コウエンボク属の樹木(その2)
4.コウエンボクの材の組織、性質と材その他の利用
材は散孔材。辺・心材の区別はほぼ明瞭またはやや不明瞭で、淡紅褐色、紅褐色を呈する。生長輪はやや不明瞭である。
木理は通直またはやや不規則、肌目は中位~やや粗である。
道管は単独およびおもに放射方向に2~3個が接続するが、ときに数個がやや塊状に集合接続する。分布数は比較的小さく、道管の大きさは中位からやや大である。単せん孔をもつ。中に樹脂様物質を含むものがある。材の基礎組織は真正木繊維が構成す
る。
軸方向柔組織では、周囲柔組織が明らかであるが、翼状ないし連合翼状柔組織となるものは少ない。放射方向に2~3細胞層のターミナル柔組織が見られる。
放射組織は1~3細胞幅、2~20細胞高で、その構成は平伏細胞からなる同性である。
材の気乾比重は0.50~0.77の範囲の記載があり、通常0.65~0.70程度が平均的と考えられ、やや重硬という程度である。
比較的強く、加工はあまり困難でない。心材は比較的耐朽性があり、白蟻、キクイムシに対する抵抗性もややあるといわれる。
建築造作材、家具、器具、施削物、彫刻などに使われるが、市場材として重要でない。
樹皮はインドネシア・バチックの布を黄褐色、褐色に染めるソガ染料として、
コヒルギ Ceriops tagal C.B.Robinson(
ヒルギ科)、
カカツガユ Maclua cochinchinensis CORNER var.geroutogea OHASHI(
クワ科)と並んで主要な原料となっている。
また皮のなめしにも用いられる。
樹皮の滲出液は筋肉痛、捻挫、できものに外用し、赤痢などの内服薬にも用いる。樹が優美で花が美しいので、庇陰樹、行道樹、庭園樹
として各地で広く植栽されている。
5.Peltophorum dasyrachis KURZ ex BAKER
Peltophorum dasyrachis KURZ ex BAKER はインドシナ、タイ、マレー、スマトラ産で、インド洋西部のスコトラ島からも報告されている。
英名は
yellow batai,タイで
nontri,ベトナムで
hoang linh,lim xet,カンボジアで
treasek,マレーで
batai,jemerelang という。
高木。枝の分岐は頂芽が伸びる単軸分岐で、類似種
コウエンボク Peltophorum pterocarpum BACKER ex K.HEYNE のような整った傘形を呈せず、不規則な形となる。托葉は分岐が多くツノマタ状になり、しばしば残存性である。葉は互生する2回偶数羽状複葉で、羽片は4~9対、
小葉は中央羽片で11~16対、長さ1.3~3.5cm、幅0.5~0.8cmで両面に微細な毛をもつ。
花は腋生の長さ20~35cmの総状花序につく。豆果はコエンボクより小さく、扁平で先端が鋭く突出し、しばしば葉の下に房をなしてぶら下がる。
材は散孔材で、灰白色から淡肉紅色を呈する。材の気乾比重に0.48~0.82の範囲の記載がある。気乾比重0.56~0.67のもので、縦圧縮強さ480~600kg/c㎡、
曲げ強さ632~1,104kg/c㎡を示す。かなり耐朽性があるという。
一般建築材、家具、器具その他に用いられ、鋪木に使うとの記事もある。樹皮はコーヒー、ココアの庇陰樹に植栽される。
6.Peltophorum tonkinense GAGNEPAIN
Peltophorum tonkinense GAGNEPAIN (異名
Peltophorum dasyrachis KURZ ex BAKER var.tonkinensis K.et S.S.LARSEN)は海南島、インドシナ産で、中国名は
銀珠、油楠、双翼豆、田螺掩、ベトナムで
hoang linh,lim xetという。
高さ12~20m、ときに30m、直径80cmまでになる高木で、樹皮は灰黄褐色、ほぼ平滑である。若枝や花序などに銹色の細軟毛を布く。
葉は互生する2回偶数羽状複葉で長さ15~35cm、羽片2~13対で長さ4~9cm、小葉は5~15対、長楕円形で長さ1.5~2.5cm、幅0.6~1cm、
円頭で頂端は微凹または微凸し、基部は楔形で左右不同である。
枝端近くに長さ10~20cmの総状花序を出す。花は黄色で大きく芳香がある。花弁は倒卵状円形で長さ1.5cmほど、緑は波状を呈する。
豆果は紡錘形で長さ8~13cm、中央の幅2.5~3cm、両端にテーパーし、両側に幅5~7㎜の翼をもつ。薄い革質、成熟して紅褐色、無毛である。中に種子3~4個を含む。
7.アフリカン・ワットル
アフリカン・ワットル Peltophorum africanum SONDER はアフリカ中部から南部にかけて分布する。英名は
African wattle,weeping wattle,Rhodesian black wattle,西アフリカで
huilboom という。
高さ5~10mの小~中高木で、しばしば根元近くから分岐する。樹皮は褐色で、縦の割れ目が出て粗い。葉は互生する2回偶数羽状複葉で、羽片は5~7対、小葉は10~12対、ときに23対まであり、長楕円形で長さ0.7cm、幅0.4cmほど、円頭で頂端は
微小な毛状となり、基部は左右不同である。
葉軸と葉柄に銹褐色の細軟毛を密布し、托葉は顕著だが早落性である。
花は腋生の長さ約15cmの総状花序に密につき、鮮黄色を呈して大きく装飾的である。花序軸、花梗、がくに褐色の細軟毛がある。花弁の径は約2cmあり縁が縮れる。豆果は楕円形で
長さ10cm、幅2cmまでとなり、扁平で両端に狭くテーパーし、翼状の縁がある。
ほぼ革質で、熟して暗褐色を呈し、密に群生して下垂する。
材は散孔材。心材部分は少ないがほぼ黒色を呈する。材はおおよそ軽軟である。器具、家具、車両、彫刻などに用いられ、薪材として良質であるという。
樹皮の浸出液を腹痛に内服し、また眼痛に外用する。樹は庭園樹、庇陰樹に植栽される。
8.Peltophorum adnatum GRISEBACH
Peltophorum adnatum GRISEBACH は西インド諸島産である。英名の取引名は
horse-flesh mahogany で、キューバで
sabicu colorado,sabicu moruro,moruro abey という。また単に
sabicu の名で輸出されたことがある。
高さがしばしば30mまたはより以上になる高木で、樹皮はほぼ平滑であるが、細かい粒状物がある。
心材は紅褐色でときに紫色を帯び、僅かに縞が出る。材の気乾比重に1.02の記載があり、きわめて重硬である。強いが脆いという。加工は困難で、耐
朽性は高い。
重構造材、建築、家具、器具、車両、柵柱、枕木などに用いられる。
9.Peltophorum vogelianum WALPERS
Peltophorum vogelianum WALPERS (異名
Peltophorum dubium TAUBERT)はアルゼンチン北部、パラグァイ、ウルグァイ産で、アルゼンチンで
cavafistula,ibira-puita,
パラグァイで
ibirapyta,ウルグァイで
arbol de artigas という。
良い処では高さ40m、径2mに達するが、それ程でない処では高さ25m、直径1m以下の高木で、形は良くなく板根がでる。樹皮は暗褐色で粗い、葉は互生する2回偶数羽状複葉で長さ30~50cm、
羽片は7~21対あって長さ18~25cm、各羽片に小葉が13~30対つき、長楕円形、長さ0.5~0.8cmである。豆果は長い紡錘形で両端が細く尖がり、長さ5~9cmである。
散孔材。材は淡紅褐色、紅褐色を呈し、しばしば暗紫色を帯びた縞がある。木理は交走し、ときに魚卵模様になるもく(杢)が出る。肌目はやや粗である。
ときに不顕著なリップルマークが認められることがある。材の水浸出液は紫外線をあてると黄色の蛍光を発する。
道管は単独および放射方向に2~3個が接続し、道管の接線方向の径は0.17㎜ほどで、分布数は少ない。単せん孔をもち、中に紅色の内容物を含む。
基礎組織の繊維は隔離をもつ。軸方向柔組織では、周囲柔組織が発達し、翼部が短い翼状柔組織にもなるが、いすれも層が薄い。ときに短い連合翼柔組織が認められることがある。
ターミナル柔組織も存在する。これらのうちには多室結晶細胞が認められる。放射組織は1~3細胞幅で単列のものは少ない。構成は平伏細胞からなる同性で、細胞内に紅色の内容物を含む。
材の気乾比重に0.74~1.04も範囲の記載があり重硬である。乾燥はやや困難で狂いと干割れが出やすい。切削などの加工は比較的容易で、仕上げ面は良好である。材は耐朽性がある。
アルゼンチンでは普通にある市場材で、一般構造材、建築造作材、家具、器具、車両、枕木、施削物その他に用いられる。樹皮と鋸屑は染料とされる。
10.Peltophorum linnaei BENTHAM
Peltophorum linnaei BENTHAMは熱帯アメリカ産の高木である。材は橙色を呈し、車両の幅、工芸品その他に用いられる。
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