カポック属の樹木(その2)
6.カポックの形態(その2)
乾燥期に落葉し、花は葉よりも早く、または同時に出る。花は葉腋に数個が束生または単生し、花梗の長さは2.5~5cmである。
両性花で、乳白色ときに淡紅色、がくは鐘状で長さ1.25~2cmの筒部があり先は不規則に数片に浅裂する。
花弁は5個あっ倒卵状楕円形で長さ2.5~5cm、やや肉質で、外面に白色の長軟毛を密布する。
雄ずいは花糸の下端が合着して短い筒部をなし、その上は5個にわかれ、各頂部がさらにやや不等長にわかれて捩れた1~3個の葯をつける。
雄ずいは1個で、子房は無毛、花柱は細長く長さ2.5cm~3.5cm、柱頭はやや球状に膨れる。さく果は枝に下垂し、楕円形などで長さ7.5~20cm、
熟して基部から上方に向かい5片に裂開する。果片の肉壁面に長い白色~灰白色または褐色の綿毛を密布し、種子はこの綿毛に包まれている。
種子は100~150個あり、扁平な球形で径は約6㎜、種皮は褐色で革質、平滑である。
7.カポック材の組織
散孔材。辺、心材の区別はなく、黄白色から灰黄色、帯紅灰白色、淡黄褐色などを呈する。生長輪は認められるものが多い。
木理は通直または交走し、肌目は粗である。光沢はない。縦断面でリップルマークが見られるがときにやや不明瞭である。
材の顕微鏡的構成要素が材を構成する割合を求めた1例をあげると、道管7.7%、繊維20.7%、軸方向柔組織41.3%、放射組織21.3%である。
道管は単独のものが多いが、またおもに放射方向に2~3個ときに6個までが接続し、分布数は1~4/m㎡である。単独道管の断面形は円形か楕円形で、
その接線方向の径は0.19~0.43㎜である。せん孔板は通常水平に近く、単せん孔をもつ。接続道管の間の有緑壁孔は交互配列をし、
径は0.009~0.010㎜を示す。チロースはあるものも、見られないものもある。
材の基礎組織はふつう不明瞭な壁孔緑の有緑壁孔をもつ繊維状仮道管と短接線柔組織とが放射方向にほぼ1細胞層の薄い帯状になって交互に積層したもので形成されている。
繊維状仮道管の長さは1.6(1.3~2.1)㎜、径は0.01~0.03㎜、壁厚は0.004㎜ほどである。これらは縦断面で端末をほぼ揃えて層階状配列する傾向のものがある。
軸方向柔組織はその量が多く、周囲柔組織は1~3細胞層、短接線柔組織は放射組織の間を梯子状になって基礎組織の大きい部分を形成している。
ターミナル柔組織と思われるものが認められることがある。縦断面で見た柔細胞ストランドは、ほぼ4細胞からなり、ほぼ同長でその端末をおおよそ揃えて配列しているので、
材面で肉眼で見た場合のリップルマークのもととなる。柔細胞内に樹脂様物質または小さい結晶を含んでいる。
放射組織は高さの低い1~2細胞幅のものからおもに7~15細胞幅で100細胞高以上のものがある。その構成は異性で、単列のものおよび多列のものの軸方向の上下両端層、
周辺で鞘細胞をなすものは直立細胞または方形細胞、他は平伏細胞で構成されている。細胞内には樹脂様物質、細かい結晶を含む。
傷害垂直細胞間道が現れるものがある。通常その径はかなり大きく、またかなり長く続く。周囲の組織より濃色を呈するので肉眼で認めることができる。
8.カポックの材の性質と利用
材の気乾比重に0.18~0.48の範囲の記録があるが、0.25~0.35程度が多い。その他の材質数値には次の例がある。
生材から気乾までの収縮率は接線方向4.3%、放射方向3.0%、縦圧縮強さ174~242kg/c㎡、曲げ強さ357~496kg/c㎡、曲げヤング係数4.3~5.7×10(4)kg/c㎡。
材が軽軟なので製材、切削加工はきわめて容易であるが、鉋削面はけば立ちが出やすい。乾燥は速く狂いは少ない。施削、型削では割れが出る傾向がある。
耐朽性はきわめて低く、また虫害を受けやすい。
材の利用はバルサOchroma pyramidale URBANに準じ、軽量、成形構造物、熱や音の遮断の目的に適しているが、バルサより比重が大きいのでその性質は劣る。
また近年はプラスチックスで軽量、高い絶緑性のものが容易に製作されるので、この方面の用途は著しく少なくなっている。
一般的にカポックの材の用途をあげると、軽構造、造作材、船室のような遮音性のパネル、箱と梱包材料、模型、玩具、彫刻、工作品、家具の裏板、
合板のコアーなどがあり、またパルプ、ファイバーボード、パーティクルボードの原料も考えられる。現地民はカヌー、筏、太鼓の胴などに用いる。
9.カポックの果実の綿毛その他の利用
この樹の主要な生産物は果実の綿毛である
カポックkapokで、またこれを採取する目的で植栽される。この綿毛は長さ1.5~3cm、中空で壁は薄く、きわめて軽く、
また弾力に富み、吸湿せず耐久性がある。毒性があるので虫害も受けない。ふつう果実がまだ裂開しないうちに採取し乾燥して裂開させる。
綿毛は種子につかず果皮の内面についているので分別が容易である。その用途は枕、クッション、布団、椅子の座面などの充填物にすることが最も多い。
繊維の面が平滑なためこの綿毛単独では紡績に適さないが、綿その他の繊維と混織の各種の織物を作ることができる。
浮力が大きいので浮輪などの水中救命具の充填物、熱、音、電気の絶縁性がすぐれているので、航空機の壁体や電気絶縁紗の製造に用いられる。
また引火性を利用して綿火薬の製造原料とする。世界の熱帯各地で生産され、戦前はジャワ、スマトラ、フィリピンなどが多かったが、
近年はタイ、カンボジアなどが多くなっている。
キワタBombax malabaricum DE CANDOLLEおよび同属の他種の果実の綿毛もカポック同様の用途に用いられるが、
その性能は劣っている。これらもカポックの名で扱われていることがある。
種子を圧搾してカポック油が得られる。収油率は乾燥種子の19~24%で半乾性を示す。綿実油代用で食用となり、また灯油、機械油、石けん製造原料にもなる。
その搾油粕は種子そのものとともに牛、羊の飼料となる。新芽と若い果実は野菜とされる。薬用では樹皮は煎液で腹水や水腫のときの利尿剤、樹脂は下痢止めと利尿に、
果実は収斂剤、根は強壮剤に用いられる。樹はコーヒーやカカオの庇陰樹に、また庭園樹や行道樹に植栽され、蜜源としても利用される。
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