テンダイウヤク、ダンコウバ
1.テンダイウヤク
テンダイウヤク(
天台烏薬)(一名
ウヤク、カメバノキは
クスノキ科
Lauraceaeに属し、学名は
Lindera strychnifolia F.VILLARで、また
Benzoin strychnifolium O.KUNTZEも用いられ、異名に
Daphnidium strychnifolium SIEBOLD et ZUCCARINI、Lindera
aggregata
KOSTERMANSがある。支那中部、南部の原産で、わが国へは亨保年間(1716~1748)に薬用として渡来して栽培されたが、現在は野生化したものが静岡県、南近畿、九州などに見られる。中国名は
烏薬、
■■樹で、浙江省天台山産のものが名品とされたもの
で前記の和名がついた。
高さ5mまでになる常緑低木で樹幹は叢生し、樹皮は灰褐色で、ほぼ平滑である。根の1部が紡錘状に肥厚しこれが薬用に供される。若枝は緑色で淡褐色の軟毛を密布し皮目はないが、2~3年後に縦長の皮目ができる。頂芽も側芽もある。葉は互生する単
葉で広楕円形~倒卵状円形、長さ4~8cm、幅2.5~4cm、先端は尾状鋭尖頭でやや鈍端、基部は円形、ときに広い楔形、全縁、薄い革質で、葉身の基部近くから分かれる3脉が著しい。若葉は褐色の軟毛を密布するが、後に上面は無毛になって光沢があり、
下面は粉白色で軟毛と微毛がある。若葉は葉柄の先で折れて下垂する。葉柄の長さは4~9mmで有毛である。
4月に開花、腋生の芽に1~3個の無柄の散形花序がつき花は淡黄色である。雌雄異株。雄花序は2~3花からなり花柄の長さは約3.5mmで有毛、花被片6個は長さ2.5mm、雄ずいは9個が3輪に並び、葯は2室で2弁で裂開する。最内輪の雄ずいは左右に腺体をも
つ。退化雌ずいは1個は長さ約2mmで有毛、柱頭の先端は広がる。雌花序は2~3花からなり花柄の長さは約3.5mm、雌花は雄花より小さく花被片6個がつく。退化雄ずい9個が3輪に並び最内輪の3個は左右に腺体をもつ。雌ずいは1個で長さ約2.5mm、柱頭は著し
く楯状に広がって斜めに傾く。液果は広楕円形で長さ7~9mm、紅色から黒色に熟する。果柄の長さは7~9mmで先の方が少しふくれる。
膨らんだ根はボルネオール、リンデラン、リンデレン、リンデロールなどの精油成分を含み樟脳に似た香りがする。鎮痛、興奮、強壮、健胃など、また中風にも用いられる。種子から得られる油は灯用となる。
2.ダンコウバイの名称と方言名
ダンコウバイは
クスノキ科
Lauraceaeに属し、学名はふつう
Lindera obtusiloba BLUMEであるが、
Benzoin obtusilobum O.KUNTZEが用いられることも少なくない。異名に
Lindera cercidifolia
HEMSLEYがある。
檀香梅は
ロウバイで
白檀(ビャクダン)の香りをもつ1品種の名称で、それがこの植物に転用されたとするのが一般の解釈であるが、
タニコウバシから変わったとする考えもある。一名に
ウコンバナがあり、中国名は
三木亜烏薬、紅葉甘檀で
ある。
山野にごくふつうにあって春早く美しい黄色の花をつけるのでよく知られていて方言名が多い。
アワモリ、アワモチ(以上北陸、岐阜県)、
コウジバナ(埼玉・奈良県)などは開花の様子からきたもの、
タニイソギ(中国)、
マンサク(群馬・福井・和
歌山県)、ハルハシゲ(岐阜県)、
トキシラズ(木曽)などは早春に開花するのによると思われる。ジシャの名はふつう同属のアブラチャンであるが、
ダンコウバイにも
ジシャ系(長野・山梨県)があり、
シロジシャ、イワジシャ、ミヤマジシャ(以上関
東、中部)など形容詞をつけたものも多い。
クロモジに対応する
シロモジ系(栃木・石川・兵庫県)もある。そのほか
シロモトギ(香川県)、
ウワジ系、
イワハゼ(以上富山県)、
タニコウバイ(岐阜県、谷黄梅でなくて
タニコウバシと思われる)、
ハナ
ムラダチ(三重県)など各種の方言名がある。
3.ダンコウバイの形態と分布
落葉低木~小高木で高さ7m、直径20cmに達する。樹皮は暗灰黄色でほぼ平滑、小枝は淡褐色~紅褐色で円形または縦に連なる皮目があり、若枝は緑色で初め絹毛を布くが後に殆んど無毛となる。枝を折ると芳香がある。枝先が枯れ落ちるので真の頂芽を
欠く。葉は互生する単葉で卵形または広卵形、おおよそ3裂するが、枝元の葉はふつう小さくて分裂しないものが多い。長さ4~16cm、裂片は卵形または3角形、急尖頭または鋭頭、あるいはやや鈍頭、葉身の基部は切形から浅心形、洋紙質で上面に初め絹
毛を布くが後に無毛となる。下面は帯白色で初め細毛を密生するが次第に薄くなる。3主脉が著しく脉理は下面でやや隆起する。葉柄の長さ1~3cmで、初め細毛があるが後に無毛となる。
3月下旬から4月にかけ葉より先に開花する。前年枝の葉腋に無柄の散形花序を1~3個つける。花は黄色で、雌雄異株。雄花序は5~10花からなり、花柄の長さ3~15㎜で絹毛がある。花被片6個が2輪に並び長さ3~4mm、雄ずい9個は3輪に並び、葯は2室で
内向し2弁で裂開する。最内輪の雄ずいはやや短く基部付近の左右に黄色の腺体をつける。退化雌ずい1個はきわめて小さい。雌花序は約5花からなり、花柄はふつう雄花のものより短く花も小さい。花被片6個、退化雄ずい9個は葯がなく最内輪の3個は左右
に腺体をもつ。雌ずいは1個、子房は楕円状球形、花柱は細長く柱頭はやや楯状に広がる。9~10月に液果が紅色から黒紫色に熟し、球形で径は7~8mmである。果柄は長さ1~2cmあって先端は太くなる。種子1個を含む。
本州(関東・長野県以西)、四国、九州、朝鮮、支那、満州、チベットに分布する。
葉が分裂しないものを
マルバダンコウバイLindera obtusiloba BLUME forma ovata T.LEE、葉の下面に伏毛の残るものを
ウラゲダンコウバイ(一名
ケダンコウバイ)
Lindera obtusiloba BLUME forma villosa BLUMEとして区別することがある。
4.ダンコウバイの材の組織、性質と利用
散孔材。辺心材の区別は不明瞭で淡黄白色から淡紅白色を呈する。年輪界はやや不明瞭。山林暹氏の朝鮮産剤についての写.真と記載によって要点をあげる。道管は単独、ときにおもに放射方向に2~4(~7)個が接続し、分布数は55(20~75)/m㎡、径
は0.025~0.08mm、単せん孔、ごく稀に階段せん孔をもつ。真正木繊維の長さは0.4~0.85mm、径は0.01~0.025mm、壁厚は0.003~0.005㎜である。軸方向柔組織はおおむね周囲柔組織で、まれに翼状柔組織となり、ごくまれにターミナル柔組織が見られる。
放射組織は1~3(~4)細胞幅で単列のものは少なく、高さは0.015~0.8㎜を示す。その構成は異性。分泌巨細胞の出現はやや少ない。
材の気乾比重に0.67の報告がある。材の利用は小器具材、小細工物などと薪炭材である。種子から不乾性油が得られ、朝鮮では束柏油の名で整髪料に用いられまた灯用にも使われた。樹は庭木に植えられ、開花枝は切花される。
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