テレンタン属の樹木(その3)
9.キャンプノスペルマ属の概要
キャンプノスペルマ(トーン)Campnosperma brevipetiolata
VOLKENSはセレベス、モルッカ諸島、ニューギニア、メラネシア(ビスマーク諸島、ソロモン諸島)、ミクロネシアに広く分布する。しばしば沼沢地に生じ純林をなすものがある。ソロモン諸島では植栽も行われている。英名または取引名で
campnospermaと
いい、また
Solomon Islands mapleといわれることがあり、セレベスで
dalipo、doloepo、モルッカ諸島で
lakuoeng、taniruana、パプア・ニューギニア地域で
campnosperma、siruga、ソロモン諸島で
karimari、karamate、wel、noteniga、kete
kete、solo、ポナペ・クサイ島で
tohn、パラオで
keralm、ヤップ島で
ramalo、ramuloという。
高さ50mまで、直径1.2m、ときに2.2mまでになる大高木である。樹幹はほぼ通直で、僅かに板根があり、枝下は20mに達するものがある。樹皮は灰白色を呈し、平滑である。葉は倒皮針形で大きく長さ30cm、ときに50cmまで、幅7~10cm、鈍頭ときに平
頂ないし凹入を示し、基部は狭い楔形で葉柄に狭い翼になって流れ、その底部両側に小い耳状の片をつける。革質、全縁で、葉身の基部以外は無毛、側脉は20~30対ある。
円錐花序の軸に粗毛があり、多数の小さい花をほとんど無梗でつける。がくは4裂し、花弁は4個、楕円形で長さ約1mm、雄花には雄ずい8個がある。果実はほぼ球形で径6~7mm、中空の隔室をもち、熟して紅色から黒色となる。
10.キャンプノスペルマの材の組織
散孔材。辺・心材の境界は不明瞭で、辺材は淡灰紅色など、心材は淡紅褐色、灰紫紅色などを呈する。生長輪はほとんど認められない。木理は通直または交走し、肌目は中位ないしやや精である。
道管は単独および放射方向に2、まれに3個接続、ときに少数の小径道管を伴なうものがある。分布数は12~33/mm2である。単独道管の断面形は楕円形などで僅かに角ばり、径はふつう0.08~0.20mmで、ごく小径のものは0.03mmまである。せん孔板は水平
ないし傾斜し、単せん孔と階段せん孔の両者が現れる。階段は細く8~23個ある。また部分的に網状になるとの記載がある。接続道管の間の有縁壁孔は交互配列または対列配列をし、その径は0.006~0.010mmである。道管・放射組織間の壁孔は細長くなり
不規則な形で、柵状、階段状などに並ぶ。チロースは少ないかまたは現れない。
材の基礎組織を形成するのは真正木繊維または繊維状仮道管で、後者の有縁壁孔は微小な壁孔縁をもつ。少数の隔壁をもつものがある。繊維の長さは1.6mmほど、径は0.01~0.03mm、壁厚は0.002~0.003mmである。
輪方向柔組織の発達はきわめて少なく、ほとんど認められない。まれに不完全な周囲柔組織がある。
放射組織は1~3細胞幅、3~25細胞高で、水平細胞間道を含むものはその部分で6~10細胞幅となり、高さも大きくなる。構成は異性で、単列放射組織および多列放射組織の軸方向両端の1~3細胞層の大部分は直立細胞、方形細胞またはこれと同高の大型
平伏細胞の層、他は丈が低く放射方向の長さが長い小型の通常の平伏細胞の層からなっている。細胞内に着色した樹脂様物質を含み、結晶、シリカは見られない。
水平細胞間道は大きい紡鍾形の放射組織の中央にあり、分布数は少なく1mm2当り1個より少ないことが多い。
11.キャンプノスペルマの材の性質と利用
材の気乾比重に0.30~0.56の範囲の記載があるが、0.43ほどが平均的と思われる。材質数値では、生材から気乾までの収縮率は接続方向4.6~5.5%、放射方向1.6~1.9%、縦圧縮強さ347kg/cm2、曲げ強さ602kg/cm2を、曲げヤング係数9.9×10(4)kg/cm2
、せん断強さ82kg/cm2、ヤンカ硬さは放射断面180kgの例がある。
材の化学的組成では、ホロセルロース72.5%、aセルロース34.3%、ペントザン11.2%、リグニン23.9%、温水抽出物2.4%、アルコール・ベンゾール抽出物0.9%、aヘキサン抽出物0.15%、灰分1.12%が報告されている。
鋸断、鉋削などの切削加工は容易であるが、加工面がけば立つ傾向がある。乾燥は速いが木口割れが出ることがあり、高湿度で放置すると変色菌におかされる。釘、木ねじの保持は普通、接着ではユリア樹脂接着剤、レゾルシノール樹脂接着剤では良い
が、酢酸ビニル樹脂エマルジョン接着剤ではあまり良くない。塗装、研磨では問題が少ない。ロータリー単板切削は容易であるが、単板に捩れが出るものがあり、また作業中に皮膚の炎症を生ずるとの例がある。耐朽性はなく、抗虫性もないとされている
。ただし防腐薬剤処理は容易である。
材の一般的用途をあげると、建築を含む軽構造材、建築造作材、一般家具とくにランバーコアー、器具、箱、包装材料、繰型材、マッチ箱、合板とくにコアー、パーティクルボードなどがある。コンクリート型枠合板で表板に使うとセメント硬化不良を
ひき起こすので不適とされている。現地民はカヌーに用いる。パルプについての試験結果によると、クラフト法では、材の比重が小さいこと漂白にやや問題があるほかは、ほぼ良いとされている。
12.Campnosperma montana LAUTERBACH
Campnosperma montana LAUTERBACHはモルッカ諸島、ニューギニア、ビスマーク諸島に産し、モルッカ諸島で
hoton otang、西イリアンで
haauwe、パプア・ニューギニア地域で
campnospermaという。
高さ30m、直径60cmまでなる低木から高木である。葉は楕円状皮針形、倒卵状長楕円形で、花枝では幅が9cmまでであるが、栄養枝ではずっと大きくなる。基部は次第に狭くなり、ふつう耳状小片をもたないが、栄養枝ではまれに不明瞭に存在する。下面
には始め細軟毛があるが、後にほとんど無毛となる。小さくて分枝が少ない円錐花序に花をつける。果実に硬い隔壁があり、熟して紅色から黒色を呈する。材はパプア・ニューギニア地域で
campnospermaとして利用される。
13.オレイ
オレイCampnosperma panamensis
STANDLEYはニカラガ、コスタリカ、パナマ、コロンビア、ベネズエラ、エクアドルに分布し、マングローブ林背後の湿地などに生ずる。コスタリカで
orey、パナマで
orey、orin、hoary、コロンビア、エクアドルで
sajoという。
高さ20m、直径60cmに達する高木で、樹幹はやや短く、低く太い板根が出る。樹皮は厚く灰褐色で粗い。小枝には葉痕が著しい。葉は倒卵形で長さ15~18cm、幅8~12cm、鈍頭ないし円頭、基部は狭く葉柄に流れる。革質である。
小枝の頂端近くから円錐花序を出し、小さくてかすかに匂う黄色の花をつける。果実は球形~楕円形で径は13mmほど、外果皮は緑色で肉質、中に核1個を含む。
散孔材。辺・心材の区別はやや不明瞭で色の違いが少なく灰白色、淡灰紅色から紫色を帯びた紅褐色などを呈する。生長輪は不明瞭である。木理は交走し、肌目はやや精である。材に特別な匂いや味はない。
材の気乾比重は0.37~0.48を示す。乾燥はやや遅く、湿度の高い処で放置すると辺材部分に青変色が出る。製材、鉋削などの切削加工はほぼ容易であるが、鉋削・型削でときにむしれなどの加工面不良が出ることがある。接着、研磨、塗装、釘の保
持はほぼ良好である。材の耐朽性がなく、虫害にも抵抗性はない。
建築を含む軽構造材、建築の内部造作材、一般家具、器具、箱・包装材とくに食品のコンテナー、合板などの用途がある。パルプ製造試験では、サルファイト・グラウンド・クラフトパルプでは漂白に難点があるが、ソーダ法でほぼ良いとされている。
14.Campnosperma gummifera MARCHAND
Campnosperma gummifera MARCHANDはアマゾン低地の湿地にふつうに見られる。高さ約20mになる高木である。