タマリンド
1.タマリンドの概要
タマリンド属(
チョウセンモダマ属)
Tamarindusは
マメ科
Leguminosaeジャケツイバラ亜科
Caesalpinioideae、または
マメ科を3科に分割独立させた場合の
ジャケツイバラ科
Caesalpiniaceaeに属し、
タマリンド1種のみである。
タマリンド(チョウセンモダマ、ラボウシ)
Tamarindus indica
LINNAEUSは熱帯アフリカ原産と考えられるが、きわめて古くからインドその他へ導入され、現在は全世界の熱帯および亜熱帯地域で広く植栽され、また野生化したものも見られる。したがって各地での名称が多い。英名は
tamarind、tamarindo、Indian
date、独名は
indische Datteln、morgenlandischer Tamarindenbaumで、各地で
tamarindというほか、インドで
amli、imli、tenturi、ビルマで
magyi、タイで
makam、中国で
酸豆、酸悔、酸角、羅望子、羅晃子、酸果樹、九層皮果、マレーで
asam、asam
jawa、chelagi、インドネシアで
asam、asem、フィリピンで
asam、kalamagi、salamagi、sampalokなどの名がある。
ふつう高さ6~20m、大きいものは高さ35m、直径2.5mほどになる高木である。乾季の終わりに落葉を始め、全部が落ちない以前に新葉が出るので、おおよそ常緑樹としてよいであろう。樹幹はあまり通直でなく、しばしば捩れが出る。高令木では溝がで
きる。板根は出ない。樹皮は暗灰褐色で、若令木で割れ目があり、次第に裂片化して剥げ落ちやや粗い程度となる。葉は互生する偶数羽状複葉、小葉は7~20対で対生し、長楕円形などで長さ1.2~2.5cm、幅0.3~0.4cm、鈍頭、基部は円形~広い楔形で
左右不同である。質は柔らかく無毛、托葉は細小で早く脱落する。
花は腋生の総状花序および頂生の円錐花序につき花序の長さは5~10cmである。花径は2.5cmほど、がく筒は細い倒円錐形で皮針形のがく裂片が4個ある。花弁は本来5個あるが、上3弁のみが発達して覆瓦状につき淡黄色で紅色の条があり、下の2弁は鱗片
状に退化して雄ずい筒の基部にかくれている。稔性ある雄ずいは3個で、その花糸の下部は合体して鞘状になり、それに小形で刺状の退化雄ずいが3~5個つく。雌ずいは1個、子房に多数の胚珠を含み、柄はがく筒に沿着する。豆果は肥大した円筒状で長さ
6~20cm、やや圧扁し、まっすぐまたは弯曲する。熟して濃褐色を呈し革質で裂開しない。楕円形の種子1~12個を含む。
2.材の組織、性質と利用
散孔材・辺心材の区別は明らかで、辺材は厚く、心材はふつう小さい。辺材は黄白色でときに帯紅色の条斑があり、心材は暗褐色、暗紫褐色などである。木理は交走し肌目は精である。生長輪はほぼ明瞭から不明瞭なものがある。
道管は多くは単独であるが、またおもに放射方向に2~3、まれに4個が接続するものが現れる。分布数は6~12/mm2、径は0.05~0.18mmである。せん孔板は水平またはやや傾斜し単せん孔をもつ。接続道管相互の間の有縁壁孔はベスチャード壁孔で交互配
列をする。内容に樹脂様物質を含むものがある。基礎組織を形成するのは真正木繊維または不明瞭な有縁壁孔をもつ繊維状仮道管で、長さ1.07(0.55~1.45)mm、径は0.01~0.02mm、壁厚は0.003~0.005mmである。
軸方向柔組織のうち、道管孔を取囲む周囲柔組織はよく発達し3~8細胞層で、また接線方向に10細胞までのびる翼状柔組織になるものが多く、ときに結合して短い連合翼状柔組織となる。これらの中には5~30室からなる多室結晶細胞が点在している。タ
ーミナル柔組織は放射方向に4~8細胞層あり、また基礎組織中に単独で散在する柔細胞もある。柔細胞の径は0.015~0.04mm、壁厚は0.001~0.002mmである。放射組織は1細胞幅および一部2細胞幅のもの、両端部を除いて2細胞のものがあり、2~25細胞高で
ある。構成はすべて平伏細胞からなる同性である。
材の気乾比重に0.93~0.94の記載があって重硬である。鋸断・切削加工はやや困難で、天然乾燥で割れが入りやすい。仕上げ面は良好、曲げ加工はよくできる。心材は小さいが耐朽性はきわめて高く、また虫害に強い。
建築、家具、車両、船舶、工具の柄や砂糖・油の圧搾機器、農具・精米器具・木槌などの器具・機械、旋削物、井戸枠その他に用いられる。燃材として良好である。黒色火薬用の微粉木炭としては最高級のものが得られる。
3.果実その他の利用
豆果の果泥またはパルプと呼ばれる果肉の一部は褐色で軟く甘味と酸味がある。成分組成の1例では水分38.7%、蛋白質2.3%、脂肪0.2%、炭水化物56.7%、繊維1.9%、灰分2.1%で、甘味は果糖・ブドウ糖などにより、酸味は酒石酸・クエン酸・リンゴ
酸による。またビタミンBが多い。
果実は生食するほか、清涼飲料とすることも多い。そのほかチャトニィ・ジャム・シャーベット・シロップ・塩蔵品などに加工され、カレーその他の料理に酸味をつけるのに多く用いられている。それゆえタマリンドは熱帯各地で重要な果樹として集落
近くで多く植栽されている。加工品は市場に出され、インドからアラビアなどへ輸出もされている。
果肉はなお解熱、消化、緩下などの薬用に用いられ、また腫れものなどの外用薬にもする。過熟した果肉の酸分を利用して銅・真鍮を磨くのに使う。そのほか樹体の各部はいろいろな用途に使われて、日常生活にきわめて有用である。すなわち種子を油
であげたり、炒ったものを粉末にして食用し、またタマリンド油を採ることもある。果皮はウコン・ベニノキなどによる染色の定着剤にする。若葉と花は料理の酸味の調味料に、若葉はまた家畜の飼料とされ、ゾウがとくに好むという。樹皮は強壮薬に用
いる。
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