1.ハンカチノキ属とハンカチノキの分布および名称
ハンカチノキ属(
ハトノキ属、
オオギリ属、
ダビディア属)
Davidiaは中国では?桐属の名をあてる。所属は
ヌマミズキ科
Nyssaceaeまたは
ミズキ科
Cornaceaeとして扱われることがあるが、現在は以下に記す1属1種のみからなる
ハンカチノキ科(
ハトノキ 科、
ダビディア科)
Davidiaceaeと独立させることが多い。
ハンカチノキ(ハトノキ、オオギリ、ユウレイノキ、ダビディア)
Davidia involucrata BAILLON(異名
Davidia tibetana DAVID)は支那の湖北、湖南、貴州、四川、雲南の諸省の海抜1,500~2,000mの森林中に原産する。英名は
dove tree,Chinese
dove tree,handkerchief tree,pocket handkerchief tree,bract tree,davidia,
独名は
Taubenbaum,仏名は
arbre aux pochettierが用いられ、中国では
?桐、空桐、水冬瓜、土白果、山白果、鴿子樹、中国鴿子樹、鳩花木、水梨子などという。
2.ハンカチノキの形態
ハンカチノキDavidia involucrata BAILLONは2変種に区分されるが、母変種
Davidia involucrata BAILLON var.involucrataに基づいてその形態を記す。
高さ15~20まれに25mほどまで、直径1ときに2mまでになる落葉高木である。枝は上向し樹冠は広円錐形となる。樹皮は深灰色または橙褐色から深褐色となり常に不規則な薄い裂片になって剥脱する。
幼枝は紫緑色で無毛、当年生枝は深灰色から深褐色を呈する。小枝を折ると不快な匂いがする。冬芽は大きく錐形で、4~5対の瓦重ね状に配列する卵形の鱗片で包まれる。
葉は互生する単葉で枝端に密集してつく。卵形、広卵形、近円形で、長さ8~15cm、幅7~12cm、急尖頭または短急尖頭、先端は僅かに湾曲する。基部は心形から深心形を示す。紙質で、縁に三角形で鋭尖な先端の粗鋸歯をもつ。中肋と8~9対ある側脉
は上面で顕著、下面で隆起する。葉の上面は光沢ある緑色で、初めに僅かに長軟毛を疎生するが後に無毛となる。下面には淡黄色または灰白色で糸状の粗毛を密布する。葉柄は円柱状で長さ3.5~5まれに7cmまで、細長、幼時は短軟毛を疎生する。ふつ
う紅色である。托葉はない。
球形の頭上花序を幼枝の先端に頂生し、その径は約2cm、長い7cmほどの花序柄をもつ。雌雄同株の雑性で、雄花と両性花または雌花を混在する。花序の下に大きい乳白色の総苞をもち、これと花序との間に長さ0.7cmほどの小柄がある。
総苞は2ときに3個の苞葉からなり、紙質で方円状卵形または方円状倒卵形で、長さ7~15まれに20cmまで、幅3~5まれに10cmまで、鋭尖頭、基部は心形を示し、2個の苞葉の小い方は大きい方の長さの約1/2である。中部以上に鋸歯があり、羽状脉と網脉
が明瞭、下垂し、初め淡緑色で次いで乳白色となり、淡黄色に変って花後に脱落する。1個の頭状花序は頂端に両性花または雌花が1個あり、ときに発育しないものがある。球形花序の周囲は多数の雄花が被っている。雄花は長さ6~7mmで、花被はなく
、雄ずい1~7ときに12個までが花托の上に着生する。花糸は、細い錐形で無毛、葯は楕円形、卵形で紫色を呈し、内向する。両性花または雌花にきわめて小さい花被が周囲生でつき、針形で大小不同である。雌ずいは1個で、子房は下位、卵形の花托と
合着し、6~10室、各室に胚珠1個を倒性して下垂する。花注は粗壮で、子房の室と同数に分岐し、その内面の柱頭は外に向って平展する。両性花、または雌花の雄ずいは短い。雌花は不稔である。
果実は石果で、単生し、果柄は粗壮である。果実は楕円形、卵形または倒卵形で、長さ3~4.5cm、幅1.5~3cm、平滑、淡緑色で黄色の斑点がある。基底部に緋紅色の環紋がある。外果皮はきわめて薄く、中果皮はやや厚くて肉質、内果皮(核)は3~5室
があり、骨質で縦の溝紋をもつ。各室に種子1個を含み、外種皮は紙質または膜質である。胚は直立し、子葉は楕円形で葉状に近く、胚根は円柱形、胚乳は肉質である。花期4~5月、果期は10月ごろである。
3.ハンカチノキの変種区分
次の変種区分がある。
(1)
Davidia involucrata BAILLON var.involucrata:分布、名称、形態は母種の記載と同じ。
(2)
Davidia involucrata BAILLON var.vilmoriniana WANGELIN(異名
Dividia vilmoriniana DODE,Davidia involucrata BAILLON var.laeta KRUSSMANN,Davidia laeta DODE):支那の湖北、貴州、四川などでの諸省で、母変種に混在する。
中国で
光葉?桐という。葉の下面は常に無毛、または幼時脉上にきわめてまれに短軟毛および粗毛をもつ。
ときに下面は青緑色で白粉に被われる。葉柄は緑色である。果実の基底に紅色の環紋はない。
Davidia involucrata BAILLON var.laeta KRUSSMANNとされたものは葉の下面が全く無毛で、光沢ある黄緑色を呈し、葉柄は紅色との記載がある。
4.ハンカチノキの材の組織、性質と材その他の利用
散孔材。辺、心材の区別は不明瞭で、材は黄白色から淡黄褐色を呈する。生長輪はやや明らかである。木理は斜行または通直、肌目は精で均質、光沢がある。特に匂いと味はない。リップルマークは認められない。
道管は単独のものが多く、少数の放射方向に2~3個が接続、ときに団塊状となるものがある。分布数は80/m㎡ほどである。単独道管の断面形は円形、卵形、多角形などで、道管の接線径の最大は0.045~0.07ときに0.08㎜または以上を示す。
せん孔板は傾斜ないし甚だしく傾斜し、階段せん孔をもつ。バーは数十条と数が多く、幅は狭く、少数の分岐がある。らせん肥厚はない。接続道管の間の相互壁孔対状配列のものと、少数の階段状配列のものおよび両型の中間型を示すものがある。
壁孔は卵形から長楕円形で、長径は0.012~0.06㎜ある。チロースは見られない。
材の基礎組織をなすのは繊維状仮道管で、長さ1.3~2.5㎜、径は多くは0.02~0.03㎜、壁厚は小さい。これら壁孔は多数存在して明瞭である。軸方向柔組織は量がきわめて少なく、基礎組織中に散在する柔細胞またはその少数個が接続する形で存在する
。
一部の柔細胞中に樹脂様物質が含まれている。結晶は見られない。
放射組織は1細胞のものはやや少なく、多くは2~3細胞幅で、高さは1~41細胞高または以上である。高さの大きいものでは単列部分と多列部分とが軸方向で上下接続して混在する形のものがかなり多い。
構成は異性で、単列のものおよび多列のものの軸方向両端1~2ときに、3細胞層または以上が大型細胞層で、低い直立細胞、方形細胞および、それと丈がほぼ同じで放射方向の長さが短い大型の平状細胞から構成され、その他は通常の小型の平状細胞から
なる。
一部の柔細胞中に樹脂様物質が含まれ、結晶は見られない。水平細胞間道は存在しない。
材の気乾比重に0.56の記載がある。材質数値に次の報告がある。含水率1%当りの平均収縮率は、接線方向0.33%、方射方向0.15%、体積0.50%、縦圧縮強さ379kg/c㎡、曲げ強さ600kg/c㎡、曲げヤング係数9.2×10(4)kg/c㎡、
衝■曲げ吸収エネルギー0.23kg・m/c㎡、ブリネール硬さは横断面5.2kg/m㎡、放射断面3.2kg/m㎡、接線断面3.5kg/m㎡を示す。収縮率と一般の強度はほぼ中位であるが、衝■抵抗値は低い。
加工的性質では、製材、乾燥、切削加工は容易で、乾燥では割れなど品質低下は少ない。材の耐久性は低いと推測される。
材は玩具、彫刻、工芸品などに利用され、また
ヌマミズキ科
Nyssaceaeの
カンレンボクCamptotheca acuminata DECAISNEの材と同様に、建築造作材、一般家具、日常器具、食品包装箱、物指、製図板、パルプ原料などと燃料にも用いられる。
樹は観賞用に中国各地のほか欧米にも植栽され、近年になってわが国に広まっている。