コバノブラッシノキ属の樹木
1.コバノブッラシノキ属の分布と名称
コバノブラッシノキ属(
カユプテ属、
メラレウカ属)
Melaleuca はフトモモ科
Myrtaceae,ネズモドキ亜科
Leptospermoideae に属ずる。150種あるいは220種までが含まれる大きな属で、そのほとんど大部分がオーストラリアに生ずる。僅かに数種がオーストラリア以外でニューカレドニア、ニューギニア、モルッカ諸島などに本来自生していると見られる。またマレーシア・イン
ドネシア地域、インドシナ、タイ、ビルマなどのきわめて広い範囲に植栽と野生したものが見られるのは広義の Melaleuca leucadendron LINNAEUS あるいは Melaleuca cajuputi POWELL
である。
この属のものは生育地の範囲は広く、季節的に乾く湿性地とくに海岸近くや塩性、半塩性の湿地で優先種となるものがあり、また内陸の季節的に冠水する処の森林、開放林に生じ、ヒース地の散生低木となるものもある。
英名を
paper
bark,bottle brush,honey myrtle(低木性のものに対して)、
melaleuca といい、また同じ
フトモモ科の
ネズモドキ属
Leptospermum が本来のものである
tea tree,teabush の名がこの属のものにも用いられる。この名はキャプテン・クックが
ネズモドキ類の葉を茶の代用に用いたことに由来している。独名では
Myrtenheide,Kajuputbaum,仏名では
melaleuca という。中国では白千層属をこの属にあてている。
2.コバノブラッシノキ属の形態
常緑の高木ないし低木で、樹幹が通直なものもあるが、多くは形質が不良で、曲がり、捩れ、多幹のものなどがあり、またブッシュ状を呈するものもある。樹皮は中~大高木の多くでは白色ないし薄褐色のコルク質の紙様の層からなり、これらはきわめ
て薄い繊維質の層でわけられている。かなり厚くなって外層から順次裂けて剥脱し、樹幹下部でことに剥離が著しい。まれに暗灰色で緻密、筋目が入った樹皮をもつ種類がある。低木の種類の樹皮は種々の様相を示す。
葉は多くは互生、小数の種類は対
生、まれに3個輪生で、単葉、全縁、通常革質である。皮針形、線形、棒状円筒形などで、比較的幅が広い葉では基部から出る3~9本のかなり顕著な縦走脉があり、他の細かい脉理はしばしば不明瞭である。ふつう下面に腺点をもつ。葉柄はないかまたは
きわめて短い。
花は頂生または腋生の穂状花序、ときにそれの極端に短縮した形の頭状花序に単出ないし3個ずつの群着をして無梗でつく様相を呈するが、これは厳密な意味の花序ではなく、頂生または腋生のシュートの下方の無葉部分に1~3個の花が
集散花序の形で側生したものとされている。従ってシュートいわゆる花序軸の先端は花後、まれに開花中にも伸長生長を続け、次の開花期に上方の新しい部分に着花することとなる。苞は脱落する。花は両性花、5数性、放射相称である。がく筒は球形に
近いものから鐘形で、5個の短いがく裂片をつけ、脱落性または宿存性である。花弁は5個で早く脱落する。雄ずいは多数あり、花糸の基部が合着した5個の雄ずい束になり、花弁と対生する。この点でよく似ているブラッシノキ属 Callistemon
と区別される。葯は丁字着で、葯室2個は平行、縦裂して開口する。雄ずいは1個で、子房は下位またはがく筒と全部または一部合着し、先端は突出、3室よりなる。中軸胎座で胚珠を多数含む。花柱は糸状で、柱頭は多少拡大する。
果実は木質のさく(
蒴)果で、小さく半球形ないし球形、頂端で開裂する。種子は多数で三角形に近く、種皮は薄い。胚乳はなく、胚は直生する。果実はかなり長い間残存するものが多く、シュートいわゆる果序軸が肥大生長をして果実の基部を包み、埋めこまれた形になる
ものがある。
3.コバノブッラシノキ属の材の組織
散孔材。辺・心材の区別はほぼ存在するが、その境界は一般に不明瞭である。辺材は淡灰紅色、薄紅褐色、薄褐色などで、幅1.5~3.5cm、心材は淡紅褐色、淡褐色、灰紅色、褐色、紅褐色などを呈する。生長輪は一般に不明瞭であるが、横断面で道管孔
の大きさと分布の変化、材色の濃淡の推移で僅かに認められる場合がある。木理は通直ないし交走し、肌目はやや精から精で均質である。特別な匂いと味はない。材面でリップルマークは認められない。樹幹に曲がり、捩れを示すものがしばしばあり、脆
心材が現れるものがある。
材の組織の記載はほとんど
カユプテ Melaleuca lecadendoron LINNAEUS によるものであるが、少数の他種によるものを加えて以下にあげる。道管はほぼ単独のみで、分布数は2~20/m㎡の広い範囲にわたる。単独道管の断面は円形、広楕円形、卵形などで、道管の径は0.03~0.25㎜にわたるが、ふつう0.10~0.20㎜のものが多い
。せん孔板は一般に少し傾斜し、単せん孔をもつ。後記の周囲仮道管と道管との間の有縁壁孔はべスチャード壁孔で交互配列をし、その径は0.005~0.007㎜である。道管と放射組織との間の壁孔対は小ないしやや大きい円形から縦長の小さい長楕円形
などで、ほぼ単壁孔対である。チロースは少ないがまたは見られない。ときに内容に樹脂様物質を含むものがある。
道管の周辺に周囲仮道管(道管状仮道管と思われる)が0~1細胞層で存在し、1測定例では長さ0.4~1.0㎜、径0.01~0.05㎜である。
材
の基礎組織を形成するのは有縁壁孔をもつ繊維状仮道管で、長さは0.8~1.4㎜、径は0.01~0.025㎜、壁厚は0.004~0.007㎜である。軸方向柔組織は一般に量が少なく、周囲柔組織は0~1ときに2細胞層、また接線方向に4個細胞まで連なる翼状柔組織に
なるものがある。そのほか基礎組織中に散在する単一柔細胞または2~3個が接続する柔細胞群と、放射方向に1細胞層、接線方向に4個細胞まで接続する不規則な短接線柔組織があり、これらはすべて移行的である。柔細胞の径は0.01~0.04㎜、壁厚は0.001
~0.002㎜で、一般に内容物は少なく、ときに濃色の樹脂様物質を含む。結晶は見られない。
放射組織は1~2ときに3細胞幅、1~36細胞高または以上である。構成は異性で、単列のものおよび多列のものの軸方向上下両端の1~3層の単列部の大部分と、多
列部にも少し混在する大型細胞は直立細胞または方形細胞の層、他は平伏細胞の層である。細胞内に濃色の樹脂様物質の含有が多い。シリカは存在するが、結晶は見られない。
4.コバノブラッシノキ属の材の性質と材のその他の利用
材の気乾比重に0.56~1.18の広い範囲の記載があるが、一般に0.70~0.85のものが多い。収縮率と強度性質については、代表的な種類カユプテ
Melaleuca leucadendron LINNAEUS についての例をその項にあげる。
この属のものは材中にシリカを含んでいるので(例、0.2~0.95%)、製材はやや困難で鋸歯の鈍化がかなり見られる。乾燥は困難で割れや狂いが出やすい。切削加工もシリカを含むためにやや困難で、鉋削で、鉋刃の鈍
化が速いが、仕上げ面は良好である。接着性は良い。心材は接地条件、水中でも耐朽性があり、比重の割には耐朽性が高いとされる。白蟻にも抵抗性がある。辺材はキクイムシの食害を受けないが、丸太で放置されたものは青変色を生ずるとの報告がる。
高木性で形質が良い樹幹をもつものの材は一般構造物、柱・梁・土台などの建築構造材、フローリングを含む建築構造材、家具、橋梁・埠頭用材・柵柱・枕木などの土木材、彫刻・施削よる工芸品その他に、また低木性のものを含めて工具の柄などの器
具材、包装材、鉱山用材、杭(淡水中、海中のものを含む)その他と燃材に用いられる。亜硫酸塩法などによるパルプ化には不適との報告があるが、蓄積が多い地域での亜硫酸塩法などによるパルプの開発が進められている。
樹皮の薄い外皮はボートの
コーキング材、枕その他のクッション材、マットレス・食品、果実の包装材などに、コルクは漁網の浮子などに用いられるほか、樹皮一般は屋根茸材、バスケット縁材、樹皮帖布工芸材などに使われる。
この属のものには葉に有用な精油を含んでいるも
のがあり、しばしば工業的生産が行われている。これらは薬用、防腐剤、香料、工業用油その他に用いられ、カユプテ油がよく知られている。それらについては各樹種の項で記す。