サッサフラス属の樹木(その1)
1.サッサフラス属の概要
サッサフラス属(
サッサフラスノキ属、
タイワンサッサフラス属、
ランダイコウバシ属)
Sassafras はクスノキ科
Lauraceae に属し、
Pseudosassafras,Yushunia はその異名である。アジア東部に2種、北米に1種が隔離分布する。英名は
sassafuras,中国名は
擦木という。
落葉高木、ときに低木様で、芽は瓦重ね配列の鱗片で被われる。葉は互生し、単葉、鋸葉はなく、分裂しないかまたは中部以上で2~3裂する。葉脉は基部を僅かに離れて3行脉となり、中央脉からさらに羽状に側脉を出す。
花は通常雌雄異株で通常単性であるが、また両性花になるものがある。総状花序を束生する形に近い円錐花序を頂生または頂生に近く出し、基部に数個の大きい総苞片をつける。花被は短い筒部つ6個の裂片とからなり、黄緑色などを呈し、裂片は花後
の脱落する。雄花には外側からは3輪になって3個ずつの完全雄ずい、計9個があり、第三輪の雄ずいの基部に1対の短柄ある腺体をもつ。葯は内向し、4室からなり、下から上にまくれる弁で開口する。
また葯室が2個となるものがある。退化雄ずい3個からなる第四輪を欠いているか、または存在する。退化雄ずいが存在するものを Pseudosassafras,さらに葯室が2個のものを Yushunia
として別属がたてられたが、これらの性質は確実な基準にならないとの考えに従って、すべて同属とする扱いによる。ほかに退化雄ずい1個が存在するかまたはない。雌花では雌ずい1個があり、子房は卵状球形で、花柱は細長、柱頭は盤状に広がる。ほか
に2輪になる退化雄ずい6個があり、ときに3輪になる稔性と見られる雄ずい9個と1輪の退化雄ずい3個をもち両性花の形になるものがある。果実は石果で、通常卵状球形、深青色などを呈する。果梗先端部は膨大して浅い杯形になって果実の底につく。種子
は楕円形で尖頭をもつ。
2.サッサフラス属の材の組織、性質と材その他の利用
環孔材で、これは
クスノキ Lauraceae の中では特異である。辺・心材の区別は明瞭または不明瞭で、辺材は黄白色、薄褐色など、心材は黄褐色、褐色、紅褐色、暗褐色などを呈する。年輪は通常明らかである。木理は一般に通直で、肌目は中位から粗である。新しい材面では芳香がある。材の
アルコール浸出液はフラボン反応を呈する。
孔圏の道管は1~4、ときに5層で、単独および各方向に2個ほどが接続し、分布数は5~10/m㎡程度、径は0.13~0.35㎜である。孔圏外の道管は単独およ放射方向などに2~3個が接続し、径が急に小さくなり0.05
~0.15㎜、分布数は12~60/m㎡にわたる。接続道管の間の有縁壁孔の径に0.006~0.014㎜の記載がある。せん孔板は水平または傾斜し、単せん孔をもつ。チロースが存在する。
材の基礎組織を形成するのは繊維(真正木繊維または繊維状仮道管)であるが、孔圏では柔組織が道管の間をつめてほとんど基礎組織になっているものがある。繊維の長さは0.4~1.4㎜、径は0.015~0.03㎜、壁厚は0.002~0.004㎜である。
軸方向柔組織では、周囲柔組織がよく発達し、孔圏でほとんど基礎組織になっているものがあり、孔圏外では翼状から連合翼状柔組織になり、さらに道管を含んだやや不規則な帯状柔組織の形のものがある。ターミナル柔組織はその存在が明らかでない
。ほかに単独で散在する柔細胞がある。通常の柔細胞の径は0.015~0.03㎜、壁厚は0.001~0.002㎜ほどである。油細胞は
クスノキ科の多くの他属のものにくらべて、数が少く大きさが小さい。径は0.04~0.06㎜ほどが多い。
放射組織は1~3細胞幅、1~40細胞高である。その構成は異性で、単列のものおよび多列のものの上下両端1~2層は方形細胞または直立細胞、他はおおむね平伏細胞からなる。両端の層の細胞には油細胞になっているものがある。
材の気乾比重には0.42~0.58の記載があって、広葉樹材では中位から軽軟なものに入る。収縮率は一般にかなり小さく、強度は低い。それらの数値は各樹種の項にあげた。
一般に製材、乾燥、切削加工は容易で、接着、塗装、釘打ちなどに問題は少ない。スライスおよびロータリー単板切削も容易に行われる。心材の耐朽性は通常大きい。
材は軽構構造材、建築造作材・装飾材、家具、器具、船舶、車輌、柵柱その他に用いられるが、また化粧ベニヤ、合板としても使われる。
おもに根皮から芳香油が得られ、食品、石けんなどの賦香料に用いられることが多い。樹は庭園樹、街路樹として植栽される。
3.サッサフラスの概要
サッサフラス(サッサフラスノキ)Sassafuras albidum NEES (異名
Sassafuras officinale NEES et EBERMAIER var.albidum BLAKE,Sassafuras variifolium O.KUNTZE var.albidum
FERNALD) はアメリカ東部・中部、カナダ五大湖地方に分布し、また植栽される。後記する変種
Sassafuras albidum NEES var.molle FERNALD を含めて、英名を
sassafras,common sasafras,white sassafras,red
sassafras,sassafac,sassafrac,saxiflax,cinnamon wood,ague tree,gumbo file(ネグロの呼称)、
wah-eh-nah-kas(インディアンの呼称)、独名を
Fenchelholz,arzeilicher Sassafras, 仏名を
laurier sassafuras という。
高さ30m、ときに38mまで、直径60~90cmになる落葉高木で、ときに低木葉である。直径2.25mのものが知られている。樹のすべての部分に芳香がある。樹皮は褐色で、深い溝が入る。小枝は灰白色で芽とともに無毛である。葉は互生し、形の変化が多く
、概形は卵形、楕円形で長さ5~15cm、幅3.5~7.5cm、切れ込みが全くないかまたは中部以上で2~3裂、まれに5裂までし、しばしば左右非対称である。鋭頭または鈍頭、基部は楔形を呈する。切れ込みの底は円い。葉脉は基部から僅か離れた処から3脉とな
る。上面は鮮緑色、下面は灰白色で若いときは絹毛があるが後無毛となる。葉柄の長さは1.5~3cmである。秋に橙色、緋紅色に紅葉する。
前年枝の枝端に葉の開舒といっしょに総状花序を束生したような円錐花序を出し、その長さは3~5cmで、小さい黄緑色の花をつける。雄花は花被のほかに、3個ずつが3輪になる完全雄ずい9個があるが、退化雄ずいおよび退化雌ずいはない。葯は内向し
葯室は4である。雄花には雌ずい1個と、通常2輪になる退化雄ずい6個がある。液果様の石果は卵形、楕円形で長さ約1cm、深青色を呈し粉白色を帯びる。果梗はやや肉室となって紅色になり、果実の青色との対照が目立つ。
Sassafuras albidum NEES var.molle FERNALD (異名
Sassafuras officinale NEES et EBERMAIER,Sassafuras variifolium O.KUNTZE)は若枝と芽に細軟毛があり、葉も少なくとも若いときは下面に絹状細軟毛があり、青白味が多い変種である。
4.サッサフラスの材の組織、性質と材その他の利用
環孔材。辺・心材の区別はほぼ明瞭であるが、境界はぼやける。辺材は黄白色、心材は初め淡褐色で空気にふれて灰褐色、橙褐色、紅褐色、褐色、暗褐色などになり、ときに紅彩がある。年輪は明瞭である。木理は通常通直、肌目は粗である。材に芳香
がある。
孔圏の道管は2~3、ときに4層あり、単独および2~3個が各方向に接続し、分布数は6~9/m㎡である。単独道管の断面形は広楕円形~楕円形、道管の径は0.13~0.30㎜である。孔圏外では径が小となり、単独およびおもに放射方向に2~3個が接続、まれに
数個が小塊状に集合し、分布数は20~60/m㎡、道管の径は0.04~0.15㎜である。せん孔板はやや傾斜し、単せん孔をもつ。
材の基礎組織は本来繊維(真正木繊維または繊維状仮道管)であるが、孔圏では周囲柔組織がよく発達しほとんど基礎組織をなし
ている。繊維の径は0.01~0.03㎜、壁厚は0.002~0.004㎜である。
軸方向柔組織では、周囲柔組織がよく発達し、孔圏ではほとんど基礎組織をなし、孔圏外では翼状~連合翼状柔組織から、ときには不規則な帯状となって中に道管を包んでいる。道管を外れた部分で放射方向に2~6細胞層をなす。ほかに単独で散在する
柔細胞が少数あり、これらは油細胞になっているものが多い。通常の柔細胞の径は0.015~0.03㎜、壁厚は0.001~0.002㎜ほどである。油細胞の横断面形は楕円形で、接線方向の径は0.04~0.05㎜、放射方向の径は0.05~0.06㎜で、壁厚は薄い。
放射組織は1~3細胞幅で、単列のものは少なく、2~20細胞高である。その構成は異性で、単列のものおよび多列のものの両端1、ときに2層の単列部はおおむね方形細胞、他は平伏細胞からなる。辺縁の細胞には油細胞になっているものがある。
材の気乾比重は0.50~0.52で、材質数値に次の記載がある。生材から全乾までの全収縮率は、接線方向6.2%、放射方向4.0%、体積10.3%、縦圧縮強さ333kg/c㎡、曲げ強さ630kg/c㎡、曲げヤング係数7.8×10(4)kg/c㎡、せん断強さ88kg/c㎡。これらの強度
的数値は広葉樹材の中では弱い方に入る。
製材、乾燥、切削加工はきわめて容易である。耐朽性、耐虫性はかなり大きい。
材は軽構造材、建築造作材、家具、器具、柵柱、箱材、コンテナーなどに地方的に用いられている。かつてインディアンはカヌーに用いた。
おもに根皮を水蒸機蒸溜して
サッサフラス油が得られる。その主成分はサフロール(safrol)で80%を占め、たばこ、食品、石けん、歯磨きなどの賦香料に用いられ、また香料 heliotropin の製造原料ともなる。小さい根は地方的に活力剤の
sassafuras tea の名の飲料にされる。樹は庭園樹などに植栽される。