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平井信二樹木研究
キワタ属の樹木(その1)
1.キワタ属の概要
 キワタ属(ワタノキ属)Bombax(異名Rhodognaphalon)はパンヤ科(キワタ科)Bombacaceacに属し、Salmalia、Gossampinusはその異名である。十数種がアメリカ、アジア、アフリカ、オセアニアのおもに熱帯に分布している。各地の名称にはカポック Ceiba pentandrum GAERTNERと同一に呼ぶものも多い。英名はbombax、silk-cotton tree、独名はWollbaum、仏名はfromager、中国名は木綿が用いられ、その他各地に次の名称がある。インド、バングラデシュ:simul、マレー:kekabu utan、キューバ:drago、メキシコ:ceiba、pochote、amapola、ベリーズ:mapola、コロンビア:barrigon、ベネズェラ:majagua、ブラジル:embirassu、paineira、ペルー:bellaco- capsi、huimba
 落葉高木で、若令木の樹幹には通常円錐状の刺がある。葉は互生する掌状複葉で、小葉は5~9個あり、小葉柄をもつ。総葉柄は長い。
 花は葉より早く枝端近くの葉腋に単生または束生し、両性花で大きく放射相称である。がくは杯形で上端は切形をなすか、不規則に2~5裂し、革質である。花後にがく、花冠、雄ずいがいっしょに脱落する。花弁は5個で倒卵形または倒皮針形、通常紅 色、橙紅色ときに黄白色を呈し有毛である。雄ずいはきわめて数多く、下部は合着してごく短い筒部をなし、その上で個々にわかれた長い花糸がいくらか輪状の配列をする。最外輪のものは5束に集成し、各束は花弁に対生する。葯は腎形、1室で、楯状に 花糸につく。花粉はコウモリが媒介する。雌ずいは1個で、子房は5室からなり、各室に多数の胚株を含む。花柱は細い棒状で雄ずいより長く、柱頭は5裂する。
 果実は革質のさく(蒴)果で、大きく楕円形など、熟して5片に胞背裂開する。果皮の内面に 綿毛が密につき、多数の種子はその綿毛に包まれる。種子は小さく黒色で胚乳は少ない。
 材の組織、性質、材その他の利用は代表的な種類キワタBombax malabaricum DE CANDOLLEの記載で示す。  
2.キワタの分布と名称
 キワタ(ワタノキ、アカキワタBombax malabaricum DE CANDOLLE(異名Bombax ceiba LINNAEUS、Bombax heptaphyllum CAVANIELLES、Salmalia malabarica SCHOTT et ENDLICHER、Gossampinus malabarica MERRILL、Gossampinus heptaphylla BAKHUIZEN)はインド、パキスタン、スリランカ、ネパール、バングラデシュ、ビルマ、タイ、支那南部、台湾、マレーシア、インドネシア、フィリピン、パプア・ニューギニア、オーストラリア北部にわたって広く分布し、自生及び植栽されている。
 和 名にパンヤ、パンヤノキ、インドワタノキ、インドキワタ、ときにカポックをあてている文献もあるが、カポックCeiba pentandrum GAERTNERとの混乱があるので用いない方がよい。
 英名はbombax、Malabar bombax、Indian bombax、cotton tree、red cotton tree、silk-cotton tree、red silk-cotton tree、Malabar silk-cotton tree、Indian silk-cotton tree、cotton wood、bombax(パプア・ニューギニア)、独名はmalabarischer Wollbaum、仏名はfromager、fromager de Malabar、faux kapokierがあるが、これらの中にもカポックと同一の名称がある。中国名は木綿、紅棉、英雄樹、攀枝花、攀枝、斑芝樹、斑芝棉、斑枝樹、斑枝、■木である。
 そのほか世界各地に次の名称がある。インド:simul、semul、salmali、sayal、sauri、burl a、illavu、pula、パキスタン:semul、スリランカ:katu imbul、iravu、parutti、ネパール:simul、バングラデシュ:simul tula、ビルマ:letpan、タイ:ngur、インドシナ:gao、ベトナム:gon rung do、hoang dan、マレー:simar、kapok、palamaram、インドネシア:kapok utan、randu agung、randu alas、randu、wana、フィリピン:malubulak、taglinan、babui‐gubat。  
 3.キワタの形態
 高さ25m、直径75cmに達する落葉高木で、大きいものは高さ40m、直径1.3mになるものがある。樹幹は円柱状で通直、枝下15mほどになり、板根はかなり著しいものがあり、またほとんど出ないものもある。枝は若令木では大枝を輪生して水平に近く張 り出す。樹皮は灰白色、灰褐色を呈し、若令木では幹の下方に通常円錐状の刺を生ずる。
 葉は5~7個の小葉からなる掌状複葉で、小葉は広楕円形~狭楕円形など、長さ10~16cm、幅3.5~6cm、鋭尖頭、基部は楔形~広楔形、金縁である。小葉は羽状 に15~17対の側脉を出し、両面無毛、小葉柄の長さは1.5~4cm、総葉柄の長さは3~20cmである。
 花は枝端近くの葉腋に単生し、通常紅色~橙紅色、ときに白色のものがある。径は約10cmで大きい。がくは杯形で長さ2~3cm、外面は無毛、内面には淡 黄色の短い絹毛を密布する。短いがく裂片が2~5個ある。花弁は倒卵状楕円形などで長さ8~10cm、肉質で、両面に星状の軟毛を布くが内面ではやや疎生する。雄ずいは70個以上の多数で、下端の全体が合着した筒部は短い。内輪の雄ずいの花糸は2個 ずつが上端近くまで合着して5本のような外観をとり、中間のものは離生し内輪のものより短く、外輪のものは5束になってそれぞれ10個以上が集束し中間のものより長い。雌ずいは1個で、花柱は雄ずいより長く、柱頭は5裂する。
 さく果は楕円形で長さ 10~15cm、鈍頭、革質で灰白色の長軟毛と星状軟毛を密布する。熟して5片に裂開する。果片の内面に綿毛を密生し、多数の種子をその中に包んでいる。種子は倒卵形で長さ4~5mm、外面は平滑である。  
4.キワタの材の組織
 散孔材。辺・心材の区別は不明瞭で、黄白色から淡灰褐色、淡黄褐色を呈する。生長輪はふつう不明瞭であるが認められることもある。木理は通直ないし浅く交走し、肌目は粗であるが均質で光沢はない。縦断面で通常リップルマークが認められる。
 道管は単独及び放射方向に2~3個、ときに4個が接続するが、単独のものが多い。分布数は1~8/mm2である。単独道管の断面形は円形~楕円形で径は0.06~0.40mmを示す。せん孔板は水平または僅かに傾斜し、単せん孔をもつ。接続道管の間の有縁壁孔は 交互配列をし、その径は0.008~0.016mmである。チロースを含む。
 材の基礎組織は放射方向に1または2細胞層で交互に積層する繊維状仮道管と短接線柔組織とであって、容積的には柔組織の方が多い。繊維の径は0.01~0.025mm、壁厚は0.002~0.004mmで ある。隔壁の存在が認められている。また繊維は軸方向で端末を揃えて層階状に配列する傾向がある。
 軸方向柔組織では、周圍柔組織は薄く0~2細胞層である。前記の繊維とともに材の基礎組織を形成する短接線柔組織はきわめて顕著である。ターミナ ル柔組織の存在は明らかでない。縦断面で見ると、柔細胞ストランドはおおよそ4細胞からなり、端末もほぼ揃えて層階状配列をするのでリップルマークが見られるもととなる。柔細胞の径は0.015~0.04mm、壁厚は0.001~0.002mmである。細胞内に菱形の 結晶を含むものがある。
 放射組織は通常1~4、ときに8細胞幅まで、通常4~20細胞高であるが、また50細胞高を越すものがある。その構成は異性で、おもに方形細胞の層と丈の低い平伏細胞の層とが比較的不規則に入り混じる。また移行型の丈が高い平 伏細胞がみられるものもある。方形細胞などは軸方向の端末、周辺に見られることが多く、ときに鞘細胞の形となる。細胞内には処々に濃色の樹脂様物質が含まれ、また菱形の結晶または小粒の結晶群も見られる。  
5.キワタの材の性質と材その他の利用
 材の気乾比重に0.25~0.51の範囲の記載があるが、0.35~0.40程度のものが多い。収縮は少ない。材質数値の例をあげると、気乾比重0.37のもので、縦圧縮強さ245kg/cm2、縦圧縮ヤング係数7.0×10(4)kg/cm2、横圧縮比例限度29kg/cm2、横引張強さ は放射方向25kg/cm2、接線方向34kg/cm2、曲げ強さ429kg/cm2、曲げヤング係数6.0×10(4)kg/cm2、せん断強さは放射方向40kg/cm2、接線方向55kg/cm2、ヤンカ硬さは横断面245kg、縦断面170,220kgを示す。
 製材と切削加工は容易であるが、鉋削で平 滑な材面は得にくい。丸太のままで置くと迅速に変色が入るので、伐採後速やかに製材、乾燥する必要がある。乾燥は速く結果も良好である。材に耐朽性がないが、水浸状態では比較的よくもつ。キクイムシの食害を受ける。
 材の用途は建築造作材、型 枠、簡単な家具、箱及び包装材料、マッチ箱ときに軸木、器具、棺、玩具、カヌー、浮子、オールのブレードなどがあり、ロータリー単板による合板にも作られる。またパルプ、鍛冶用木炭にも用いられる。
 果実の綿毛はカポックのものと同様に用いら れる。すなわちクッションや布団、枕などの詰め物や水中救命具の充填材料などである。ただしその質はカポックより劣る。わが国でパンヤという場合に本物のカポックよりこの方が多いという。
 種子を圧搾していわゆるカポック油が得られ、綿実油の 代用となり食用、工業用、石けん製造などに用いられる。樹皮から得られるゴム状物質はクリーム薬剤の賦形剤となるトラガカントゴムの代用とされることがあり、また民間薬として発汗、下痢止めその他に用いられる。なお薬用には根を利尿に、乾花を 腫物・傷に外用する。花は食用にし、葉は花とともに家畜飼料、葉をインド蚕の飼料とする。樹は庭園樹、行道樹などに多く植栽される。A:花をつけた枝;B:葉;C:内輪の雄ずい;D:外輪の雄ずい;E:雌ずい;F:子房の横断面;G:果実;H:種子(劉棠瑞:台湾木本 植物図誌、上)71 キワタ 壮令木の樹姿(パキスタン、チャンガマンガ)
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