのマンゴー
マンゴーはこの属のうちで最も耐寒性があり世界中の熱帯から亜熱帯にかけてきわめて広く植栽されている。すなわち原産地に近いと考えられるインドからインドシナの地域、インドネシア、マレーシア、フィリピン、台湾のみならず西インド諸島、ア
メリカのフロリダ、カリフォルニア、ハワイ、オーストラリア、モーリシアス、南アフリカにわたり、それぞれ各地に多くの品種が育成されて500以上にも達するという。品種群の分類はむずかしいがおおむね胚が1個のものと多胚のものとにわけることが
行われている。マレーでは果実の円いものにpauhを、長いものにmempelamをあてることがある。熟果の成分の1例をあげると固形分20%、灰分0.4%、酸分0.4%、蛋白質0.5%、糖分14%、脂肪分0.01%以下である。生食することが多いが、商品は早く採果してエチレン処理などの追熟を行う。そのほか缶詰・びん詰(シロップ漬)、ジュース、ジャム、ゼリーなどの加工が行われ、未熟果はピクルス、カレーに添えるチャトニー(chutney)などに用いる。また地域によっては若葉、花を食用にする処があり樹皮、
果肉、種子を薬用とする。かつてインドでは葉を牛に食べさせた尿からインド黄(Indian
yellow、peori)という黄色染料を作ったが今は行われていないという。そのほか樹肌を傷つけて得られる樹皮をアラビアゴムに代用し葉をラック虫の飼料とする。樹は世界の熱帯地域の各地で並木、庭園樹としても多く植えられている。
マンゴー生果のわが国の輸入は果樹害虫ミバエ類の侵入阻止のためほとんど無かったが、最近になって消毒方法の普及と規則の緩和により急速に輸入が増加しつつある。また国内でも石垣島など栽培が広がってきている。
7.ニオイマンゴー
ニオイマンゴー(一名
クイニマンゴー)
Mangifera odorata GRIFFITHはマラッカ原産ともいわれるが天然生のものは見られずその起源は明らかでない。東南アジアの各地で広く植栽されている。現地名はマレーで
kwini、kohini、bachang
betoなど、フィリピンで
huaniという。高さ10~20mになる常緑高木で葉は長楕円形または長皮針形、長さ15~35cm、幅5~10cmで
マンゴーより厚い革質、鋭頭または鋭尖頭、楔脚。葉柄の長さ3~4.5cm。円錐花序は長さ15~30cmで花序軸は無毛、ふつう紅
色を帯びる。花は小さくて径約6mm、強い
ユリのような匂いがある。萼裂片は5個でふつう紅色を帯びる。花弁も5個で長楕円形、黄白色に紅色を帯び黄色の隆条がある。雄ずい5個のうち1個のみが稔性である。果実は卵形~長楕円形で長さ7.5~12.5cm、果
皮は緑色または黄緑色で暗褐色の小点を散生し果肉は淡黄色ときに桃紅色で強い匂いがある。核の表面から出る繊維質は比較的軟らかい。果実は甘く多汁であるが品質は一般の
マンゴーに及ばない。
マンゴーに適さない多雨地域で植栽されまた
マンゴーの
台木に用いられる。材質では心材が見られず生長輪は明瞭、やや軽軟(気乾比重0.61)という記載がある。
8.パウマンゴー
パウマンゴーMangifera pentandra HOOKER FIL.はマレー産であるが自生は明らかでない。マレーの現地名を
pauh、pauh damar、mempelam
bembanなどという。高さ10~15mになる。葉は
マンゴーに似ているが葉縁は波状を占めさず革質の度合が高い。花は長さ30cmまでの多毛の円錐花序につき花は小さく径3~4mm、黄白色、花弁5個、雄ずいは3~5個でいずれも稔性である。果実は球形~卵形で
長さ7.5~10cm、径5~6cm、熟して緑色を呈し果肉は淡橙色~橙黄色、やや甘く繊維質は少ないが樹脂臭が強い。果実の生食および加工用に植栽されている。
9.ラワマンゴー
ラワマンゴーMangifera microphylla
GRIFFITHはマレー産でときに植栽され現地名は
rawa、rabbarabbaという。小高木。葉は楕円形で小さく長さ4~11cm、幅2.5~6cm、多く鈍頭でやや薄い革質である。円錐花序は有毛で花はクリーム白色、花弁4個、雄ずい1個。果実は球形に近く長さ2.5~3.2
cm、緑色から黄色、紅色、帯紫黒色に変化する。果肉は淡橙黄色で甘酸味があり繊維質が多いが食用となる。
10.スパムマンゴー
スパムマンゴーMangifera longipetiolata KINGはマレー原産でときに植栽され、現地名を
sepam
kolahなどという。葉は長倒卵形など。花はクリーム白色で花弁4個、雄ずい1個。果実は球形に近く長さ4~7.5cm、熟して緑色を呈する。生食できるが繊維質が多い。
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