オベチェ
1.オベチェの概要
オベチェ(サンバ)、
Triplochiton scleroxylon K.SCHUMANN(異名
Triplochiton nigericum SPRAGUE、Samba scleroxylon
G.ROB.)は
アオギリ科
Sterculiaceaeに属するが、ときに、別科の
オベチェ科
Triplochitonaceaeに独立させることがある。
オベチェ属
Triplochitonでよく知られているのはこの1種のみである。ギニア、シエラレオネからカメルーン、中央アフリカ、ザイー
ルに至るギニア湾岸地域の熱帯西アフリカに分布し、乾季がある落葉林に多く、また開放地に最も早く生ずる先駆樹種である。英名は
Afrian whitewood.Afrian
maple、材の取引名を
obeche、独名の取引名は
Abachiで、コートジボアールで
samba.ofa、ガーナで
wawa、pataboa、ナイジェリアで
obeche、arere、abachi、dichitin、okpobo、カメルーン、ザイールで
ayous、中央アフリカで
bado ayusなどという。
高さ65m、直径2mまでになる大高木で、乾季に一時落葉する。樹幹は通常通直で円柱状またはやや角ばり、樹幹に鋭角でつく高さ8mまでの大きい板根が出る。枝下は40mまでに達するものがある。樹皮は灰色から黄褐色で、ほぼ平滑であるが薄片となって
剥げ、きわめて大きい樹で浅い縦の割れ目が入る。小枝は無毛である。葉は互生する単葉で、基部から5~7個の掌状脉を出し、掌状に5~7裂し、長さ・幅は7~20cmである。裂片は広卵形、三角形または長楕円形で、円頭ないし鋭尖頭でやや鈍瑞
、葉身の基部は心形を示す。無毛である。芽生、萌芽枝の葉はしばしば大きく、またより深く分裂する。葉柄の長さは3~10cmで、托葉は狭く弯曲し長さ2.5~5cm、すぐに脱落する。
長さ約10cmの円錐花序を出し、花序軸には星状毛がある。花は両性花で放射相称、がく片と花弁はそれぞれ5個ずつある。花弁は倒卵形で、長さ・幅ともに約10mm、白色で基部は紅紫色を呈し、密毛があり、花冠は皿状となる。ずい柱に推ずい30~46個
つくが、2個ずつが対になり、さらに鱗片状の退化雄ずいを5個、雌ずいを1個つける。子房は5個の心皮からなり有毛である。果実は1~5個の分果からなる。各分果は翼果で、その室部は平らな楕円形、長さ約2cm、翼はその片側につき斜めの長楕円形から
倒卵形で長さ4~6cm、その内縁は厚い。
2.オベチェの材の組織
散孔材。辺・心材の区別は不明瞭で、辺材が認められる場合は、その幅は7.5~15cmである。黄白色から淡黄褐色を呈し、外気にふれるとやや黄味を増す。生長輪は不明瞭であるが認められる。木理はやや交走するものが多く、ときに通直、肌目は中位
からやや粗である。生材では不快な匂いがあるが、乾燥すると消失する。味はない。材面をよくみるとリップルマークを認めることができる。大径木ではしばしば中心に脆心材をもつ。
材の顕微鏡的構成要素が材を構成する割合を求めた例では、道管9.0%、繊維28.1%、軸方向柔組織41.0%、放射組織21.9%で、繊維が少く、柔組織が多いことが著しい。
道管は単独および放射方向ときに団塊状に5個までが接続し、単独のものが多い。分布数は2~6/mm2である。単独道管の断面形は楕円形などで、道管の径は0.04~0.32mmを示す。せん孔板は水平ないしやや傾斜し、単せん孔をもつ。接続道管の間の有縁
壁孔は交互配列をし、その径は0.006~0.008mmである。道管と放射組織との間の半縁壁孔対もこれに似ている。道管内にふつうチロースが見られるが比較的少く、ときに見られないものがある。
材の基礎組織は構成割合にあげたように、繊維と軸方向の短接線柔組織とで構成し、横断面でみると、両者が放射方向に1~2、ときに3細砲層ごとに交互に積層し、柔組織の方が多い。これらの接線方向にのびる帯状線はやや波行し、ときに分断する。
繊維は繊維状仮道管または真正木繊維で、長さ1.7mm、径は0.01~1.02mm、壁厚は0.002~0.003mmである。縦断面でみて層階状配列をする。
軸方向柔組織では、前記のように短接線柔組織が材の基礎組織を形成して顕著であるが、また1~2細砲層の周囲柔組織も存在する。縦断面でみて紡鍾形柔細胞が多く存在し、これと柔細胞ストランドは層階状配列をする。柔細砲の径は0.015~0.04mm、壁
厚は0.001~0.002mmである。
放射組織は1~5ときに8細胞幅まであり、3~40細胞高である。その構成は異性で、軸方向両瑞1~2層および周縁の一部は丈が高い大型細胞の層、他は丈が低く放射方向の長さが長い小型の平状細胞の層である。丈が高い大型細胞は直立細胞、方形細胞ま
たはおおよそPterspermum型のタイル細胞であるが、高さはやや不規則である。放射組織もやや不規則な層階状配列をする傾向が見られる。放射組織と軸方向柔組織に菱形の結晶が存在し、シリカは含まれない。
3.オベチェの材の性質と材その他の利用
材の気乾比重に0.30~0.50の記載がある。収縮は少く、材の強度は比重に対する割合より大きい。
製材、切削加工は容易であるが、鉋削などでむしれを少くするためには薄く鋭い刃を使う要がある。乾燥は迅速で、狂いや割れなどの損傷が出ることは少い。乾燥後も寸法が比較的安定している。含水率が多いと青変色がきわめて出やすいので、原木か
ら製材、乾燥を速く行う必要がある。釘と木ねじによる結合は普通に行われるが保持力は小さい。接着、塗装にはおおよそ問題がない。蒸し曲げもかなり良好に行われる。ロータリーおよびスライス単板切削は良好である。木材加工工場でぜん息、くしゃ
みや肺の充血などの健康障害を起こすことがあると報告されている。材は耐朽性がなく、またヒラタキクイムシ、白蟻に対する抵抗性もない。丸太で青変色、ピンホールの食害が生じやすい。
大材があり量的にまとまって出材され、軽軟な白色材で加工しやすいので、ヨーロッパ市場を主にして、かなり多く輸出されている。建築内装・造作材、実用家具および引出し側板その他の家具内部材、箱と包装材、義肢などを含む成型材、種々の器具
材その他用途が広く、ベニヤおよび合板、とくにブロックボードの形で利用されることが多い。特殊な用途ではベニヤのままで果物などの輸送箱にポプラの代用とされている。近年イタリアでこの材による人工杢化粧単版の開発が行われ、現在各国で製造
されるようになっている。これは原材からベニヤを切削し、漂白、染色を行って、多数重ねて積層接着してフリッチを作り、次にこれを斜めに薄くスライスしてベニヤにし、積層接着して二次フリッチを作り、さらにスライスして化粧単板の製品としたも
のである。現地では各種用途のほか丸木舟にも用いられてきた。
樹皮は現地民の家屋の屋根や壁材に用いられ、また雨季に大量に発生して葉につく蛾の幼虫は食用とされる。
平井先生の樹木木材紹介TOPに戻る