フカノキ
1.フカノキの名称と分布
フカノキは
ウコギ科
Araliaceae に属し、最近大場秀章氏によってその学名は
Schefflera heterophylla FRODIN を用いるべきとの考えが出されているが、ここでは一応これまでの慣用に従って
Scheffera octophylla HARMS を当てておく。異名の主なものをあげると
Agalma octophyllum SEEMANN,Heptapleurum BENTHAM ex HANCE,Agalma lutchuense NAKAI がある。和名の別名に
トウシンギ、オニノテがあり、方言では鹿児島県に
フカノキ、アサガラ、バカギ、ジンカラノキ、イモギなど、沖縄に
アサグロその他があり、材が白く軟質で脆弱なことから由来した呼称が多い。中国・台湾名は
鵝掌柴でそのほかに
、
江某、鴨母樹などの台湾名がある。
九州南部、琉球、台湾、支那南部、海南島、インドシナ、フィリピン・パタン諸島の亜熱帯地域に分布し海岸に近い処に多い。
2.フカノキの形態
ふつう常緑、ときに半落葉の小~中高木で高さ6~10mであるが、大きいものは高さ15m、直径1mに達するものがある。直幹性のものは少なく割合下の方から太い枝を分岐し不規則に開出する。樹皮は灰白色、灰褐色、灰黒色などで平滑である。小枝にV型
の葉痕が目立ち若枝は細かい淡褐色の星状毛を密生するが後に脱落して無毛となる。生長は速い。葉は互生する掌状複葉で小葉は6~9個、その葉身は狭い長楕円形または倒卵状長楕円形で中央の小葉が最も大きくて長さ7~20cm、幅3~7cmで左右に向うに
従って小となる。鋭尖頭で基部は鋭形または鈍形、縁にふつう鋸歯はないが若木では不規則な切れ込みが出る。無毛で下面は淡緑色を呈する。小葉柄の長さは1~5cm、総葉柄の長さは10~30cmで基部は肥大する。11~1月に枝先に2回ほど総状に分岐した大
きな円錐状の複生の花序を出し多くの小花をつける。花序分枝の末端は4~8個の花がそれぞれ長さ4~6㎜の小花柄をもって構成する散形小花序である。花序軸には細かい星状毛を密生する。1つの花の径は4~5㎜、萼筒は鐘形で縁に小さな低い5個の萼歯が
ある。花弁はふつう5個で緑白色、長卵形、長さ約2㎜、鋭頭で内面に隆起した1脉がある。雄ずいは5個、雌ずいは1個で下位子房が萼筒と合着し5室、ときに6室で各室に1個の卵子があり花柱は短い。果実は液果様の石果で5月頃成熟し球形、径約5㎜、黒褐
色、無毛、頂端に花柱を残存する。種子は半円形で断面は3角形を呈する。
3.フカノキの材の組織
散孔材で辺材・心材の区別がなく灰白色を呈する。年輪はやや明らかなことが多いがときに不明瞭である。肌目はふつうやや粗。横断面で見た道管孔はほぼ均等に配列し単独または2~4個がおもに放射方向に、ときに接線方向または斜方向に接続し、こ
れらグループのものも1個とみての分布数は15~30/m㎡である。単独道管の断面形は円形、広楕円形などでやや角ばっている。径は0.05~0.15㎜、せん孔板は傾斜するものから水平に近いものまであり階段せん孔でバーの数は5~8個。接続道管の間の有縁壁
孔は横長の階段壁孔で、兼次忠蔵氏によれば閉鎖膜上で多孔となった篩目状構造をなすという。道管と柔細胞との間の半縁壁孔も横長である。基礎組織を形成する真正木繊維は隔離をもつものが多く長さ0.6~1.9㎜、径0.02~0.04㎜、壁厚0.0025~0.003㎜
である。軸方向柔組織では道管に随伴する周囲柔組織は不完全で0~1細胞層を示し、基礎組織中に散在する柔細胞も見られる。またときに放射方向に0~3細胞層の不完全なターミナル柔組織が現われる。柔細胞の径は0.02~0.04mm、壁厚は0.0015~0.002㎜
である。放射組織は1~6細胞幅、多くは2~4細胞幅で2~30細胞高ある。その構成は異性で、単列のものおよび多列のものの上下両端1~2層と周縁の大部分、ときに内部に包まれた層でも直立細胞がこれらを構成し、その他の比較的少ない部分を小形の平
伏細胞の層が構成している。両者とも細胞の大きさの変化がかなり著しく、ことに直立細胞には巨細胞ともいえるようなものが現われる。兼次忠蔵氏は放射組織中に水平細胞間道があることを記載している。水平細胞間道は日本産の広葉樹材ではこのほか
に同じ
ウコギ科の
カクレミノ Dendropanax trifidus MAKINO にその存在が知られているのみである。
4.フカノキの材の性質と利用
台湾産のもので求められた材の物理的性質の数値をあげる。気乾比重0.48、生材から全乾までの全収縮率は接線方向4.5%、放射方向2.2%、体積7.3%、縦圧縮強さ318kg/c㎡、横圧縮強さ63kg/c㎡、縦引張強さ595kg/c㎡、横引張強さ20kg/c㎡、曲げ強さ776
kg/c㎡、曲げヤング係数10.7×10(4)・kg/c㎡、せん断強さ143kg/c㎡、割裂抵抗45kg/cm、ブルネリ硬さは横断面2.4kg/m㎡。
同じく台湾産のものの科学的組成はホロセルロース56.1~57・8%、αセルロース40.7~44.0%、 ペントサン16.8~20.0%、リグニン23.4~25.1%、冷水抽出物2.9%、温水抽出物3.6%、1% NaOH
抽出物19.5~20.2%、アルコール・ベンゾール抽出物1.7~2.2%、灰分0.1~2.0%である。
材は軽軟で収縮膨張が少なく、乾燥が速く鉋削その他の切削加工はきわめて容易である。ただし耐朽性はきわめて低い。
一般に器具材、雑用材に用いられるが、量的にまとまることが少ないこと、樹の形質が良くないことに、材が脆弱で耐朽性がないことで市場材としての価値は低い。一応の用途をあげると下駄、砂糖樽、農機具、浮子、刀鞘、杓子、模型、彫刻・ろくろ
細工などがあり、またマッチ軸木、ベニア、パルプに用いられることもある。現地では樹皮から縄を作り、葉は牛の飼料にすることがあるという。台湾では樹を庭木に用いる。
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