インドカリン属の樹木(その5)
20.アンゴラカリンの名称、分布と形態
Pterocarpus angolensis DECANDOLLEにも和名
アフリカシタンを用いる著書があるが、適当でないので
アンゴラカリンの名を当てることにする。ウガンダ・ザイール・アンゴラを連ねる線から南方に南アフリカ北部に至るアフリカ大陸南部のおもにサバンナ林に生ずる。アフリカ産イ
ンドカリン属Pterocarpusのうちで
アフリカカリン
Pterocarpus soyouxii TAUBERTに次いでよく知られている種類である。英名に前種と同じく
padauk、African
padauk、barwoodおよび
bloodwoodが使われるが、この種のみの標準的な名称としてタンザニアの現地名
muningaが用いられることが多い。その他の現地名にはザイールの
mutondo、mulomba、アンゴラの
girassonde、ザンビア・ローデシア(ジンバフゥエ)の
mukwa、モザンビークの
umbila、南アフリカの
kiaatなどがある。
高さ20m、直径60cmまでになる小~中高木で樹形は一様でないが、ふつう枝下は短く長さ7.5m以下である。樹皮は暗灰色から褐色で縦の裂け目が入って粗い。葉は11~19個の小葉からなる奇数羽状複葉で、小葉は対生ないし互生、楕円状皮針形~倒卵形
で長さ4.5~7cm、先端は狭い凸頭でその先は刺状になる。円脚で初め下面に毛があるが後に消失する。長さ10~20cmの円錐花序に橙黄色の蝶形花をつける。豆果は薄い円板状でほぼ円形、径は9cmまで、中央に種子があり、それを被う両表面部にざらつく
刺状毛を密生する。この部分を囲む膜状の翼は幅が広く3cmまであり、大きく波うっている。この樹はサバンナでの火災にきわめて強いという。
21.アンゴラカリンの材の組織、性質と利用
おおよそ環孔材で生長輸がほぼ認められる。心材は黄褐色、金褐色、褐色、紫色を帯びた暗褐色などで、ときに紅色を帯び、また濃色の不規則な縞をもつものがある。木理はほぼ通直から交走するものまであり肌目はやや粗い。心材の水浸出液は螢光を
示さないという。
材はおおよそ中庸ないしやや重硬で、気乾比重に0.50~0.86の範囲の記載があり、平均的には0.65程度と思われ、この属のうちでは軽軟な方に入る。材質数値の例をあげると、生材から全乾までの全収縮率は接線方向2.5%、放射方向1.7%(この数値は小
に過ぎる。生材→気乾収縮率の誤まりであろう)、縦圧縮強さ512~585kg/cm2、曲げ比例限度635kg/cm2、曲げ強さ837~959kg/cm2、曲げヤング係数8.4~9.4×10(4)kg/cm2、せん断強さ91~160kg/cm2、割裂抵抗は放射面13kg/cm、接線面14kg/cm、ヤンカ硬
さは横断面581~757kg、縦断面454~671kgである。これらの強度数値は比重が比較的小さいことに相応してかなり低い。製材、鉋削は容易であるが、交走木理のまさ目の鉋削には多少の注意が必要である。乾燥はあまり速くないが狂い、割れなどの損傷が
出ることは少ない。その後の寸法安定性は良好である。磨けばきれいな仕上げ面が得られる。接着に問題はなく釘、木ねじの保持力は良い。耐朽性、耐蟻性ともに高い。
家具材として良好なものの1つで、パネル・フローリングその他の建築内装、車両・船舶の内装、ボート、各種の器具、楽器の部材、彫刻・寄木細工などの工芸品その他に用いられ、装飾的な用途にはスライスドベニアの形でも使われる。現地民は皿、
臼、ドラム、槍の柄、カヌーのかいなどに賞用する。樹幹の傷口に滲出する樹脂は紅色で、材とともに染料に使われるという。樹皮その他が現地の民間薬としていろいろな病気に用いられる。木工場で材粉がアレルギー性喘息をおこすことが知られている
が、その発生件数は多くない。
22.アフリカキノカリン
アフリカキノカリンPterocarpus erinaceus LAMARCKは、アフリカ中西部から南部のサバンナ林に広く分布し、しばしば植栽される。英名に
Senegal rosewood、Gambia rosewood、West African rosewood、African redwoodがあり、
padauk、African
padaukに入れられることもある。小~中高木、樹皮は黒褐色で裂片化する。花は黄色。豆果は円板状で径7~8cm、中央の種子を含む部分の両面に細い刺が密生する。
心材は紅褐色などで、木理は通直または交走、肌目は中庸ないしやや粗い。材質数値に次のものがある。気乾比重0.80~0.85、生材から全乾までの全収縮率は接線方向3.2~7.4%、放射方向3.0~3.5%、体積8.3~8.8%、縦圧縮強さ630、766kg/cm2、縦圧縮
ヤング係数13.4×10(4)kg/cm2、横圧縮強さ25kg/cm2、横引張強さ28kg/cm2、曲げ強さ1,400、1,789kg/cm2、曲げヤング係数13.4、14.2×10(4)kg/cm2、せん断強さ73,100kg/cm2、割裂抵抗20kg/cm、衝撃曲げ吸収エネルギー0.29kg・m/cm2。製材、機械およ
び手工具による切削は容易で仕上げ面は良好である。乾燥はやや遅く微細な割れが出る傾向があるという。使用中の寸法安定性は良い。接着には支障がなく、曲木に適するとされている。耐久性および耐蟻性は高い。
用途は家具を始めとして、建築ではパネル・フローリングを含む造作材および構造材、車両・船舶の内装、各種器具、楽器の部材、スポーツ用具、玩具、工芸品その他と広い。装飾用にはスライスドベニアの形で用いられることも多い。幹面の傷口に滲
出する樹脂はかたまって暗紅色を呈し、かつて薬用および染料に多く用いられた。キノ(kino、吉納)は本来この樹脂の名であったが、現在では紅色樹脂の商品名として一般的に用いられている。
23.その他のアフリカ産のインドカリン属の樹木
Pterocarpus lucens GUILLEMIN et PERROTTETは、アフリカ南部すなわちモザンビーク、ローデシア(ジンバフゥエ)、南アフリカ(トランスバール)、ナミビア産で、
Pterocarpus stevensonii BURTT DAVYはその異名である。ローデシアで
small-leaved bloodwood、南アフリカで
small-leaved kiaat、dorinkiaatの名称がある。大きいものは高さ10mまでになるが概ね低木状である。葉は5~9個の小葉からなる奇数羽状複葉で、小葉は対生またはやや互生し卵形、ときに倒皮針形で小さく、ふつう長さ2~3cm。花は淡黄色。豆果は扁平で卵形、長さ5
cmまでである。辺心材の区別が不明瞭で淡黄色、気乾比重0.63~0.88の記載がある。斧の柄、車輪の縁などに用いられる。
Pterocarpus rotundifolius DRUCEも前種同様の地域の産で、ローデシアで
round-leaved bloodwood、南アフリカで
round-leaved kiaat、dopperkiaatの名称がある。中~大高木。葉は5~11個の小葉からなる奇数羽状複葉で、小葉は対生またはこれに近く、卵形~楕円形、長さ3.5~7.5cm。花は濃黄色。豆果は円板状で径2.5~3.5cmある。材は淡色。一般用材となるが、耐朽性はきわめ
て高い方には入らない。
以上のほか、アフリカ産に次のような種類があるが、これまでにあげたものと同一種として整理されるものがあるかも知れない。
Pterocarpus brenanii BARBOSA et TORRE(
large-leaved bloodwood)、
Pterocarpus cabrae DE WILD、
Pterocarpus mildbraedii HARMS(
padouk blanc)、
Pterocarpus osun CRAIB(
padouk、osun)、
Pterocarpus tinctorius WELWITSCH(
padouk).
24.Pterocarpus draco LINNAEUS
新大陸産のインドカリン属Pterocarpusで分布が広く、よく知られている代表的な種類は
Pterocarpus draco LINNAEUSで、
Pterocarpus officinalis JACQUINはその異名とされる。メキシコ南部から南の中米諸国、ジャマイカ・プエルトリコから南の西インド諸島、南米北部のコロンビア・ベネズエラ・ギアナ・ブラジルのアマゾン河口付近に至る間に分布している。海岸近くの低地・湿地に多く、しば
しばマングローブ林の背後でほとんど純林をなしていることがある。英名は
bloodwood、swamp bloodwoodといい、現地名は各地で
drago、sangre dragoということが多い。またプエルトリコで
palo de
pollo、メキシコで
guayabillo、ベリーズで
kaway、コスタリカで
chajada amarilla、コロンビアで
bollo blanco、ベネズエラで
lagnero、ガイアナで
itchikiboura、スリナムで
bebe、仏領ギアナで
moutouchi、ブラジルで
mututy、pau
sanguaなどと呼ばれる。小~中高木で樹幹は細長であるが、板根が著しくそれに不規則で薄く、ときに幅が広い根上がり部分が続く。葉は5~9個の小葉からなる奇数羽状複葉で、小葉は互生または対生し中~大形。花は大きく黄色を示す。豆果は円板状で
中央部に1~2個の種子を含み周縁は膜状の翼となる。
暗褐色から紅褐色を呈する正常の心材はきわめて少なく、大部分が黄白色の辺材部分である。木理はほぼ通直なものからかなり、不規則なものまであり肌目はやや粗い。材の気乾比重は0.40~0.70で、他大陸の同属種にくらべてずっと軽軟である。切削
などの加工は容易であるが耐朽性は低い。家具、建築の内部造作、器具などに使われる。樹幹面の傷口に滲出する樹脂はかたまって暗紅色のキノとなる。このものはdragon's bloodと呼ばれ、かつて薬用および染料に用いられた。
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