ボンゴシ属の樹木
1.ボンゴシ属
ボンゴシ属(
ロフィラ属)
Lophiraは
オクナ科
Ochnaceaeに属する。熱帯アフリカのセネガルからアンゴラに至るギニア湾岸地域、東方へは中央アフリカ、ザイール、スーダン、ウガンダに至る降雨林およびサバンナに広く分布する。2種があるのみであ
る。
名称は主要樹種
ボンゴシLophira alata BANKS ex GAERTNER fil.の名称がそのまま用いられると思われるが、おもなものを挙げると、一般に
bongossi、ekki、azobe、英名は
ironwood、African oak、独名は
Eisenholz、westafrikanische
Eiche、仏名は
azobeとしてよいであろう。
大きいものは
ボンゴシで高さ60m、直径1.9mまでになるものがあり、一般に小高木ないし大高木である。おおよそ常緑であるが、乾季に一時落葉する。全株無毛である。真の板根は出ない。葉は互生する単葉で、細長く、全縁、側脈はきわめて多数が顕
著な中肋の両側に羽状に広い角度で出て、平行密接する。通常光沢ある薄い革質である。若い時には紅色を呈する。成葉は葉柄があり、托葉をもつが早落性である。
円錐花序を頂生し、比較的大きい装飾的な白色ないし黄色の花をつける。やや長い花梗をもつ。花は両性花で、5数性、ほぼ放射相称である。がく片は5個で離生、花弁も5個で離生し、雄ずいは多数で、葯が長い。雌ずいは1個で、子房は細長で円錐形な
どで、子房上位、花柱は短い。果実は小さい円錐形の堅果で、基部に宿存したがく片をつけるが、うち2個は不同長に大きくなって革質の翼となり、果実中には細長い種子1個を含む。
材の組織、性質および材その他の利用については主要種
ボンゴシの項に記す。
2.ボンゴシの分布と名称
ボンゴシLophira alata BANKS ex GAERTNER FIL.(異名
Lophira alata BANKS ex GAERTNER FIL.var.alata、Lophira alata BANKS ex GAERTNER FIL.var.procera BURTT‐DAVY、Lophira procrera A.CHEVALIER、Lophira africana BANKS ex
G.DON、Lophira simplex
G.DON)は
ボンゴシ属
Lophiraの分布範囲とほぼ同一、すなわち、熱帯アフリカのセネガルからアンゴラに至るギニア湾岸地域および東方内陸には中央アフリカ、ザイール、スーダン、ウガンダにわたって分布する。この地域内の降雨林の主要樹木の一つで
あるが、またサバンナにも生ずる。
異名にあげた
Lophira alata BANKS ex GAERTNER FIL.var.alataは降雨林に生ずる大高木型のものに、
Lophira alata BANKS ex GAERTNER FIL.var.procera BURTT-DAVYまたは
Lophira procera
A.CHEVALIERはサバンナに生ずる小ないし中高木型のものにあてられることがある。
英名は
ironwood、red ironwood、iron post、African oak、red oak、scrubby oak、bongossi、独名は
Eisenholg、westafrikanische
Eiche、Bongossi、仏名は
azobeといい、各地方名はシエラレオネで
millai、meiui、hendui、endwi、リベリアで
hendwi、endwi、コートジボアールで
azobe、bongossi、ガーナで
ekki、kaku、asora、azobe、ナイジェリアで
ekki、eba、puru、obven ren-
ren、eleba、akufo、aba、enwan、kabaniko、カメルーンで
azobe、okoga、赤道ギニアで
akoga、bongossi、ガボンで
akogha、akoura、ザイールで
bonkaleなどという。わが国では
ボンゴシの名が多く用いられている。
3.ボンゴシの形態
ほぼ常緑であるが、乾季に一時的に落葉する。降雨林では高さは通常40、ときに60mまで、直径は通常60cm~1m、ときに1.9mまで、枝下20~30mの大高木になるが、サバンナに生ずるものは通常高さ10~15mである。樹幹は円柱状で通直またはやや屈曲と
きに捩れがある。基部に多少の根張りが出るが、ふつう板根は発達しない。樹皮は紅褐色から暗褐色を呈し、厚さ1~2cmほどで、薄い鱗片状になって剥落する。
葉は小枝の頂端付近に互生して群着し、単葉である。倒皮針形から狭い倒卵形で、長さ8~25ときに40cmまで、幅3~10cm、円頭で、多くは先瑞が僅かに凹入し、基部は楔形を示す。薄い革質、全縁でやや波うつ。中肋はきわめて顕著で、これからきわめ
て多数の細い側脈が広い角度で出て、密接して平行する。無毛である。葉面にしばしば虫エイがつく。葉柄の長さは0.5~2.5ときに4cmまである。幼令木の葉はきわめて大きく、長さ100cm、幅10cm以上になるものがあり、しばしばほとんど無柄である。托
葉は三角形で早落性である。サバンナでは乾季にしばしば火災にあうことがあるが、その場合は地中に残った根株から萌芽する。
小枝に頂生して円錐花序をつけ、長さ15~25cmで、無毛である。花は両性花で、5数性、径は2.5~4cmで、よい香りがある。がく片は5個で、うち3個は幅が広い。花弁は5個が離生し、広い倒卵形で、先端は浅く広く凹入する。白色ときに黄色を呈する。
雄ずいは多数、雌ずいは1個である。
堅果は細長な円錐形または瓶形で、長さ2.5~4cm、基部の幅は1.2cmほど、宿存してつくがく片のうち、2個は大きくなって不同大の翼となる。1個の長さ5~10cm、幅1.5~3cm、他の1個は長さ2.5~4cm、幅約0.8cmである。種子は1個で長い卵形を呈する。
4.ボンゴシの材の組織
散孔材。辺・心材の区別は明瞭で、辺材の幅は5cmほど、紅白色、薄褐色などである。心材は紅褐色、褐色、紫褐色、暗紅褐色、暗褐色などを呈する。生長輪は不明瞭である。木理は通直または不規則、ときに交定し、肌目はほぼ精である。光沢は少な
い。特別な匂いと味はない。縦断面で、道管内の白色充填物による白い筋が見られるのが特徴的である。
材の顕微鏡的構成要素が占める材構成割合を求めたものに、道管7.7~10.6%、繊維57.2~60.8%、軸方向柔組織17.7~20.5%、放射組織12.3~14.0%が報告されている。
道管は単独およびおもに放射方向に2~3ときに4個が接続し、分布数は1~9/mm2である。単独道管の断面形は楕円形、卵形などで、道管の径は0.06~0.40mmである。せん孔板は水平ないし少し傾斜し、単せん孔をもつ。接続道管の間の相互壁孔は交互配
列をし、ベスチャード壁孔である。その径は小さく、0.004mmほどである。道管と放射組織との間の半縁壁孔対はこれに似ている。道管中に白色から黄白色の内容物を含んでいるものが多く、ときに紅色のガム様物質を含んでいるものが見られることがある
。
道管の周辺に少数の周囲仮道管(道管状仮道管)が存在し、その径は0.04~0.12mmである。
材の基礎組織を形成するのは小い有縁壁孔をもつ繊維状仮道管で、長さは1.7~2.9平均2.4mmほどで長い。径は0.01~0.025mm、壁厚は0.005~0.009mmで厚い。
軸方向柔組織では、帯状柔組織が明瞭で、放射方向に2~8細胞層、出現間隔は繊維の10~20細胞層で、やや波状を呈し、道管のほとんどがこの帯状柔細胞に接触している。ほかに鞘をなさない不完全な周囲柔組織ないし繊維組織中に単独で散在する柔細
胞が少数存在する。柔細胞の径は0.01~0.04mm、壁厚は0.001~0.0025mmほどで、細胞内に濃色の内容物を含むものが多い。また軸方向に鎖状に連なる結晶を含む多室結晶細胞が存在する。
放射組織は1~4、多くは2細胞幅、2~35細胞高である。構成はほとんどが平伏細胞からなるほぼ同性である。細胞内に濃色の内容物が多い。シリカは見られない。
5.ボンゴシの材の性質
気乾比重に0.80~1.15の範囲の記載があり、1.00~1.10程度のものが多い。材質数値の例をあげる。全乾から飽水までの金膨張率は接線方向8.3~10.8%、放射方向6.7~9.2%、軸方向0.2~0.7%、体積16.4~21.0%で大きく、収縮率もこれらに対応する
と考えられる。含水率15%内外で、縦圧縮強さ750~1,136kg/cm2、縦引張強さ2,170kg/cm2、横引張強さ(ただし含水率10%)34kg/cm2、曲げ強さ1,950~2,680kg/cm2、曲げヤング係数22.2~28.6×10(4)kg/cm2、せん断強さ110~200kg/cm2、衝撃曲げ
吸収エネルギー0.90~1.20kg・m/cm2、ブリネル硬さは横断面13.0~17.2kg/mm2、縦断面6.5~9.0kg/mm2を示す。
材の化学的組成は、セルロース44.4%、ペントザン13.7%、リグニン40.0%、樹脂・脂肪0.42%、灰分0.26%の例がある。
製材とあら木取りは乾燥後では硬くて困難になるので、乾燥前に行われる。乾燥はきわめて遅く困難で、表面割れ、木口割れ、狂いなどが生じやすい。乾燥後の寸法安定性は良い。乾燥材の切削加工は手工具では困難であるが、機械加工ではそれほど困
難でない。鉋削の仕上げ面は良好である。釘、木ねじの打ちこみには前穿孔が必要とされる。接着はほぼ良好である。良い塗装を得るには目止めが行われる。心材の耐朽性はきわめて大きく、アフリカ産材で最良材の一つとされる。キクイムシの食害はな
い。白蟻、海虫に対する抵抗性もおおよそ大きい。
6.ボンゴシの材その他の利用
材は重硬ないしきわめて重硬で加工に困難があるが、寸法が大きい原材の入手が量的にも容易であり、材の耐久性が大きいので、重構造材として広い用途がある。建築を含む構造材、パケットを含むフローリング・窓枠・階段・枠材・壁板などの建築造
作材、諸種の器具、紡織スピンドル・調革用の調車や制動装置その他の機械部材、車両、船舶、枕木・鉱山用材・木楝瓦・橋梁・柵柱などの土木材、デッキング・海中の柵柱を含む港湾・埠頭用材、丸木舟、旋削物その他の広い用途があり、また薪炭材に
も用いられる。熱帯西アフリカ諸国では重要木材の一つで、カメルーン、ガボンなどからヨーロッパ諸国への輸出がかなり多い。
近年わが国ではおもに橋梁用材としてその利用が広まりつつあるが、先年愛媛県津島町で10年ほど経過した公園の木橋が腐朽のため落下したことが大きな問題となった。これは水湿に対する考慮が不充分であったことによるもので、耐久性の大きい
ボン
ゴシといえども、橋梁部材の結合を含む構造、水湿に対する保全措置、使用中の管理と点検などに充分な考慮が必要とされる。
種子から得られる油脂はmenu oilとして食用され、また石けんの原料などに利用される。葉・樹皮・根が民間薬に用いられることもある。樹皮からの抽出物質であるポリフェノール類、シアン配糖体などの生理活性が検討されている。
7..Lophira lanceolata VAN TIEGHEM ex KEAY
Lophira lanceolata VAN TIEGHEM ex KEAYは熱帯アフリカのセネガルから東方ヘスーダン、ウガンダ、ザイールに分布し、湿性サバンナに多い。ナイジェリアで
namijin kadai、kochi kere、karechi
gori、apeh、iponhon、uwegbe、ugbebri、urogbe、okopiaという。
高さ12mまでの高木である。通常樹幹は短く、屈曲または捩れていて、枝は短い。樹皮は灰色を呈し、薄いコルク質の裂片になって破れて粗である。葉は線状倒皮針形で長さ15~45cm、幅2.5~7.5cm、円頭または先端が凹入し、基部は楔形を示す。質は
初め薄くて軟いが、後にやや革質となる。中肋と葉柄は同じ太さで著しく、葉柄の長さは1.2~2.5cmである。幼令木と萌芽シュートの葉は常に著しい葉柄をもつ。
小枝の葉叢中から長さ15cmまでの円錐花序を頂生する。各花の花梗の長さは約25mmである。がく片は5個あってそのうち外側の2個は他より大きく、先端は紅色を帯びる。花弁は5個で、広倒卵形など、幅は約12mmで、頂端は凹入し、白色を呈する。雄ず
いは多数で4環になってつき、橙黄色を呈する。葯は長い。雌ずいは1個で、子房は長く、花柱は先端が2叉の尖頭となった柱頭部分である。堅果は長さ3.2cmまで、径1.2cmまでで、先端は急に尖がって硬い。基部にがく片が宿存してつき、うち1個は長さ5
~10cm、幅1.2~3.2cmの大きい翼になり、初め鮮紅色を呈する。他に長さ2.5~3.5cmのものがある。果実の中に細長な円錐形の種子1個を含む。
材は紅色を帯び、
ボンゴシLophira alata BANKS ex GAERTNER FIL.と類似して重硬である。