ユリノキ属の樹木(その1)
1.ユリノキ属
ユリノキ属
Liriodendron(異名
Tulipifera)は
モクレン科
Magnoliaceaeに属する。現在は北米東部と支那とに各1種があるのみであるが、中生代の上部白亜紀から新生代の第三紀にかけて、わが国も含めて北半球に広く分布し、各地から化石が発見され
ており、過去に繁栄した旧い型の被子植物である。属の英名はtulip tree、中国名は鵝掌楸が用いられる。
落葉高木で、小枝の髄には隔壁がある。芽は密着した2個の托葉で包まれ、新梢の葉の基部にも2個の小さい托葉をつける。後に脱落するが、枝を取り巻く托葉痕を残す。葉は互生する単葉で大きく、きわめて特異な形を呈する。すなわち先端は広い切形
または浅く凹入し、両側に各1~2個の裂片があり、細かい鋸歯はない。基部は円形、切形、浅い心形を呈し、長い葉柄をもつ。
花は頂生して単出し、鐘形の両性花である。がく片は3個で開出し、花弁は6個で直立する。雄ずい多数で、花糸は細く、葯は線形で外向し縦裂する。雌ずい(心皮)は多数が柱状の花床に互重ね状になって密につき、後に球果称の集合果に発達する。各
子房には胚珠2個を含む。果実は頂端が伸びてできた翼をもつ小さい堅果の集合したもので、各堅果は熟すると花床から脱落し、裂開しない。この集合果の最下部につくものは育たない。各堅果は種子1~2個をもち、種子には胚乳と微小な胚とがある。
材の組織、性質と材その他の利用については各樹種の項で記す。
なお
ユリノキ属と
ユリノキについて、毛藤勤治氏の著書『
ユリノキという木』(1989)がある。
ユリノキおよび
シナユリノキの形態、森林、化石、日本への渡来、植栽その他について広く記載されている。
2.ユリノキの概要
ユリノキLiriodendron tulipifera LINNAEUS(異名
Liriodendron procera SALISBURY、Tulipifera liriodendron
MILLER)はアメリカ東部、カナダ五大湖付近に生ずる。
ユリノキと別名の
チューリップノキ、ウッコンコウジュ(
鬱金香樹、鬱金香は
チューリップの漢字名、
レンゲボクは花の形からきており、よく使われる別名の
ハンテンボク(半纏木)および
グンバイ
ボク(軍配木)、
ヤッコダコノキは葉の形からきている。英名で一般に
tulip tree、木材では
yellow popularということが多く、また
tulip poplar、America whitewood、whitewood、white poplar(以上3名はとくに辺材をいうことが多い)、
hickory
poplar、blue poplar、poplar、tulip wood、canary wood、canoe wood、独名で
Tulpenbaum、Kanarienholz、仏名で
tulipier、bois jaune、中国名で
北美鵝掌楸、美国鵝掌楸などという。
ふつう高さ45m、直径1mまでになる落葉大高木であるが、最大のものは高さ60m、直径3.5mが知られている。樹幹は一般に円柱状、通直で、枝下は長いもので30mに達する。樹皮は灰褐色から暗灰褐色で、初めはやや平滑であるが、年とともに厚くなってや
や深い縦の割れ目が出るようになる。小枝は褐色または紫褐色を呈する。
葉は和名の別名にいうような特異な形を呈し、長さ6.5~23.5cm、幅8.5~25.5cm、頂端は幅の広い切形から浅い凹形となり、両側の半分以下で2個または1個の浅い切れこみの裂片となり、その先端は鋭頭ないし短い鋭尖頭である。基部は広い円形から切
形、浅い心形を示す。洋紙質で、上面は無毛、下面は灰白色を帯び主脈に沿って僅かに有毛または無毛である。葉柄は長さ5~11.5cmで長い。
花は鐘形で大きく、がく片は3個、卵状皮針形で開出し緑白色、脱落性である。花弁は6個、長楕円状倒卵形で長さ40~60mm、直立し淡緑色で、内面の基部近くに蜜標の幅が広い橙色の条斑がある。雄ずいは20~50個あって、花弁より僅かに短く、花糸は
白色で長さ10~15mm、葯の長さ15~25mである。雌ずいは60~100個が柱状になった花床にらせん状に密につき、この集合体は花期には花冠の上に超出しない。
果実は小さい翼果(堅果)の集合果で、長さ4.5~8.5cmである。各堅果の長さは3~3.5cm、幅0.5~1cm、種子1~2個を含み、その先端は急尖する。熟するとばらばらになって脱落するが、集合果の基部にあるものは冬まで宿存する。花期は5~6月、果期
は10月頃である。
ユリノキは姿の良い大木となり、秋には美しく黄葉するので、庭園樹、公園樹、街路樹として広く各地で植栽されている。わが国へは明治初年に渡来した。東京の街路樹では
イチョウ、プラタナスに次いで多く使われるものの中に入る。
花ことばに「田園の幸福」があり、アメリカのテネシー、インディアナ州の州の木となっている。文芸の上でもしばしば使われている。
ゆりのきの並木いち早く黄葉して美しき影を濠に浮べぬ 小野昌繁
3.ユリノキの栽培品種
ユリノキの栽培品種に次のものがある。
フクリンユリノキLiriodendron tulipifera LINNAEUS cv.Aureomarginatum:葉の辺縁が黄色。
Liriodendron tulipifera LINNAEUS cv.Mediopictum:葉の中央付近が黄色とクリーム黄色の斑となり、縁は通常の緑色で幅が広い。
Liriodendron tulipifera LINNAEUS cv.Obtusilobum:葉の両側は基部で1個の円味のある裂片となる。
Liriodendron tulipifera LINNAEUS cv.Crispum:葉の長さより幅が大きく、先端の凹入が深く、基部は楔形、縁が波状となる。
Liriodendron tulipifera LINNAEUS cv.Contortum:葉縁が波状となり、裂片が捩れる。前のものと同一とする考えもある。
Liriodendron tulipifera LINNAEUS cv.Compactum:小さく密な分枝でコンパクトな生長をし、樹冠はほとんど球形となる。
Liriodendron tulipifera LINNAEUS cv.Fastigiatum(異名
Liriodendron tulipifera LINNAEUS var.pyramidale DIPPEL):枝は上向し、樹冠は狭い円錐形となる。