ヒトツバタゴ属の樹木
1.ヒトツバタゴ属
ヒトツバタゴ属
Chinanthus は
モクセイ科
Oleaceae に属し、アジア東部に1種、北米に1種という隔離分布をする。英名を
fringe tree,snow flower, 独名を
Schneeblume,schneeflockenstrauch, 中国名を
流蘇樹という。
落葉低木または高木で、葉は対生する単葉、全縁または小さい鋸歯があり、葉柄をもつ。集散状の円錐花序を枝先に頂生または側生し、花は単性または両性でそれぞれ異株につく。がくは小さく4裂する。花冠は白色で、筒部は短く、裂片4個は深裂して
基部近くに至り、線形で長い。雄ずいは2個、まれに4個で花冠の筒部につき、花糸はきわめて短く、葯離が突出する。雄ずいは1個、子房は2室からなり各室に胚珠2個を下垂する。花柱は短く、柱頭は浅く2裂する。
果実は石果で楕円形などを呈し、外果皮は薄く、内果皮は厚くて硬く骨質に近い。種子は1個、まれに2~3個で、肉質の胚乳をもつ。
2.ヒトツバタゴの分布と名称
アジア東部に産するものはすべて同一種と見做す考えに従うと、ヒトツバタゴの学名は
Chionanthus retusus LINDLEY et PAXTON となり、
Linociera chinensis FISCHER,Chinonanthus chinensis MAXIMOWICZ,Chionanthus duclouxii
HICKEL(
トウヒトツバタゴとされたもの)、
Chionanthus serrulatus HAYAYTA および
Chionanthus retusus LINDLEYet PAXTON var.serrulatus KOIDZUMI(
タイワンヒトツバタゴ、カッパンヒトツバタゴとされたもの)、
Chionanthus coreanus LEVEILLE および
Chionanthus retusus LINDLEY
et PAXTON var.coreanus NAKAI(
ナガパヒトツバタゴ、チョウセンヒトツバタゴとされたもの)はその異名となる。
ヒトツバタゴはわが国では愛知・岐阜・長野県の一部に遺存的に自生し、これとは隔離して対馬、朝鮮南部、支那中部・南部、台湾に分布している。本州中部にあるものは低山地の湿地に生じ、植物地理学では
ハナノキ Acer pycnanthum
K.KOCH,
シデコブシ Magnoliastellata MAXIMOWICZ などとともに、特異な東海丘陵要素の植物とされている。
ヒトツバタゴの英名は
Chinese fringe
tree,中国名は
流蘇樹、流疏樹、炭栗樹、茶葉樹、牛筋子、鳥金子その他があり、台湾でまた
鉄樹ともいう。各地に植栽されているものもあるが、比較的珍しく、開花時に金樹が白花で被われるなど特異なので、いろいろな呼び名がある。
東京青山・六道の辻(明治神宮外苑)に植栽されているものは
ナンジャモンジャ(アンニャモンニャ)、また
ロクドウボクと呼ばれる。
ナンジャモンジャは名前がわからぬものの意味で、全国各地でいろいろな樹種がこの名で呼ばれているが、よく知られ
ているのは千葉県神崎神社の
クスノキである。
青山の
ヒトツバタゴは国の天然記念物に指定されてよく保護されていたが、90~100年生で昭和8年(1933)に枯れてしまい、現在あるものは根継ぎをされた2代目である。その他岐阜県、愛知県および対馬鰐浦に天然記念物に指定されたものがある。なお
各地での名称には
ナナフシギ(岐阜県)、
フタバノキ、ウノハナ、ウミテラス、ナタオラシ(以上は対馬)がある。
3.ヒトツバタゴの概要
高さ30m、直径70cmに達する落葉高木である。樹皮は灰黒色を呈し、縦の割れ目が入り粗?である。コルク質がよく発達する。小枝は灰褐色で、若枝ではふつう多少とも細軟毛
がある。
葉は対生する単葉で長楕円形から広卵形など、長さ3~12cm、幅2~6.5cm、鈍頭~円頭、ときに鋭頭、基部は楔形~広い楔形、ときにきわめて浅い心形を呈する。ふつう全縁であるが、若令木のものは細鋸歯または重鋸歯が出て、大きく長さ15c
m、幅8cmに達するものがある。側脉は3~5対、薄い革質などで、上面は中肋を除きほぼ無毛、下面中肋基部に淡褐色の細軟毛がある。葉柄の長さは0.5~3cmで、基部が帯紫色のものが多い。
5月頃開花し、雄花の株と両性花の株があり、日本のものでは全くの雌株は見られない。集散状の円錐花序を新枝に直立して頂生し、花序の長さは3~12cm、花梗の長さは5~20㎜で基部に関節がある。がくは4裂し長さ1~3㎜、花冠は白色で基部近くまで
4深裂し、裂片は線状倒皮針形で長さ15~20㎜ある。雄ずいは2個で短く、花冠筒部につくかまたはやや挺出し、花糸はきわめて短い。葯は長楕円形で長さ1.5~2㎜、葯離が突出する。両性花では雄ずい1個があり、子房は卵形で長さ1.5~2㎜、柱頭は球形で
やや2裂する。6~11月の間に熟する石果は楕円形で長さ1~1.5cm、幅0.6~1cm、藍黒色または黒色で白粉を被むる。
4.ヒトツバタゴの材の組織、性質と材その他の利用
環孔材、また孔圏外で道管が集合して不規則な紋様をなすので紋様環孔性孔材とも呼ばれる。辺・心材の区別はほぼ不明瞭で、淡褐白色、ときに心材相当部分がやや濃色の淡黄褐色を呈する。年輪はきわめて明瞭である。木理はほぼ通直で、肌目は粗い
。
孔圏で道管は1層、ときに2層をなし、単独のものが多いが、ときに接線方向またはやや傾斜方向に2個が接続する。孔圏道管の径は0.03~0.23㎜、孔圏を外れると急に径を減じ径0.02~0.05㎜が多い。ここでは多数が集合して単独のほか放射方向などに4
個まで接続するものがあり、仮道管、柔組織とともに、長三角形、火焔状などの不規則な紋様をなす。孔圏部のみの道管分布数は8~20/m㎡、孔圏外では70~200/m㎡である。単独道管の横断面形は孔圏で楕円形、円形など、孔圏外で楕円形、円形、多
角形などの種々の形を示す。せん孔板は水平~傾斜し単せん孔をもつ。内壁にらせん肥厚はない。接続道管相互間の有縁壁孔は比較的疎らであるが、多いときは網状配列をなし径は0.007~0.010㎜である。
道管状仮道管ないし繊維状仮道管は少量が
道管群の間および周辺に存在する。内壁にらせん肥厚をもち、有縁壁孔は2個が並列する傾向がある。真正木繊維は材の基礎織を形成し、長さは0.4~1.5㎜、径は0.01~0.02㎜、壁厚は0.002~0.004㎜である。
軸方向柔組織では、周囲柔組織が道管周辺に不規則に存在し、ことに孔圏外では道管・仮道管群とともに不規則な形の紋様部分をなす。ほかに不明瞭なターミナル柔組織と単独で散在する
柔細胞がある。柔細胞の径は0.01~0.03㎜、壁厚は0.001~0.002㎜である。
放射組織は1~3、まれに4細胞幅、2~20細胞高である。その構成は異性で、軸方向の両端1~2層、または単列放射組織の全部が直立細胞ないし方形細胞、他は平伏細胞からなる
。
材の気乾比重に0.91の記載があり、一般に重硬、緻密である。器具材その他に用いられるが、量的にまとまることはない。そろばん玉に利用の記載がある。
若葉を茶の代用とし、花は賦香料に用いられ、果実から油をとることがある。樹は低木などに植栽される。
5.アメリカヒトツバタゴ
アメリカヒトツバタゴ(バージニアヒトツバタゴ)
Chionanthus virginicus LINNAEUS はアメリカ東部・東南部に生じ、英名は
fringe tree,white fringe,American fringe,white ash,flowering ash,old man's beard,gray beard,snow flower tree,
独名は
virginische Schneeblume という。
高さ10m、直径30cmまでの落葉の大低木ないし小高木である。樹皮は帯紅褐色を呈し、始めほぼ平滑に近いが、年とともに縦の隆条が出る。小枝は太く、若いときは細軟毛がある。
葉は対生する単葉で、長楕円形または倒卵状長楕円形、長さ4~20cm、
幅3~10cm、鋭頭または鋭尖頭、基部は楔形を呈し、全縁である。上面は無毛、下面は少なくとも脉上に細軟毛がある。秋に黄葉する。葉柄の長さは1~2.5cmで細軟毛をもつ。
5~6月に開花し、円錐花序は長さ10~20cm、通常雌雄異株である。がくは4裂
し、裂片は三角形、花冠は白色で芳香があり、深く4裂し、裂片の長さ15~30㎜、幅2㎜ほどである。雄花でときに5~6裂し、また花序も花も大きくなる。石果は楕円形で長さ1.5~2cm、9月頃に熟して暗青色を呈する。
変種に葉下面と花序に細軟毛をも
つ
Chionanthces virginicus LINNAEUS var.maritimus PURSH があり、また葉形の異なった一、二の栽培品種がある。
アメリカヒトツバタゴの材は淡褐色で、ヒトツバタゴとほぼ同様であるが、辺材と心材とは色の多少の濃淡の違いがあるとの記載もある。重硬であるが、雑用材で特別の用途はない。樹皮の浸出液
は解熱の薬用とされる。樹は観賞用に植栽される。