タガヤサン
1.タガヤサンの名称と分布
タガヤサンCassia siamea
LAMARCKはマメ科
Leguminosaeジャケツイバラ亜科
Caesalpinioideaeカワラケツメイ属
Cassiaに属する常緑、分布の北方域ではときに落葉性の高木で、もしマメ科を分割してそれぞれ科に独立させる場合には
ジャケツイバラ科
Caesalpiniaceaeに入る。木材は
シタン、コクタン、カリンとともによく知られた唐木(とうぼく、からき)の一つで、ふつう
鉄刀木の漢字が当てられている。
タガヤサンという変わった呼称はフィリピンの現地名
tambilianの訛であるとの説があるが明らかでない。また
鉄刀木は本来
鉄力木と書くべきものとしている文献もある。
英名は
kassod tree、Simaese senna、アフリカでコーヒーの庇蔭樹とするため
coffee sennaの名があり、またフィリピンで
acaciaと俗称されることもある。材を
Bombay blackwoodということがあるが、
Bambay
blackwoodの呼称は通常
シタンの
ヒロハハネミノキDalbergia latifolia ROXBURGHに対して用いられるので、きわめてまぎらわしい。
インド、ビルマ、タイ、インドシナの原産とされるが、熱帯・亜熱帯、とくに乾季のあるモンスーン地域に広く植栽されている。各地の名称に次のものがある。中国:
鉄刀木、黒心樹;インド:
beati、kassod;ビルマ:
mezali;タイ
:kilek;カンボジア:
angkank;ベトナム
:muong、muong ten、muong nui、bois pendrix(フランス語);ラオス:
khi lech pa;マレー
:johar;インドネシア:
djoharなどである。
2.タガヤサンの形態
高さ10~15m、ときに20mまで、直径50~60cmになる中高木で、樹皮は灰色でほぼ平滑であるが、僅かに縦溝が入る。葉は互生する偶数羽状複葉で長さ10~30cm、葉柄上部に腺体をつける。小葉は6~15対あって長楕円形、長さ5~7.5cm、微凸頭、基部は
円形、やや革質である。7~10月に開花、小枝の上部に腋生する散房状の花序が、全体として総状に複生して頂生の大きな円錐花序のような様相を示す。全体の長さは30~60cmで花序軸に黄色の柔毛を密生する。1つの花序で全部の花が一度に全開はしない
。花は蝶形を示さず平開して径2.5~3.5cm、黄色、芳香がある。がく片5個、花弁は5個で長さがやや不同である。完全雄ずいは7個あってそのうち2個は著しく長い。雌ずいは1個で花柱は湾曲する。莢果(豆果)は線形で偏平、長さ12~25cm、幅1.2~2cm、
褐色のビロード毛を密生し、熟して淡灰色を呈する。中に種子10~20個が含まれていて、径は約1cmの偏球形、濃紅褐色である。
3.タガヤサンの材の組織
散孔材で、辺・心材の別は明瞭、辺材は淡黄白色で幅が広い。心材は全体が黒褐色であるが、後記の厚い帯状柔組織が占める淡褐色部分が、かすり、雲紋、矢筈などの模様になって材面に現われる。木理は交走し肌目はやや粗である。
材の顕微鏡的な構成要素は道管、真正木繊維(または繊維状仮道管)、軸方向柔組織と放射組織とである。横断面でみると、道管はほとんど単独、まれに放射方向などに2~3個が接続し、分布数2.5/mm2程度で少ない。径は0.15~0.4mm、単せん孔、接続
道管の間の相互壁孔はベスチャード壁孔で交互配列をする。道管内に白色の物質を含むことがある。繊維は長さ1.2(0.5~1.5)mm、径0.01~0.02mm、壁厚0.003~0.005mmである。緒方健博士によれば、放射面に比較的少数の有縁壁孔があるが小さくて目立
たないという。
軸方向柔組織では厚い帯状柔組織が顕著で、道管に接しまたは道管を内包する。兼次忠蔵氏は帯状管周柔組織という名称を与えている。この条組織は放射方向に8~15細胞層で、やや不規則な波状の輪郭をなし、15~30細胞層の帯状の繊維部分と交互に
存在して縞状をなしている。帯状柔組織の周縁部には、軸方向に隔室数10~20で結晶を内包してくさり状に見える隔壁結晶条細胞が多く存在する。横断面の個々の柔細胞の径は0.015~0.05mm、壁厚は0.001~0.002mmである。
放射組織は1~4細胞幅で、2~3細胞幅のものが多く単列のものは少ない。4~35細胞高。構成は同性ですべて平伏細胞でなりたっている。着色した内容物質は少なく、シリカは見られない。
4.タガヤサンの材の性質と利用
材の気乾比重については0.68から1.12までの範囲の報告があるが、平均的な値は0.80~0.85程度と思われる。材質試験の報告がいくつかあるが、1例として気乾比重0.82のものについての数値をあげる。全収縮率は接線方向5.8%、放射方向4.6%、体積10.1
%、縦圧縮強さ563kg/cm2、横圧縮強さ152kg/cm2、横引張強さ58kg/cm2、曲げ強さ1,155kg/cm2、曲げヤング係数12.9×10(4)・kg/cm2、せん断強さ177kg/cm2、割裂抵抗96kg/cmである。
材の化学的組織の1例をあげる。セルロース42.6%、aセルロース30.4%、ペントザン19.4%、リグニン25.5%、冷水抽出物3.1%、温水抽出物:3.7%、アルコール・ベンゾール抽出物:4.8%、1%NaOH抽出物:15.6%、灰分1.6%。他の報告では抽出物類がずっと大き
い値を示している。
材が重硬なため切削加工は困難である。また加工の際に材粉などによる皮膚・眼・鼻の炎症などを起こすことがよく知られている。割裂困難。乾燥は容易でない。表面仕上げは良好で磨けば光沢が出る。釘の保持力は大きい。心材の保存性は高い。
材は重硬・強靭で特有の色調紋様をもっているので、古くから唐木の1つとして指物その他装飾的な用途を主にして用いられている。列挙すると、建築造作では床柱・床框・落掛けその他、戸棚・机・角火鉢・仏壇・収納箪笥などの各種家具、車両・船
舶の内部造作材、そろばん枠と玉・洋傘柄・ステッキ・ブラッシ木地・箸と箸箱・小箱・碁笥(ごす)・木槌・額縁などのいろいろな器具、三味線の棹・月琴の胴・マンドリンの胴・筑前琵琶の副柱・琴の柏葉など諸楽器の部材その他があり、また彫刻、
寄木・象嵌(ぞうがん)などの細工物も作られる。生産地では材は家屋、橋梁、枕木その他および薪炭材として多く用いられる。タンニンを含む樹皮、葉、ときに材、果実も染料に使われる。花はタイ、インドで食用にしている。樹は比較的生長が速いの
で行道樹に多く用いられ、また薪炭材目的で各地で広く植栽されている。
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