モクセイ属の樹木(その1)
1.モクセイ属の概要
モクセイ属(
ヒイラギ属)
Osmanthusは
モクセイ科
Oleaceaeに属し、30種ほどあるが、大部分はアジア東部、東南部に、1または2種が北米に分布している。英名は
osmanthus、独名は
Duftblute、中国名は
木犀である。
常緑の低木または高木である。葉は対生する単葉で、革質、全縁または鋸歯をもつ。羽状の側脉があり、通常両面に腺点を分布する。葉柄をもつ。
雌雄異株または雄花の株と両性花の株との異株となる。通常きわめて短い集散花序または散形様に束出した花が腋生、またはこれらが複成して短小な円錐花序になって腋生または頂生する。包2個が花序の基部で合着し、また小包をもつものがある。秋
に開花するものが多く、通常白色または黄白色で芳香をもつ。がくは4個の牙歯があるかまたは短い4裂片をもつ。花冠は筒部と4裂片とからなり、裂片は蕾で覆互状配列をする。雄ずいは2個まれに4個で、花冠の筒部につく。葯は外向し、葯隔は延長して
小さい尖頭をなすものが多い。雌ずいは1個、子房は2室で、各室に胚株2個を懸垂し、花柱は子房より長または短、柱頭は頭状または2浅裂する。雄花では雌ずいは退化雌ずいになり円錐状などを呈する。
果実は石果で、楕円形などを呈する。内果皮は厚い骨質となり、中に種子1個を含む。胚乳があり肉質である。
2.モクセイ属の材の組織、性質と材その他の利用
材は紋様孔材という特殊のタイプに入れられる。通常辺・心材の区別がなく、灰白色、黄白色から淡黄褐色を呈するものが多い。生長輪はほぼ明瞭ないし不明瞭である。木理はふつう通直、ときに交走し、肌目は精である。
道管の径が小さく、多数が集合し周辺に道管状仮道管、柔組織を伴って、放射方向に長く延びた不規則な形の火焔状配列などと呼ばれるような特殊な配列をすることが特徴的である。単せん孔をもつ。道管相互間の有縁壁孔の壁孔壁にトールスが存在す
ることが、広葉樹材中でもきわめて特異である。内壁にらせん肥厚が現われる。道管状仮道管が道管群に混在しており、らせん肥厚をもつ。
材の基礎組織は真正木繊維が形成し、ときに隔壁木繊維が見られる。軸方向柔組織では、周囲柔組織、放射方向に2~6細胞層のターミナル柔組織と、単独で散在する柔細胞がある。放射組織は1~3細胞幅で、その構成は単列部では直立細胞または方形細
胞、多列部は平状細胞からなる異性である。
材の気乾比重に0.88~0.97の記載があり、一般に重硬である。製材、切削加工はやや困難の程度のものが多く、乾燥は遅い。接着、塗装にはあまり問題がなく、材の耐朽性は高いとされる。
樹は全般的に小さいので市場材となるものはほとんどない。小器具、雑用材、寄木、彫刻などの工芸品程度と燃材としての利用がある。
花は小さいが集まって咲き芳香があるので、厚質常緑の葉をもつことと相まって、庭園樹に植栽され、ことに生垣に用いられるものが多い。斑入葉その他の各種の園芸品種が育成されている。花は茶その他の賦香料に用いられる。
3.アジア南部に広布するモクセイ属の樹木
(1)
ナガバモクセイ(オオバモクセイ、マツダモクセイ、タカサゴモクセイ)
Osmanthus matsumuranus HAYATA(異名
Osmanthus marginatus HEMSLEY var.formosanus MATSUMURA、Osmanthus obovatifolius KANEHIRA、Osmanthus matsudai
HAYATA、Osmanthus wilsonii NAKAI)はインド、ビルマ、支那中部・南部、台湾、インドシナに分布し、中国名を
牛矢果、台湾名を
大葉木犀、長葉木犀という。
高さ2.5~10mの常緑低木~小高木である。樹皮は淡灰色で粗?、小枝は灰褐色などで無毛である。葉は対生し、倒皮針形などで長さ8~19cm、幅2.5~6cm、鋭尖頭で小尖端をなし、基部は楔形、全縁または上半部に鋸歯がある。側脉は7~15対あり、厚
い紙質で、両面無毛、腺点をもつ。葉柄の長さは1.5~3cmである。
5~6月に開花し、花序は3岐の集散花序が複成した短い円錐花序になって腋生し、その長さは1.5~3cmで、包と小包をもつ。集散花序柄の長さ5mmほど、花梗の長さはふつう2~3mmである。がくは4裂し、花冠は白色または緑白色で芳香があり、長さ3~4mm
、花冠筒部と4裂片はほぼ同長である。雄花は雄ずい2個、退化雌ずい1個をもち、両性花は雄ずい2個、雌ずい1個をもつ。石果は楕円形で長さ1.5~3cm、熟して紅紫色から黒色となる。
(2)
Osmanthus suavis KING ex C.B.CLARKE(異名
Siphosmanthus suavis STAPF)はインド・ヒマラヤ地域、ネパール、プータン、ビルマ、チベット、雲南省産で、中国名を
香花木犀という。
常緑低木~小高木で、高さ3~5m、最高8mまでとなる。樹皮は淡褐色で粗く、小枝は灰褐色、幼枝は灰黄色で細軟毛をもつ。葉は楕円形、まれに卵形で長さ3~7cm、幅1.5~2.5cm、鋭尖頭、基部は楔形で、比較的密な浅い鈍鋸歯がある。側脉は5~8対
、薄い革質、両面は無毛で小さい腺点をもつ。葉柄の長さは0.5~0.7、ときに1cmまで、無毛でまれに細軟毛がある。
春に開花し、葉腋まがは小枝の頂端に6~9個の花が束生し、花梗の長さは3~8mmで繊細、ふつう無毛、早落性の長2~3mmの包をつける。がくは長さ3~4mmで4裂し、裂片と筒部はほぼ同長である。花冠はほぼ白色で、筒部は管状でとくに長く長さ6~9mm
、4裂片は長さ3~4mmである。雄ずい2個は花冠筒部の中位につき、花糸部の4/5が花冠筒部に合着する。葯隔は不明瞭な小尖頭となる。雌ずいは1個で柱頭は2裂する。石果は楕円形または卵形で長さ約0.6cm、青黒色に熟する。
4.台湾産のモクセイ属の樹木
台湾産の
モクセイ属の樹木には、これまでに記した
ヒイラギOsmanthsu heterophyllus P.S.GREEN、
リュウキュウモクセイOsmanthus mauginaths HEMSLEY、
ナガバモクセイOsmanthus matsumuranus HAYATAのほか、次の種類がある。
(1)
ナンゴクモクセイOsmanthus enervius MASAMUNE et MORIは台湾産で、中国名は
無脉木犀という。この種の記載の際には琉球・西表産の標本も含められていたが、これは別種ヤエヤマモクセイOsmanthus iriomotensis YAMAZAKIと考えられている。
常緑の低木~小高木で、樹皮は灰色を呈し、小枝には稜があり無毛である。葉は長楕円状皮針形で長さ5~7cm、幅1.3~2cm、鋭尖頭または鋭頭、基部は楔形、全縁、側脉は5~6対あって上下面とも表面に現われない。革質で両面無毛で、小腺点をも
つ。葉柄の長さは0.5~0.7cmで無毛である。
花は5~8個が葉腋に束生し、花梗の長さは1~5mmで無毛、1~2mmの小さい包を具える。雄花ではがくは小さく4裂し、裂片は大小不同である。花冠は広い鐘形で長さは約3mm、4裂し裂片と筒部とは同長に近い。雄ずいは2個で、葯隔が伸びて小さい円形の
突起になる。小さい円錐形の退化子房1個をもつ。果実は知られていない。
(2)
トガリバモクセイ(ダイブモクセイ、アリサンモクセイ、ホソバモクセイ)
Osmanthus lanceolatus HAYATA(異名
Osmanthus daibuensis HAYATA、Osmanthus gamostromus HAYATA)は台湾産で、中国名は
鋭葉木犀、山桂花という。
高さ5~12mになる常緑低木または小高木で、樹皮は暗褐色、小枝は灰白色または灰黄色を呈し無毛、まれに幼時に細軟毛がある。葉は皮針形で長さ7~10cm、幅1.5~3cm、長い鋭尖頭をなし、基部は楔形である。全縁、ときに鋸歯が出る。側脉は6~1
0対あって、革質、両面に腺点をもつ。葉柄の長さは0.5~1cmである。
雄花と両性花は異株となる。花は葉腋に5~12個が束生し、基部に2又した包をつけ、花梗の長さ2~10mmである。がくは大小不同に4裂する。花冠は白色で芳香があり、長さ4~5mm、4裂して裂片は筒部より長い。雄花には雄ずい2個、退化雌ずい1個があ
り、葯隔が伸びて小尖頭となる。両性花には雄ずい2個、雌ずい1個をもつ。石果は楕円形で長さ0.7~0.9cm、基部にがくを残存する。
材は淡紅白色で、気乾比重に0.89の記載があり、重硬、緻密である。小さい器具などに用いることができる。
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