ウプン属の樹木
1.ウプン属とウプンの概要
ウプン属
Upunaは
フタバガキ科
Dipterocarpaceaeのウプンただ1種のみからなる属である。形態的には
バチカ属
Vaticaの
Sect.Sunapteaときわめて近似しており、ことに果実はほとんど違うことがない。雄ずいの数が多いこと、雄ずいの葯隔にある付属体の
形態が違っていることなどがあげられるが、
バチカ属
Vaticaから独立させた別属
Sunapteaに
コチレロビューム属
Cotylelobiumといっしょに含めることが妥当なのかも知れない。
ウプン(
upun)
Upuna borneensis SYMINGTONはボルネオの固有種で、ブルネイで
upun、upun batu、サラワクで
penyau、サバで
upun、インドネシア(カリマンタン)で
balau penyau、penyau tanduk、cangal tandukという。
材は
バチカ属
Vaticaおよび
コチレロビューム属
Cotylelobium属のものといっしょにして、
resakに含めて扱われることが多く、またカリマンタンで
balau(本来は
サラノキ属
Shoreaの重硬材の名称)または
giam(本来はメラワン属
Hopeaの重硬材の名称)
の中に混じっていることがあると思われる。
ウプンは高さ55m、直径1.9mまでになる常緑大高木で、樹幹は円柱状で通直、枝下高25mまでのものがある。板根はときに数個がグループになって樹幹基部を取りまいてあらわれ、高さは2mまであがり、鈍頭である。樹皮は褐色ないし暗紫褐色で、縦の細
かい割れ目が入って裂片化する。小枝には密に短毛を布く。
葉は倒皮針状長楕円形、長楕円形、側卵形などで長さ9~24cm、幅4~9.5cm、先端は短い尾状部になり鋭尖頭、基部は浅い心形、側脉は12~20対あって葉縁近くで湾曲する。軟らかい革質で、下面に白色の絨毛を布く。葉柄は長さ1~3cmで膝曲する。托
葉は長さ2cmまででやや残存性である。
花は最上葉に腋生する集散花序につき、花序の長さは15cmまでである。多く分枝し淡褐色の絨毛と腺を密につける。がく裂片5個は基部で合着し、裂片は瓦重ね状になり外面に絨毛がある。花弁5個は広卵形でやや鋭頭、芽の時に外面に露出していた部分
は疎らに絨毛があり、淡紫色で縁は暗黄色を呈する。雄ずいは25~30個が数輪になって並び、花糸の基部は広まって無毛、葯は卵形など、葯隔に細長い糸状の付属体をつける。雌ずいは1個、子房は卵状球形で絨毛を被むる。花柱は子房の2~3倍の長さが
あり、明瞭な足体は見られない。下半部に短毛がある。
果実は3稜がある狭卵形の堅果で、鋭頭、長さ3.2cmまでで淡褐色の絨毛を布く。裂片の基部が合生したがくの基の部分に包まれているが、これと合着はしない。がく裂片5個のうち2個は大きくなって皮針形、長さ13cmまででやや鋭頭である。3個は短く長
さ7.5cmまでである。
2.ウプンの材の組織
散孔材。辺材は淡黄褐色、心材は初め黄褐色であるが、外気にさらされると次第に暗褐色になり、辺心材の境界は明瞭である。木理は通直または浅く交走し、肌目は中庸からやや精である。光沢は少ない。生長輪は明らかでない。
道菅はすべて単独で散在し、分布数は3~11/mm2、横断面で見られる道管は円形からやや楕円形で、径は0.05~0.25mm、せん孔板は水平に近く単せん孔をもつ。道管の接続はまれであるが、その場合の相互間の有縁壁孔はベスチャード壁孔である。チロ
ースはよく発達する。
材の基礎組織を形成するのは繊維状仮道管で、有縁壁孔はかなり明瞭に見られる。長さ1.2(0.9~1.6)mm、径0.01~0.02mm、壁厚0.005~0.008mmである。
軸方向柔組織では、(1)道管のまわりの周囲柔組織の発達はあまりよくなく0~3細胞層、中にはやや翼状になるものもある。
(2)短接線柔組織はほとんど見られず、単独で基礎組織中に散在する柔細胞もきわめて少ない。
(3)垂直樹脂道を囲む柔組織
は比較的よく発達し、接線方向に不規則にのびて帯状となる傾向を示す。道孔の放射方向上下で1~4細胞層、道孔を外れて8細胞層まである。柔細胞の径は0.015~0.04mm、壁厚は0.001~0.002mmである。
垂直樹脂道はふつう散在し、また多少離れているが接線方向に並ぶものがある。分布数は0~4/mm2でバチカ属Vaticaのものより少ない。径は0.06~0.14mmである。中に白色の樹脂物質がつまっている。
放射組織は単列のものと多列のものとの2型にわかれる傾向があり、その構成は異性である。単列のものはまれに2列の部分を含み、2~30細胞高で、ほとんど方形細胞または直立細胞および軸方向の高さが大きく放射方向の長さが短い平伏細胞の大型細
胞からなっている。多列のものは3~6細胞幅、35~70細胞高で、軸方向上下両端の単列部および2列部の15層までと、周縁の1部は大型細胞、その他の部分は軸方向の高さの低い平伏細胞からなる。細胞内にシリカも結晶も含まれていない。
3.ウプンの材の性質と利用
材の気乾比重には0.94~1.14の範囲の記載がある。収縮は類似のbalauやresakの材にくらべて少ないとされており、1例をあげると生材から含水率15%の気乾までの値は、接線方向2.9~3.2%、放射方向0.5~1.8%となっている。強度数値では縦圧縮強さ88
7~969kg/cm2、曲げ強さ1,591~1,662kg/cm2、曲げヤング係数17.6~18.2×10(4)・kg/cm2、せん断強さ180~209kg/cm2の報告がある。
材中にシリカ材が含まれていないが、材は重硬ないしきわめて重硬なため製材は困難である。乾燥は遅いが損傷の発現は比較的少ない。鉋削や穿孔などの切削加工は比重が大きい割合には容易で、仕上げ面は平滑となる。釘着力と接着性は良くないとい
われる。心材の耐朽性はきわめて高く、また白蟻やキクイムシの食害にも抵抗性が大きい。防腐処理の薬剤注入はきわめて困難であるが、ふつうの用途ではその必要はあまりないといわれる。
強度と耐朽性が大きいので重構造材に好適である。すなわち建築、車両、船舶、橋梁、埠頭、枕木、坑木、杭その他の土木用材を主とし、また家具、器具その他の用途があげられる。ただし量が多くないので単独で供給される市場材になることは少なく
、一般に
resakの中に含めて扱われ、またインドネシア地域では
balauや
giamの中にも入れられていると思われる。
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