オリーブ属の樹木(その1)
1.オリーブ属の概要
オリーブ属Oleaは
モクセイ科
Oleaceaeに属し、アジア南部、アフリカ、オーストラリアに約20種あるいは40種が自生するとされている。以前
Linocieraに含められていた種類があり、またニュージーランド、ノーフォーク島で
Oleaとされた4種は別属
Nest
egisとするのが妥当と考えられる。なお
TetrapilusはOleaの異名である。英名は
olive、独名は
Olbaum、仏名は
olivier、中国名は
木犀欖である。
通常常緑の低木または高木で、刺があるかまたはない。葉は対生する単葉で、革質まれに紙質、全緑のものが多く、ときに鋸歯がある。常に微小な腺点をもち、ときに鱗状毛があり、葉柄をもつ。
花は頂生または腋生の円錐花序につき、ときに総状花序または散形花序に近くなる。花は小さく、両性、単性または雑性で、白色、淡黄色ときに淡紅紫色を呈する。がくは小さく残存性で、歯状の短い4裂片があるかまたは切形に近い。花冠は筒部と4個
の裂片からなり、裂片はふつう筒部よリ短く、この点が裂片をほとんど離生する
Linocieraと違うところとされる。ときに裂片は筒部と同長または長い。裂片は蕾ではすり合わせ状に配列し、まれに花冠がないか、早落性のものがある。雄ずいは2個、まれ
に4個で、花冠筒部の基部に着生し、花糸は短くほとんど花冠内に内蔵される。葯は卵形、楕円形または円形に近い。雌ずいは1個で、子房は2室、各室に胚珠2個を下垂する。花柱は短いか、または欠いている。柱頭は頭状で、また僅かに2裂するものがあ
る。
果実は石果で球形、楕円形など、中果皮は肉質であるがやや薄く、内果皮は堅くて骨質など、ときに紙質である。種子は通常1個のみが発育し、胚乳は豊富である。
材の組織、性質と材その他の利用についてそれぞれの樹種の項に記す。
2.オリーブの名称と分布
オリーブ(オリーブノキ、オレイフ)
Olea europaea LINNAEUS(異名
Olea europaea LINNAEUS subsp.europaea、Olea europaea LINNAEUS var.sativa ROUY、Olea sativa HOFFMANNSEGG et
LINK)は地中海沿岸地域を主にした広く植栽されている栽培種であって、原種は小アジア、シリアに自生していたものとの説もあるが、
E.PERCY and
M.A.NEWBERRYによれば、第四氷河期に北アフリカのリビアおよびサハラにあった大森林に自生していたものが、エジプト、クレタ島を経てギリシア、小アジアに入り植栽されて広まったものという。現在は亜熱帯・暖帯地域の世界中で、果実を油料および
ピクルスにするため広く栽培されている。生産量が多いのはスペイン、イタリア、ギリシアの順で、次いでポルトガル、チュニジア、トルコとなり、またカリフォルニア、メキシコ、チリ、アルゼンチン、オーストラリアにも多い。わが国に始めて入った
のは文久3年(1863)であるが、これは生育せず、その後明治になってから入ったものが植栽されていて、小豆島のものがよく知られている。
英名は
olive、olive
tree、独名は
Olbaum、Olivenbaum、gemeiner、Olbaum、仏名は
olivier、中国名は
木犀欖、油橄欖、洋橄欖、棕欖樹である。わが国では古くは
カンラン(橄欖)とされたことがあったが、これは誤まりで、本当の
カンランは
カンラン科
BurseraceaeのCanari
um album RAEUSCHELであって、「旧約聖書」を始めて邦訳したときに
オリーブをこれに誤まったためである。また
エゴノキ科
Stracaceaeの
エゴノキStyrax japonica SIEBOLD et
ZUCCARINIの漢名に
斉トン果をあてていたことが多かったが、この名は
オリーブのものという。さらに
ホルトノキ科
Elaeocarpaceaeの
ホルトノキElaeocarpus sylvestris
POIRETの名は、平賀源内がその果実をよく似た
オリーブと見まちがえ、当時
オリーブ油をポルトガルの油といったことから「
ポルトガルの木」としたことに由来している。
地中海沿岸地域では逸出したと思われる野生のものが見られる。
Olea europaea LINNAEUS subsp.oleaster NAGODI(異名
Olea olester HOFFMANNSEGG et LINK、Olea sylvestris MILLER.Olea europaea LINNAEUS var sylvestris
ROUY)の学名があてられ、和名に
コバノオレイフを用いている著書がある。樹に刺をもち、小枝に稜があり、果実が小さくて食べられない。栽培種の台木に用いられる。
3.オリーブの形態
高さ2~10mの常緑小高木で、ときに高さ18m、直径1mまでになるものがある。寿命が長く、マジョルカ島に樹齢約1,000年のものが現存している。大きい枝を不斉に分岐し、樹幹部分は短い。年とともに樹幹に凹凸が多くなり、樹皮は灰色、灰緑色などを
呈し、初め平滑であるが年を経て浅い縦の割れ目入り裂片化する。小枝は稜角があり、銀灰色の鱗片を密布する。
葉は十字対生する単葉で狭楕円形、皮針形など、長さ2~8cm、幅0.5~1.5cm)鋭頭ないし鋭尖頭で微凸端、基部は楔形、全縁で縁はやや反巻する。側脉は5~11対あるが明瞭でない。厚い革質で、上面は深緑色、光沢があり、やや銀灰色の鱗片がある。
下面は鱗片を密布して銀灰色または灰褐色を呈する。葉柄の長さは0.3~0.5cmである。
5~7月に開花し、長さ2~4cmの円錐花序を腋生する。花梗はきわめて短く、長さ0~1mmである。花は両性で小さく白色、黄白色、芳香がある。がくはコップ状で長さ1~1.5mm、4浅裂するかまたは切形に近い。花冠の長さは3~4mmで、筒部は比較的短
く、4ときに5~6個の裂片がある。雄ずいは2個で、花冠筒部の基部につき、花糸は扁平で短く長さ約1mm、葯は大きく長さ1.8~2mmである。雌ずいは1個で、子房は球形、無毛、花柱はきわて短く長さ約0.3mm、柱頭は頭状で2裂する。
6~9月に石果が熟し楕円形などで長さ1.2~4cm、藍黒色を呈する。種子は1個で長楕円形、先端が刺状に尖がり淡褐色を呈する。
樹は庭園樹、街路樹、生垣にも植栽される。
4.オリーブの材の組織、性質と利用
オリーブの材は散孔材で、辺・心材の区別は不明瞭、または心材の形成が不規則である。色彩に変化が多く、淡褐色、黄褐色、褐色、暗褐色または黒色に近いものがあり、ふつう濃淡の縞と模様がある。年輪は不明瞭である。木理はときに通直なものも
あるが、一般に不規則で交走するものが多く、肌目は精である。
道管は散在するが、単独のものは少く、放射方向に2~5個、またはそれ以上が接続しているものが多い。それらの配列は不規則で均等に分布しない。径は0.03~0.14cmくらいで小さい。単せん孔をもち、チロースが見られ、また黄褐色の内容物を含むも
のがある。材の基礎組織は真正木繊維が形成している。
軸方向柔組織では、周囲柔組織の発達が不規則で、ときに短い翼状柔組織となるものがある。ターミナル柔組織は明らかで放射方向に2~4細胞層で現れる。ほかに単独で散在する柔細胞もある。これらの細胞には黄褐色の内容物を含む。放射組織は1~2
、ときに3細胞幅、2~20細胞高である。その構成は異性で、単列部は直立細胞または方形細胞、多列部は平伏細胞からなる。これらは黄褐色の内容物を含んでいる。
材の気乾比重に0.83~1.12の記載があり、重硬またはきわめて重硬である。強度は大きく、とくに耐摩耗性が高く評価されている。
製材はかなり困難、乾燥は遅く割れが出ることがある。手加工および機械加工による切削はあつうあまり困難でなく、仕上げ面はきわめて良好である。心材の耐朽性は高い。
大きい材が得にくいので一般材になることはないが、建築の小部材、器具材などに用いられ、旋削・彫刻・寄木・象嵌による工芸品、玩具、土産物などに割合よく使われている。種子もまた装飾品などに用いられる。
5.オリーブ油とピクルス
果実からオリーブ油を搾る。その含油量は全果で40~70%、果肉で10~50%、種子で25~28%である。代表的な不乾性油で、1例では比重(15C)0.914~0.929、屈折率(20C)1,467~1,470、けん化価185~196、沃素価75~88、凝固点0~-
6Cで、10C以下では結晶性の固形物を析出して混濁する。その主成分はほとんどがオレイン酸のグリセリドで、ほかにリノール酸などのグリセリドが含まれる。
搾油は果肉のみのものおよび全果のものがあり、ヨーロッパで果実を堆積して自然醗酵をさせてから強く圧搾して得られる醗酵油があり、これは食用に向けられる。一番絞り油は淡黄色、金黄色で食用・薬用・化粧用など、二~三絞り油は緑色を帯びて
いる。二番絞り油は一番絞り油と同様の用途に、三番絞り油は工業用となる。
食用油は綿実油、ゴマ油、ラッカセイ油、カラシ油、ナタネ油などで偽和されることも多い。食用はフライ油、魚類の油漬け、ドレッシング、マヨネーズなどとなり、薬用は軟膏、カンフル注射液の調整、皮膚保護剤、擦剤原料などである。化粧用は香
料、頭髪油、石けん材料など、工業用は毛織物、人絹製造の仕上げなどに用いられる。
ピクルスは成熟前のまだ緑黄色のものを苛性ソーダ溶液で脱渋処理をし塩漬けにしたもので、欧米を主にして広く食卓に載せられている。
オリーブの栽培品種はきわめて多く数百といわれている。油用では「Nevadillo
Blanco」、「Coratina」、「Frantoio」、「Maurino」、「Lucca」など、ピクルス用には「Ascolano」、「Manzanillo」、「Cusco」など、油・ピクルス兼用には「Mission」などがあり、わが国へは「Mission」、「Manzanillo」、「Nevadillo
Blanco」、「Lucca」などが導入されている。
6.オリーブの文化史
オリーブは紀元前約3,000年の頃から地中海東方地域で栽培された。紀元前1,500年のクレタ島の壁画に
オリーブの枝が画かれ、発掘された前1,300年頃のエジプトのツタンカーメンの棺や銀器にも
オリーブの模様が扱われている。
『旧約聖書』創生記に記
述するノアの箱舟のところでは、洪水がおさまってきたとき、ハ卜を放したら
オリーブの若葉をくわえて帰ってきたので、水がひいていることがわかったとある。その他、聖書には度々
オリーブの記述がある。
ギリシャ神話に次の話がある。女神アテナと海神ポセイドンがアテネの支配をめぐって争ったとき、ポセイドンは鉾の1撃で山上に泉を出現させ、アテナは山上に
オリーブを芽ばえさせた。この判定はアテナの勝利となって、それから
オリーブがアテネ
の町のシンボルになったという。そのほかギリシャではオリンピック競技の勝者はこの葉で飾られるなど、ヨーロッパ諸国で平和・豊穣の象徴とされ、絵画、工芸その他にモチーフとして多く用いられてきている。オリーブの花言葉は平和である。国連旗
はオリーブの枝葉を画き、わが国では香川県の県の木、県の花に
オリーブが選ばれている。第一次と第二次世界大戦後の各国の郵便切手にオリーブの若枝や苗木の植栽などのデザインのものが多く発行されている。わが国では第二次大戦後の新生タバコ「
ピース」にオリーブの葉をくわえたハトのデザインが私達の目に親しい。
欧米の文芸には
オリーブがしばしば現れる。わが国では新しい感覚の文学の対象となっている。
宝石のごとき薄青の実をつけしオリーブの上に瀬戸の海凪ぐ 安立スハル
船の笛オリーブ摘める岬過ぐ 四郎