キンキジュ属の樹木(その2)
7.マレー産キンキジュ属樹木のグループ分け
マレーには
キンキジュ属
Pithecellobium の樹木が10~12種あるが、葉の形態から2つのグループに分けられる。1つは羽片が2~10対、1羽片につく小葉が4~20対と数が多く、小葉は小さくほぼ菱形で羽片の基部から先端に向かって順序よく大形となり、これらは型で押し出して作ったように整然
としている。これには
Pithecellobium clypearia BENTHAM,Pithecellobium angulatum BENTHAM,Pithecellobium contortum MARTIUS が入る。第2は羽片が1~2対、1羽片につく小葉も少なく1~4対の範囲である。この第2グループのうち keredas
のマレー名をもつ数種は、小葉の大きさが比較的小さく上部羽片につく小葉は3~4対と多いもので、
Pithecellobium microcarpum BENTHAM,Pithecellobium kunstleri PRAIN ex KING,Pithecellobium globosum KOSTERMANS などがある。そのほかに第2グループで Keredas とは別に扱われる数種がある。
8.Pithecellobium clypearia BENTHAM と近似種
Pithecellobium clypearia BENTHAM
Pithecellobium clypearia BENTHAMには和名
サルノジリンがあり、英名:
grasshopper tree,greater grasshopper tree;マレー名:
petai belalang,chahar,lering munyet;インドネシア名:
lempaga
putih;フィリピン名:
bagalngaその他;中国名:
圍涎樹がある。分布はインド、タイ、インドシナ、支那南部、マレー、スマトラ、ボルネオ、ジャバ、モルッカ諸島、フィリピンと広く二次林、開放地に普通に見られる。
高さ7.5m~10mになる小高木で小枝は著しく角ばる。大きな2回羽状複葉で葉柄の長さ15~50cmあり、羽片は4~9対、小葉は下部の羽片に3~5対、上部の羽片に8~16対がつく。小葉は規則的な左右不同の菱形で長さ1.5~8cm、幅0.7~4cm、端末小葉は基部
のものにくらべてあまり大きくならない。下面は多少粉白で僅かに有毛。羽片および小葉着部の軸上に有柄またはバケツ形の腺体がある。花は白色で径約0.9cmの集散花序になりそれが長さ50cmまでの長い円錐花序様に複生して頂生および腋生する。豆果
は長さ10~20cm、幅1~1,3cmで扁平、種子を含む部分で裂片化し2重のらせん状にゆるく巻き裂開する。外面橙色で内面紅色を呈する。種子は8~10個あって卵形、径0.6~1cmで黒色である。
材の組織について記す。散孔材、道管は単独ときに2~3個が放射方向に接合する。接合したものも1としての分布数は2~5/m㎡、管孔は広楕円形で径は0.12~0.24㎜、単せん孔、せん孔板は水平からやや傾斜。真正木繊維の径は0.015~0.035㎜、壁厚は0.
002~0.003㎜である。軸方向柔組織には周囲柔組織ときわめて少数の散在柔組織がある。前者で翼状柔組織となるものはほとんどなく管孔を囲んで1~4細胞層である。少数の多室結晶細胞が混在し、結晶は5~15個が軸方向に鎖状に連なって存在する。柔細
胞の径は0.02~0.05mm、壁厚は0.001~0.002㎜である。放射組織は1~2細胞幅で多くは単列、3~20細胞高であるが多くは5~15細胞高、構成は平伏細胞からなる同性で中に着色物質を含む。
材は現地で雑用材、燃材に用いられる程度である。樹皮にタンニンを含み、また洗髪に使われる。葉は有毒であるが腫物などの薬用となる。
Pithecellobium angulatum BENTHAM は前種にきわめて近く、英名:
grasshopper tree;マレー名:
petai belalang と同名で扱われ、両者は変種関係とも考えられている。インド東部からマレー地区、フィリピンにわたって分布する。高さ15mまでになるが、ふつうずっと小さい低木ないし小高木で小枝の角ばってていることが著しい。前者と違うのは1羽片につく小葉が4
~10対で少なく、上部羽片につく小葉の長さが5~15cmと大きく、葉軸上の腺体が無柄であるなどの点である。
9.Pithecellobium contorum MARTIUS
英名は
lesser grasshopper tree, マレー名には
petai belalang,batai laur,asam jawa antan などがある。マレー、スマトラ、ボルネオに分布し二次林、とくに海に近い処で普通である。高さ4.5~9mの小高木で小枝が円く角ばらぬことが前2種と異なる。小枝と葉は有毛。羽片は3~10対、小葉は菱状長楕円形でやや狭く上部羽片で12~20対つき、
その端末小葉は長さ1.3~4.5cm、幅0.4~1.5cmである。葉軸上基部近くと上部羽片・端末数対の小葉の着点に小さい無柄の腺体がある。花は2~3個で頭状花序をなすがときに1花のみ、これが頂生で長い20~25cmの疎な円錐花序様に複生する。豆果は長さ15
~20cm、幅1~2cmでコイル状に巻き外面暗緑色~淡褐色、有毛、内面紅色。種子は8~10個、長楕円形で黒色を呈する。材は雑用材、燃材に用いられる。
10.Pithecellobium splendens CORNER の名称、分布と形態
マレー産
Pithecellobium で timber size になる唯一の種類で、かつて
F.W.FOXWORTHY や
H.E.DESCH が
Pithecellobium confertum BENTHAM として記載したものはこのものとされている。マレー名は
kungkur で
medang buaya,medang kok などの地方名もある。マレー、スマトラ、ボルネオに分布する。
高さ20m、ときに30mまで、直径95cmまでになる中~大高木で枝下21mの記事がある。ふつう板根は出ない。樹皮は黄褐色、灰褐色から後に黒色に近くなり大きい樹ではやや深い裂け目が入って粗くなる。小枝は角ばらない。葉柄は1.5~2.5cmで短く葉は
無毛。羽片は1対のみ、これにつく小葉は1~2対で卵状楕円形、長さ7.5~15cm、幅4~7.5cmとやや大きく葉縁が著しく波うつ。葉軸上で羽片および小葉の着部に比較的大きい腺体を生ずる。花は黄白色で5~10花で径約1.8cmの頭状花序をなし、これが頂生
または腋生の長さ5cmまでの小さい円錐花序様に複生する。花序軸は有毛。豆果は僅かに捩れるだけで通直に近く、長さ20~30cm、幅3.5~5cm、扁平で大きい。裂開せず外面暗褐色、内面紅色である。種子は7~13個あり扁平な卵形、長さは約2cmである。
11.Pithecellobium splendens CORNER の材の組織、性質と利用
散孔材。辺心材の境界は明瞭で辺材は汚白色、淡黄色、淡褐色、心材は紅褐色で後暗褐色になる。生長輪は不明瞭。木理は波状または交走し肌目は粗い。
道管は多くは単独で分布数2~4/m㎡、管孔は円形で径0.18~0.28㎜、単せん孔、せん孔板は水平ないしやや傾斜する。チロースはないが紅色、黄色、褐色などの沈積物があり縦断面で道管の條がかすり模様になって見える。真正木繊維の径は0.015~0.03
㎜、壁厚は0.002~0.004㎜である。軸方向柔組織は周囲柔組織が大部分翼状柔組織となり散在する柔細胞はきわめて少ない。翼状柔組織は管孔の上下で放射方向に1~5細胞層、接線方向には18細胞まで長く伸びる。多室結晶細胞の存在は少なく、結晶は3~
10個が鎖状に連なる。柔細胞の径は0.02~0.05㎜、壁厚は0.001~0.002㎜である。放射組織は1~3細胞幅で多くは2細胞幅、8~30細胞高、おおよそ平伏細胞からなる同性であるが、軸方向で上下両端1層は細胞の高さがやや大である。
材の気乾比重の値に、0.47~0.84、0.54、0.67の記載がある。強度数値の例をあげると、気乾比重0.54のもので縦圧縮強さ448kg/c㎡、曲げ強さ906kg/c㎡、曲げヤング係数10.9×10(4)・kg/c㎡、せん断強さ127~133kg/c㎡である。鋸断、ロータリー切
削はふつう良好であるが、交走木理のものでは鉋削、型削にやや注意を要する。ただし仕上げは良好にできる。乾燥はゆっくり行えば欠点は出ない。心材の耐朽性は中庸、ただし防腐剤の注入は困難である。
市場材となり、建築の軽軟造材・内装材、家具、キャビネットなどの用途がある。
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