イトスギ属の樹木(その6)
25.メキシコイトスギの概要と材の利用
メキシコイトスギCupressus lusitanica MILLER(異名
Cupressus glauca LAMARCK、Cupressus lindleyi KLOTZSCH、Cupressus pendula L'HERITIER、Cupressus sinensis LEE ex
GORDON)はメキシコ、ガテマラ、ホンジュラスに生ずる。世界各地で観賞用に植栽されるが、またアフリカ東部、南部を始め熱帯、亜熱帯の山地で造林用に広く用いられている。わが国へは明治末期に渡来した。英名は
Mexican cypress、Portuguese
cypress、cedar of Goa、独名は
mexikanische Zypresse、Zeder von Goa、仏名は
cypres de Mexiqueという。
高さ30mまで、直径1mまでになる高木で、若令木では樹冠は円錐形であるが、高令木では多少平頂となる。枝は広く外方に開出し先の方で下垂する。樹皮は紅褐色を呈し、縦の溝が入る。また長く狭い裂片になって剥げる。鱗状葉をつける小枝は1平面内
にはなく不規則に配列し、断面は4稜形で径は1mmである。鱗状葉は卵形などで長さ1.5~2mm、小枝にかたく圧着し、先端は長く尖がり頂瑞は離生する。青緑色を呈し白粉を被むる。背側に明瞭な腺体はない。
球果は球形で比較的小く、径は1~1.5cm、熟して暗褐色となって白粉を被むり、直ちに裂開する。種鱗は6、8または10個で、楯形の上面中央に曲がった刺状の突起をもつ。稔性の各種鱗に種子が8~10個ずつつき、褐色を呈し、樹脂腺点があり、両側に
狭い翼をもつ。
心材は淡褐色、淡紅褐色を呈し、木理は通直、肌目は精で均質である。材はやや軽軟で造林木での気乾比重に0.44~0.48、生材から気乾までの収縮率は接線方向3.1%、放射方向1.7%の記載がある。材質数値の例として南アフリカの植栽木についての
ものが、縦圧縮強さ427kg/cm2、曲げ強さ714kg/cm2、曲げヤング係数8.9×10(4)kg/cm2、ヤンカ硬さは縦断面で304kgを示す。心材の抽出成分の中にトロポロン化合物のBツヤプリシン(ヒノキチォール)が含まれる。
製材、乾燥、切削その他の加工は容易で、耐朽性は高い。原産地では重要な針葉樹材であるが、供給量が限られている。ケニアその他の熱帯、亜熱帯の山地に造林されたもので生長がかなり良いものがあり、供給量も多くなっている。例えばケニアでは
East African cypressと称して市場で扱われている。建築、家具、器具、箱と包装材、また合板、パルプ、燃材としての用途が開けてきている。
26.メキシコイトスギの栽培品種と変種
メキシコイトスギの栽培品種の例をあげる。
(1)
Cupressus lusitanica MILLER cv.Adelaide Gold枝先近くの小枝と葉は金黄色を呈する。
(2)
Cupressus lusitanica MILLER cv.Glauca:英名を
blue Mexican cypressという。葉は灰青色を呈し、腺体は明瞭である。
(3)
Cupressus lusitanica MILLER cv.Glauca Pendula:前者同様で、小枝は下垂する。
(4)
Cupressus lusitanica MILLER cv.Nana:生長がきわめて遅く、樹冠は密集した円頭のドーム形となる。葉は青緑色を呈する。
メキシコイトスギの変種に次のものがある。
ベンサムヒノキCypressus lusitanica MILLER var.benthamii CARRIERE(異名
Cupressus benthamii ENDLICHER、Cupressus lusitanica MILLER var.skinneri HENRY、Cupressus knightiana PERRY et
GORDON):メキシコの海抜1,800~2,400mの山地に生じ、英名をBentham
cypressという。高さ20mまでの高木で、枝は規則的な間隔で出て上向し、樹冠は狭い円錐形となる。小枝は対生する2列は並び、鱗状葉は表裏葉と側葉とで形が異なり、側葉は狭くて顕著な先端があり、表裏葉は扁平で鋭頭を示す卵形で、著しい腺体をも
つ。
27.レイランドヒノキ属とレイランドヒノキ
レイランドヒノキ属×
Cupressocyparisは
ヒノキ科
Cupressaceaの元来きわめて近縁な
イトスギ属
Cupressusと
ヒノキ属
Chamaecyparisの属間雑種で、
レイランドヒノキが代表的なものである。
レイランドヒノキ×Cupressocyparis leylandii DALLIMORE et JACKSON(異名
Cupressus×leylandii JACKSON et DALLIMORE)は
モンテレーイトスギCypressus macrocarpa HARTWEGと
アラスカヒノキChamaecyparis nootkatensis
SUDWORTHの自然雑種を含むが、多くは人工的な交配雑種で、観賞用に多くの栽培品種が育成されている。英名をLeyland cypressという。
形態に両親の形質をもつが、大型となり、一般に種々の性質すなわち耐寒性、耐乾性などが高くなり、生長が速くて枝を長く伸ばす。高さは30mまたは以上になり、樹冠は密で円錐形ないし円柱形を示す。葉は鮮青緑色で美く、
アラスカヒノキの形、大
きさと配置にきわめてよく似るが、小枝はより細長である。
球果の径は2cmまでで、種鱗はふつう8個あり、各種鱗に種子が5個ほどつく。種子には
モンテレーイトスギのような微小な樹脂瘤をもっている。
栽培品種の例をあげる。
(1)
×Cupressocyparis leylandii DALLIMORE et JACKSON cv.Castlewellan Gold:樹勢が強い。新葉は良い金黄色を示す。
(2)
×Cupressocyparis leylandii DALLIMORE et JACKSON cv.Green Spire:樹冠は密な円柱形で、葉は鮮緑色を示す。
(3)
×Cupressocyparis leylandii DALLIMORE et JACKSON cv.Haggerston Grey:樹冠は円柱形で、葉は灰緑色であるが、新葉は鮮黄色を示す。
(4)
×Cupressocyparis leylandii DALLIMORE et JACKSON cv.Hyde Hall:ブッシュ状の矮性で、葉は緑色である。
(5)
×Cupressocyparis leylandii DALLIMORE et JACKSON cv.Lighton Green:樹はふつう狭い円柱形で、新葉は黄緑色から鮮緑色となる。
(6)
×Cupressocyparis leylandii DALLIMORE et JACKSON cv.Naylor's Blue:樹冠は円柱形で、葉は灰青緑色を示す。
(7)
×Cupressocyparis leylandii DALLIMORE et JACKSON cv.Robinson Gold:樹冠は円錐形でコンパクト、葉は黄色を呈する。
(8)
×Cupressocyparis leylandii DALLIMORE et JACKSON cv.Silver Dust:葉は黄白色の斑が入る。
28.その他のレイランドヒノキ属の樹木
レイランドヒノキ属
×Cupressocyparisにはなお人工交配による次の属間雑種があるが、
レイランドヒノキ×Cupressocyparis leylandii DALLIMORE et JACKSONのように普及はしていない。
(1)
×Cupressocyparis notabilis MITCHELL:
グラブライトスギCupressus arizonica GREENE var.glabra LITTLEと
アラスカヒノキChamaecyparis nootkatensis
SUDWORTHの人工雑種で、両親の中間の性質を示す。高木で、樹冠は狭い円錐形を呈し、枝は上方に曲がり、小枝は羽状に配列し、下垂する。鱗状葉をつけ青緑色を呈する。球果は球形で径1.2cm、種鱗が6または8個あり、楯形の上面に曲がった刺状突起を
もつ。
(2)
×Cupressocyparis ovensii MITCHELL:
メキシコイトスギCupressus lusitanica MILLERと
アラスカヒノキChamaecyparis nootkatensis
SUDWORTHの人工雑種で、生育形は
アラスカヒノキの方に似る。小枝は同一平面上に羽状に分岐し、葉は深青緑色を呈し、先端は外方に開出して鋭頭、下面に白色の気孔帯がある。
(3)
×Cupressocyparis cv.Stapehill Hybrid:
モンテレーイトスギCypressus macrocarpa HARTWEGと
ローソンヒノキChamaecyparis lawsonina PARLATOREの雑種で、樹冠は円柱形で丈が高い。葉は深暗緑色で、下面は明らかに灰青色を示す。