ボルネオテツボク
1.ボルネオテツボクの概要
ボルネオテツボクEusideroxylon zwageri TEIJSMANN et BINNENDIJKはクスノキ科
Lauraceaeに属し、スマトラ、バンカ島、ビリトン島、ボルネオ、フィリピンのスル諸島、パラワン島に生ずる。英名は
Borneo
ironwood、ironwood、サバ・サラワク・ブルネイ・インドネシアで
belian、billian、bulian、またサバで
in muk、tambulian、インドネシアで
ulin、onglen、tulian、tebelian、badjudjang、フィリピンで
tambulian、sakian、biliranなどという。
ボルネオテツボク属
Eusideroxylon はこの1種のみからなる。以前ボルネオ北部からもう1種
Eusideroxylon malagangay SYMINGTONが報告されているが、現在は別属の
Potoxylon malagangay
KOSTERMANSとして扱われることが多い。このものの現地名はmalagangaiといい、心材は暗紅褐色などで、材は
ボルネオテツボクより軽く、強度も低く、耐朽力も小さいものである。
ボルネオテツボクは高さ40m、ときに50m、直径1.5m、ときに2.2mまでになる常緑大高木である。樹幹は通直で、枝下が20mまでのものがあるが、通常は、これより少い。下部にはときに僅かに溝があり、大きい板根は発達せず、基部は根のわかれた円く小
さい部分が多数うき上がって象の脚のような外観を呈し、また湿地では地上おおよそ2mまで多数の細い気根が出ていることがある。樹皮は灰褐色から紅褐色で、浅い割れ目があり方形に近い小さい裂片になって剥がれる。小枝は僅かに角ばり、密に細綿毛
を布く。
葉は、互生する単葉で、楕円形~長楕円形、長さ15~30cm、幅5~11cm、全縁、鈍頭から短い鋭尖頭、基部は円形~浅心形、側脉は8~10対ある。革質で、上面は無毛、下面は大きい側脉上に有毛である。葉柄の長さは0.6~1.5cmで、托葉は無い。
花は腋生の円錐花序に密につく。長さ10~20cmで下垂し、短毛を密生する。両性花で、花梗の長さは3~11mm、花冠筒は浅く、花被片が6個あって2輪になり瓦重ね状である。長さ3~3.5mm、帯緑色、黄色または帯紫色で、外面に細軟毛があり、早落性で
ある。雄ずい群には腺体がなく、3個ずつが全体で4輪になる。外側の2輪は退化雄ずいで弁化しており長さ1.5mm、帯黄色で先端紫色を呈し縁毛をもつ。第3輪の3個は稔性の雄ずいで、太く、紅色または白色で淡紅彩がある葯をつける。葯室は4個で中間の2
個は外向、側方の2個はやや側向する。最内の第4輪3個は退化雄ずいで突錐形である。雌ずいは1個、子房上位で無柄、1室からなり胚珠1個を含む。子房から花柱に次第にテーパーし、柱頭は小さく円盤状である。
果実は石果様の偽果で果柄は太く、1つの果序に1個または2個がつく。完全に花冠筒の中に含まれ、または合着する。楕円形、卵形、ときに球形に近く、長さ7~16cm、幅5~9cm、熟して光沢ある黒色を呈する。中に種子1個が含まれ、きわめて大きく
、種皮はきわめて硬くて溝がある。
2.ボルネオテツボクの材の組織
散孔材。辺・心材の区別は明瞭である。辺材は幅が3~5cmで淡黄褐色、心材は始め黄褐色で空気にふれて次第に暗色となり褐色、暗褐色、暗紅褐色に変わる。生長輪は不明瞭である。木理は通直、ときに浅く交走し、肌目は中位からやや粗またはやや精
である。新鮮な材はレモンに似た匂いがあるという。高齢木ではときに空胴が見られる。
材の顕微鏡的構成要素が材を構成する割合を求めた1例では、道管9.0%、真正木繊維51.0%、軸方向柔組織15.7%、放射組織24.3%を示す。
道管は単独および2、ときに5個までがおもに放射方向に接続し、分布数は1~10/mm2、単独道管の断面形はおもに楕円形で、道管の径は0.04~0.32mmである。せん孔板は水平からやや傾斜し、単せん孔をもつ。接続道管の間の相互壁孔は有縁壁孔で交互
配列をし、その径は大きく0.008~0.012mmを示す。チロースがよく発達して心材の道管内を泡沫状になって埋め、ときに厚壁のものがある。
材の基礎組織は真正木繊維が形成するが、微小な有縁壁孔をもつ繊維状仮道管が見られるとの記載もある。繊維の長さは1.9(1.2~2.6)mm、径は0.015~0.04mm、壁厚は厚く0.005~0.012mmで、内腔はきわめて小さい。ときに繊維の両端部が分岐または
鋸歯状をなすものがあるとの記載がある。
軸方向柔組織では、翼状から連合翼状柔組織のものがよく発達し、横断面でみて、道管の上下で放射方向に0~5細胞層、道管を外れて11細胞層まである。散在する単独の柔細胞およびその数個か集合したものがあり、翼状柔組織などに接続したりする。
柔細胞の中には樹脂様物質を含む。大型の油細胞が普通の柔組織の中に散在してあり、横断面では放射方向に長い角ばった長円形など、縦断面では樽形を呈し、紅色の内容物をもつ。通常の柔細胞の径は0.015~0.05mm、壁厚は0.0015~0.0025mm、油細胞
の長さは0.07~0.16mm、放射方向の径は0.06~0.15mm、接線方向の径は0.02~0.07mm、壁厚は通常の柔細胞より薄く0.001~0.0015mmである。
放射組織は1~3、ときに5細胞幅まであるが、単列のものは少い。高さは変化が多く1~95細胞高である。その構成は平伏細胞からなるほぼ同性であるが、上下両端1~2層、ときに中間でもやや高さが大きく放射方向の長さが短いものが不規則に混じる。
細胞内に樹脂様物質を含む。全体を通じて結晶、シリカは見られない。
3.ボルネオテツボクの材の性質と利用
材の気乾比重は、0.80~1.29の範囲の記載があり、平均的には1.05程度と考えられきわめて重硬である。生材から気乾までの収縮率には、接線方向4.5%、放射方向2.0%の報告がある。強度的数値の1例をあげると、気乾比重1.04のもので、縦圧縮強さ911k
g/cm2、接線方向の部分圧縮比例限度21lkg/cm2、曲げ強さ1,886kg/cm2、曲げヤング係数18.7×10(4)・kg/cm2、放射方向のせん断強さ185kg/cm2、衝撃曲げ吸収エネルギー0.84kg・m/cm2、接線断面のプリネル硬さ6.1kg/mm2である。
材の科学的組成では、セルロース58%、ペントザン12.5%、リグニン29%、冷水抽出物2.9%、温水抽出物6.8%、アルコール・ベンゾール抽出物5.2%、1%NaOH抽出物18.2%、灰分1.0%を示す。
製材は材がきわめて硬いのと油質物の堆積で困難であり鋸歯の鈍化が速い。乾燥は遅く困難で、生材含水率が低いにもかかわらず(例、約38%)表面割れと木口割れが出やすい。厚さ2.5cmの板の天然乾燥で含水率16%となるのに約75日を要するとの記
載がある。インドネシアで人工乾燥条件として温度60->80C、湿度85->65%が提示されている。鉋削、型削、穿孔、ほぞ取り、旋削および研削は条件を適当に選べばおおよそ良い結果を示す。材がほぼ通直なものであればまさ目に沿っての割裂性がよい
ので、屋根用シングルを作るのに適している。接着にはときに問題がある。スライスド単板の製作は困難で、前処理と切削角などの切削条件をとくに吟味して整えなければならない。パルプ、ファイバーボード、合板、パーティクルボードの製造には不適
であるとされている。材の耐朽性はきわめて大で、東南アジア地域での最高のものの一つとされている。土木用材、港湾用材として外気条件、接地条件下で長期間もち、特殊の用途のコショウ栽培の支柱、屋根用シングルで30年以上もつという。キクイム
シ、白蟻、海虫に対しても長期間の抵抗性があるが、辺材はキクイムシの食害を受ける。心材への防腐剤注入はきわめて困難である。
以上の性質から重構造物、家屋構造材、橋梁・枕木・高圧線電柱・パイリング・舗木・柵柱などの土木用材、港湾用材に最も適しており、また車両、船舶、器具、機械部材、家具、運動具その他にも広く用いられる。ことに現地民家屋の屋根シングルと
して古くから使用されていて、その為とくに樹が保護されていた。またインドネシアでは丸太の輸出も禁じられてきた。果実は有毒な物質を含み、現地では腫物の薬とされる。
現地で果実の大きさあるいは利用上の材質によって、いくつかの品種的なものを区別することがあるが、それらの違いおよび関連は明らかでない。