ヤマモガシとヤマモガシ属
1.ヤマモガシの名称
わが国産のいわゆるtimber sizeに達する樹木で、「木の事典」に未記載のものの1つにヤマモガシがある。ヤマモガシはヤマモガシ科(Proteaceae)に属し、学名は
Helicia cochinchinensis
LOUREIROである。ヤマモガシ科はおもにアジア南部、アフリカ南部、オセアニアに広く自生するが、
ヤマモガシはわが国産の唯一のメンバーで、また科の分布の北端に位置している。和名の
ヤマモガシは葉形などがホルトノキ科の
モガシ(標準名
ホルトノ
キ)
Elaeocarpus sylvestris
POIRETに似ていることからきており、漢字に
山茂樫があてられるが、中国名は
紅葉樹である。方言名には
カマウド、カマノキ、ヨキトギ(以上鹿児島県)、
ミズガシ、モロズメ(以上高知県)、
シャクシギ(徳島県、高知県)などがある。
2.ヤマモガシの形態と分布
常緑の小~中高木で、樹高は12m、直径は40cmくらいまでになり、大きいものは80cmの記事がある。樹幹はほぼ直立し、樹肌は灰褐色でほぼ平滑、老木では縦のちりめん皺になる。ほとんど全株無色。葉は互生し、倒皮針形~長楕円形、長さ5~15cm、幅
1.5~5cm、革質、先端はやや急な鋭尖頭、基部は楔形でやや葉柄に流れる。全縁または上半に疎に微鋸歯があるが、幼木では葉縁全体に開出した芒尖鋸歯があるのが著しい。側脉は約10対。葉柄は長さ6~10mmである。7~9月の間に2または3年生枝の葉腋
から出た細い総状花序に多数の黄白色の花を密につける。花は2個ずつが小花柄を持って1個の花柄につき、花柄および小花柄には細伏毛を布く。蕾は長さ1.0~1.4cmの細筒形であるが、開花すると4個の線形の花被片(萼片と花弁の区別がない)が外側に
著しく反転、ときにらせん状になる。雄ずいは花被片上部の内側に1個ずつつき、花糸はなく広線形の葯のみで、葯隔が突出する。雌ずいは1個で子房上位、1室で卵子2個をもち、花柱は細く先端は棍棒状の柱頭となる。子房の基部には4個の黄褐色の腺体
がつく。10~11月に熟する果実は楕円形で長さ1~1.2cm、紫黒色の液果状の堅果で開裂しない。種子は1個で胚乳はなく、2枚の子葉が多肉となってその代りをしている。
分布は静岡県以西の本州、四国、九州、琉球、台湾、支那中部以南、インドシナで、一般に照葉樹林中に散生している。
3.ヤマモガシの材の組織
材の横断面をみると道管孔が年輪に関係なく接線状に配列するが、一応散孔材の方に入れてよいであろう。この道管孔配列のタイプは高木になる国産材の中ではきわめて特異である。
辺心材の区別はやや不明瞭で、辺材は帯紅白色、心材は淡紅褐色、年輪も不明瞭である。肌目は緻密。材を構成する顕微鏡的要素は道管、繊維状仮道管、木繊維、軸方向柔組織と放射組織とである。
道管孔は接続方向にやや不斉に2~6個が連接し、ときに1個孤立、放射方向にはおおよそ1個道管幅であるが、ときに2個の小道管が介在することがある。この接線方向道管線の間を4~10個の層の木繊維および柔細胞が埋めている。道管の分布数40~70/m
m2。道管孔の形と寸法は不斉で円形~多角形、直径0.03~0.08mmである。単せん孔でせん孔板は傾斜し、内壁にらせん肥厚をもつ。
繊維状仮道管は道管群の周辺または内部に混在し、径は0.02~0.04mm、内壁にらせん肥厚をもつ。
木繊維は材の基礎組織をなし、その配列は不整、径は0.015~0.025mmで厚壁である。多分真正木繊維と思われる。
軸方向柔組織には道管群の外縁に沿って連なる放射方向に1~3層の接線柔組織(外側帽状柔組織)と、木繊維中に散在して混じる少数の柔細胞があり、径は0.03~0.04mmである。
放射組織には2種がみられる。すなわち、おもに1細胞幅(単列放射組織)のものと、15個細胞幅までの広放射組織(多列放射組織)とである。前者は2~6細胞高で、ほとんど直立細胞のみからなり、ときに方形細胞ないし平伏細胞を混じえる。広放射組
織は50~150細胞高で、ほとんどが放射方向の長さが短い平伏細胞ないし方形細胞からなるが、軸方向上下両縁1~4層、ときに周縁の一部は直立細胞からなる。放射柔細胞の接線方向の径はかなり不斉で0.02~0.06mmである。
4.ヤマモガシの材の性質と利用
材は重硬である。強度的数値などの明らかにされた資料は手許にないが、気乾比重0.70という記事がある。オーストラリア産の同科の
silky oak(
シノブノキGrevillea robusta
A.CUNNINGHAM)の材と同様に、まさ目面またはこれに近い材面で、広放射組織が面白い斑になって現われるが、一般に樹はあまり大きくなく、量的に少なく、材としてまとまって出ることがないので、市場材としての価値は低い。
地方的に構築材、器具材、細工物、薪炭材などに使われる。樹木は街路樹、庭木に用いられることがある。
5.ヤマモガシ属の概要
ヤマモガシ属
Heliciaはやや大きな属で、80種ばかりがインド南部、アジア東南部からオーストラリア北部および東部にかけて分布している。常緑の小~中高木または低木で、各種は互いによく似ており、植物としての形態はヤマモガシについて記した
ことにおおよそ一致している。材に高い広放射組織を持つことは多くのヤマモガシ科の他属の高木と共通で、オーストラリアでは
silky oakの中に含められている。しかしtimber
sizeに達するものが少なく、また量的にまとまって出ることも少ないので、木材用としてはあまり重要でない。
6.外国産ヤマモガシ属の数種
(1)Helicia formosana HEMSLEY
和名:
タイワンヤマモガシ、ヤマリュウガン、台湾名:
山竜眼、山枇杷。台湾産。小高木、葉は長倒皮針形~長楕円形、葉裏沿脉および花軸、果実外面などに褐色毛がある。花は白色。果実は球形。材は辺心材の別が不明瞭で淡紅褐色、気乾比重0.79、広
放射組織による杢(もく)が出て美しく、家具、箱、装飾用材などに使われる。
(2)Helicia attenuata BLUME
和名:
マライヤマモガシ、マレー名:
golang paya、gurang bukit。分布はマレー半島、スマトラ、ボルネオ、ジャバ、バリ。低木~小高木、葉は倒皮針形~楕円形、花は黄白色から淡紅色。
(3)Helicia erratica HOOKER FIL.
中国名、
蘿蔔樹、ビルマ名:
daukyat kyi。分布は支那南部(広東省)、インドシナ、ビルマ。小~中高木、全株無毛、葉は楕円状皮針形~長皮針形。
(4)Helicia excelsa BLUME
マレー名:
membatu laiang、ビルマ名:
daukyat。分布はインド東部、ビルマ、タイ、インドシナ、マレー半島、スマトラ、ボルネオ。小~中高木。小枝上部に淡褐色絨毛、葉は長楕円形~倒皮針形、短凸頭、花は黄褐色。材の重さ硬さ中庸。
(5)Helicia petiolaris BENNETT
マレー名:
gong、putat tapi。分布はマレー半島、ボルネオ。低木~小高木、葉は倒卵形で大きく長さ30cmまで、全縁、花は淡緑色。材はきわめて重硬で、家屋建築などに使われる。
(6)Helicia robusta R.BROWN ex WALLICH
分布はインド東南部、ビルマ、インドシナ、マレー半島、フィリッピン、スマトラ、ボルネオ、ジャバ。小~中高木。葉は卵状長楕円形ときに倒卵形で大きく長さ30cmまで、花は白色。材は重硬で、家屋建築などに使われる。
(7)Helicia micronesica KANEHIRA
和名:
カロリンヤマモガシ。パラオ島固有。小~中高木。幼枝・花軸に淡褐色の短柔毛を布く。葉は倒皮針形など。
平井先生の樹木木材紹介TOPに戻る